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「由希、悪いけど近くに弓弦がいると思うから拾ってきてくれないか? たぶん迷子になってると思うから」
口づけようと顔を近づけてきた大之助の顔を押しながら、甚一郎は答えるもすぐに手を離されて食らいつかれる。 大之助から放れようと体を強く押すもすぐに背中から倒されて、甚一郎は苦しい表情をこぼした。
「あ、その、いってきます」
その獣たちの姿だったが、由希はすぐに視界に入れないように店の外へと繰り出した。
さて弓弦はどこにいるだろうか? あの黒い着物を着た女性は果たしてどこへ?
「近くにいるといいけど」
どこだと辺りを見渡すも近くには見つからず、徐々に森から離れていく。 一体、どこまで行っているのだろうか? 右に左にうろつきながら動き回る由希はなにかにぶつかった。
「すみません」
鼻を打ったと由希が顔をあげるとそこにはひとつの獣。 由希を人だと認識するとにっこりと満面の笑みを浮かべた。 これはやばい、と由希が思ったときには獣の腕の中に由希は収まっていた。
「放してください! 」
口を塞がれて森の中に引きずり込まれる。 奥深くにたどりつくと獣はその場に由希を下ろした。 よく見ると両方の瞳は白い布で塞がれ、唇は黒い糸で紡がれている。 その隙間からちらりと舌をのぞかせた獣は由希の首をちらりと舐めた。
「いい、におい」
由希の頬を舐める。 ねっとりとした舌が由希を襲い、由希の首、二の腕、まくり上げたそこにでてきたへそ、舐めまわす獣にくすぐったいともらした由希。
「おやめなさい」
どうしたものかと由希が思う前にそんな声が聞こえた。 聞き覚えのある声。 獣の後ろに立つ女性に由希はあっと声をもらす。
まさに由希が探していた弓弦であった。 今日は前回と違い、赤い着物に黒色の彼岸花の咲いた着物を着ている。 腕に大きなかごを持った弓弦は獣の後頭部を叩く。
獣はつまらないと唸り声をあげるも由希を解放した。 べたべたする体をこする由希に弓弦がそっとハンカチを手渡してくる。
「うちのがすみませんでした。 これを使ってください」
獣を己のそばに引き寄せた弓弦はその頭を撫でた。 獣はゆっくりとうなずいてその場から立ち去っていく。 なんだったのだろうかと由希は思いながらも腰をあげた。