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「なにをって、決まっているでしょう。 大之助お兄様にいい加減、お嫁さんをと思っているのに首を縦にふらないのです」
「だから、いらないっていってる。 興味がない」
「お嫁さん…… 」
由希はちらりと大之助を見つめた。
つい忘れてしまいがちだが、大之助にも嫁がいてもおかしくないのだ。
一度もそんな話を聞いてことがなかったが、そういえばいないことに気がつく。
「あなたは次期当主なのだから、早く嫁をめとるべきです」
「当主!? 」
女性の言葉に由希はまさかと空いた口が塞がらなかった。
当の大之助はというと興味がないとため息をこぼして、己の兄を見つめた。 その視線に気がついた甚一郎は視線をそらしてお茶をすする。
「父上があなたを猫又たちの次期当主にすると決めているのです。 ならば早く」
「弓弦、いい加減にしろ」
そこで初めて由希は目の前の女性が弓弦という名前だと知る。
大之助を兄と詠う弓弦は必然的に甚一郎の妹でもあるということ。 由希の視線に気がついた大之助は弓弦を指さして
「妹の弓弦。 猫又と鬼の子どもで俺のすぐ下になる」
「一体、何人兄妹がいるのですか」
あきれた由希の問いにさあと興味のなさそうに大之助は息を吐きだした。
弓弦は煮え切らないというように台を叩いた。
「私だって甚一郎お兄様がいいと思いますが、父上があなた以外考えられないというので仕方なく」
「弓弦」
弓弦の吐きだした言葉を止めたのは甚一郎だった。
「親父殿が決めたことだ。 それに俺よりも大之助のほうが力がある。 そこを考えて親父殿は大之助を選んだ。 余計なことを言うな」
由希の見たことのない、不愉快だと顔を歪める甚一郎の姿に弓弦だけでなく由希でさえもその気迫に押されて唾を飲みこんだ。
ごめんなさい、と消え入るような声で弓弦はぼそりとつぶやいた。
「大之助、お前があいつ以外考えられないというのはわかる。 だがお前が継がなければ猫又の一族は廃れてしまうだろう、 一族のことを思って考えられないか? 」
甚一郎の口からでたあいつという言葉。
誰のことだろうと由希が視線を大之助に向ける前に、舌を打つ音が由希の耳に入った。 牙をむきだしにして甚一郎をにらみつける大之助の姿が由希の瞳に映る。
眉間にしわをよせて瞳の黒い部分が縦に細くなった。 頬にはうっすらと猫の髭のような形が浮き出てきている。
初めてみる姿に由希は息を飲んだ。