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「もちろん、お互いがお互いの物ですと主張する者もいますが、それでも誰かの目にさらすことはない」
昂輝は求めていなかった。
刻印をつけた者以外の得体のしれないものに刻印をつけられることを。
和也だって嫌だと否定していた。
「刻印に触れられるときって刻んだ者か、それをすり替えようとしている者か。 そのどちらかに別れます」
「大之助さんが言ってた。 いろいろとつける方法があるけど、無理矢理刻むときはうなじを噛むのがいいって」
昂輝さんのときだって。 和也さんのときだって。
二人のときはどちらも拒否していた。
だからあの蒼い龍は無理矢理刻みつけるつもりでうなじに噛みついた。 それも肌が引き裂け、血が溢れるほど強く。
「昔はちゃんと理由があったはずなのに、なんでいまはこんなになってしまったんだろうか」
息を吐きだした百目鬼は立ち上がった。
「仕事に戻る。 本当はもっといたかったですが」
「悪かった、今度なにか詫びでもしようか」
墨の言葉に百目鬼の喉が鳴った。
やらかした、と墨は思ったが遅かった。
にんまりと笑みを浮かべる百目鬼はもう一度、腰を下ろす。 由希の目を塞いだ百目鬼は墨の耳元でささやく。
『今日、楽しみにしてる』
それだけをつぶやくとくつくつ笑った。
「なにを話してるの? 」
「なんでもない。 そういえば由希はいつも何時に寝ているんだ? 」
まったく関係のない話を始めた百目鬼に由希は首をかしげる。
その姿に顔を真っ赤に染めた墨が早くいけと百目鬼をけとばす。
己の愛おしい付喪神の首をなでる。 そこで主張しつづける瞳を何度か撫でると瞳はばらばらながらもまぶたを閉じていき、最後の一つが閉じるとすうと溶けていく。
すぐになにもない墨の首元へと戻った。
「じゃあ、また」
名残惜しそうに去っていった百目鬼を見送る。
ため息をこぼした墨は由希の頭をなでて己の書宅へと戻っていく。
残された由希は己の首をなでてうんと唸り声をもらす。
『赤い炎の気配がする』
蒼い龍にそう言われたのが由希のなかで引っかかっていた。
誰のことだろうか。
ただ一人を除いて思い浮かばなかった。
赤い炎、それがだれかなんて容易なことだ。
でもそれを聞いていいのだろうか。 蒼い龍は知られたくないのだろうと言っていたことを思い出す。
「なんで知られたくないんだろう」
思わず、名前を呼んだ。