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「えっと弓弦さんでしたよね? 見つかってよかったです。 実は甚一郎さんに近くにいるだろうから見つけてきてほしいと言われていて」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます。 前は甚一郎お兄様に連れてきていただいて場所がわかったのですが一人だとどうしても見つけられなくて困っていたところなのです」
「なかなか入り組んでいますし、迷いますよね」
隣を歩く弓弦をちらりとだけみて由希は先を歩く。
なにを話せばいいのかわからず、無言の世界を歩いてく。 風が木々の間を吹き抜けていく。 葉の散る音が聞こえる。 その中をかき分けて二人で歩いたとき、あのという声が世界の音を遮った。
「この前はありがとうございました」
なんのことを言っているのかわからず首をかしげた由希に弓弦はだってと声をもらした。
「私たち家族の事情なのに怒った大之助お兄様を私は止めることができなかった。 どうすればいいのかもわからなくて…… 私にはお兄様たちのような力はないから。 とても助かりました、ありがとうございます」
弓弦に言われてついこないだのことを思い出す。
大之助の初恋相手のこと。 大之助は由希の父親のことだという。 いまの、ではなく遥か江戸時代辺りに生きていた男だった聞いている。
そして甚一郎によって命を奪われてしまったということを。
それ以降は口を閉ざしてしまった大之助から話を聞くことはできなかった。
「いったい、なにがあったのですか? 大之助さんや甚一郎さんは」
由希の問いかけに瞳を閉じた弓弦はゆっくりと首を左右に振った。 なにも知らない、と口にせずとも語る弓弦の姿に由希はなにも言えなくなる。
「私はほとんど知りません。 ですが、大之助お兄様はその方をとても愛していたと聞いています…… 甚一郎お兄様から」
「そうですか」
そんな話をしながらたどり着くは大之助の家。
無事にたどり着き、安堵の息をもらした由希はそのまま帰ろうと背を向けたが服の端をつかまれた。
「あ、あの、おはぎをいっぱい作ってきていますので、その、よければ、一緒に食べませんか? 」
耳まで赤く染めた弓弦は行ってしまいそうになっていた由希を引き留めた。