口づけ
「しつけぇって…… おい、大和…… 離せって…… 」
のぞき見をするつもりはなかったのだが。
そんなことを思いながら、由希と辰美は屋上の物陰に隠れていた。 屋上の隅で言い争っていた先輩二人の姿を見つけてしまい、巻き込まれまいと隠れていたのだが。
最初は言い争う声が聞こえていたが、すぐに艶やかな声が漏れてくる。 声をあげて大和から離れようとした昂輝だったが、すぐに引き寄せられ抱きしめられて離れることがかなわない。
声をあげる昂輝の口を己のもので塞いだ大和は肩を叩く昂輝の後頭部に腕を回して逃れられないように固定する。 一度は口を離したものの、すぐに塞いでしまう。
「なんか居づらいね」
隣に座っている辰美に由希はぼそりとつぶやいた。 辰美はというと対して興味がないと持ってきていたパンをほおばる。 何事もないというように昼ご飯を食べ始めた辰美にならい、由希は弁当を広げた。
そばに由希たちがいるなど知らない大和と昂輝はゆっくりと二人の世界へと足を踏みこんでいく。
大和の肩を強く叩いていた昂輝だったが、あきらめたように大和に体を任せてゆっくりとその場に倒されてしまった。 昂輝の制服に手をかけ、ゆっくりとボタンを外していくと昂輝の肌が剥きだしになっていく。
「これ、ぼくたち見てていいのかな…… 」
「勝手に向こうがはじめたんだからいいんじゃない? 俺たちはただ巻き込まれただけだよ」
我関せずの辰美を横目にみつつ、二人のほうへ視線を送った。
上半身があらわになった昂輝の首元に大和は口づけをひとつ。 すると昂輝の左肩に黒い翼の刺青が見え始め、それは一羽の黒いカラスへと姿を変えた。 昂輝の体に刻まれた刻印に何度も口づける大和。
「ちゃんとあるだろ、消えていない」
「わかってる、わかってるけど…… 心配なんだ」
一度、蒼い龍によって消されてしまった大和の刻印。
何度も確認するようにこうやって昂輝を強引に連れだしては自分のつけた刻印を何度も何度も確認してしまう。 どんなに昂輝が嫌がってもこれはやめられないと。
「昂輝を失うのが怖い」
大和の悲痛な声に昂輝は息を吐きだした。 昂輝の胸元に顔をうずめた大和の頭を昂輝はなでる。 その手に頭をすりつけた大和は昂輝を抱きしめる。 大和が納得するまで抱きしめる昂輝。
「ほら、いい加減離れろ。 いつだれがくるのかわからねぇだろ」
気に食わないと昂輝の胸に頬を擦りつける。 何度か大和の頭を叩くと渋々といったように昂輝の上から下りた。