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「ほら、惚れた男だろう」
由希の口を強引にこじ開けた男は、そのまま顔を上げさせた大之助の唇に押しつけた。
口づける、というよりも食らいついてしまった由希は大之助から離れようとするも由希の頬をつかむ男の力によってそれはかなわなかった。
「ちゃんと舌も絡めろ、そんな口づけだったら赤ん坊でもできる」
由希の後頭部をつかむと大之助から離した。 閉じられた大之助の口を開いた男はもう一度、それに由希の唇を合わせる。
男の力に抗うことができず、何度も口を合わせられた。
つまらないと由希の頭を左右に動かして角度をかえて大之助に口づけを強要する男を由希はにらみつけるも男はただ笑うだけ。
「あぁ悪い、口づけだけではつまらないか」
男は由希に体を押しつけると由希自身に触れた。
突然の刺激に目を細めた由希を眺めつつ、男は己の乾いた唇を舐める。 愛撫を繰り返すと熱が中心に溜まっていき、由希は思わず大之助から唇を離して声をあげた。
「いい声で鳴く」
男のつぶやきが耳に入ってきた。
「もうやだ」
由希が声を絞りだす。
突如襲ってくる快楽に逃げ場がなく、男の手によって声をもらす由希に男は気分が良くなり由希自身を握った手の動きを速める。
「にゃあ」
もうだめだと由希が目を閉じたとき、そんな声が聞こえた。
いつも大之助のそばでにゃあと鳴くものなど一人しかいない。
声のほうへ由希と男が振り返ったとき、黒猫が潜ませていた牙を剥きだしにして男に噛みついていた。
「いってぇぇ」
男が声をだしたと同時にぱちんという音が響くと由希の体は大之助に抱きしめられていた。
黒猫に噛みつかれた男は振り払おうとするも黒猫は一向に離す気配はなく、その鋭い牙を食いこませていくだけ。
「くそが」
男はつぶやくと逃げるようにその場から去っていく。 噛みつかれた黒猫を連れたまま。
「ちょっ、黒猫が! 」
駆けていく男を追おうとした由希を大之助が止めた。
「大丈夫」
なにが大丈夫なのだろうか。
由希が思ったことが顔にでていたのか、大之助は頭を撫でるともう一度だけ大丈夫とあっけらかんと答えてそばに放られたままだった由希の服を拾った。
「あいつ、俺よりもすごいから大丈夫。 むしろ、相手の男が大丈夫か心配だけど」
意味が理解できていない由希の上着をかぶせた。
「あの黒猫がすごいって」
「見た目がかわいいけど、あいつは俺よりも何倍も何十倍も年上だから。 親父の前の前とか数えきれないくらい昔からいるらしいから」
そう語りながら由希のズボンを履かせようとした大之助だったが面倒だとズボンを肩にかけて由希を抱えた。
店の扉を閉めて家の中へと戻っていく大之助にどこへと由希は問う。
「このまま風呂にでも入ろうかと」
ついでにとさらけだしたままだった由希自身に触れた大之助に由希はびくりと体を震わせた。
「これ、このままだときついでしょ」
「いや遠慮します、いいですから、放っておいてください」
聞く耳をもたない大之助に引きずられるように風呂場へと連れていかれた。
それからしばらくしてなにごともなかったかのように黒猫は帰還。 いつも通りにゃあと鳴きながら由希に体を擦りつけてきた黒猫の口からは鉄のようなにおいがした。
「あ、やっぱりだめだったかぁ」
大之助の言葉の意味を問う前に理解した由希は、黒猫だけは怒らせないようにしようと心の底から誓った。