刻印2
今日も暑い。
由希は思った。 いつまでこの暑さが続くのか。
家の中でクーラーを効かせながらくつろいでいた由希のそばを墨は通り抜ける。
タンクトップに半ズボンというラフな格好で動き回る墨の額にも汗がにじんでいるのが見えた。 冷蔵庫から飲み物をとりだして飲む墨の首元に目を向ける。
汗のにじむそこを見つめて、ふとついこないだの刻印のことを思い出す。
墨のことだ。 もし墨に刻印がついているのだとしたらあの男しかいない。 それは由希がじっくりと考えなくても容易に想像がつく。
一目でみてついているのかわからない。
「墨って刻印ってついてるの? 」
由希はつい口にした。
その瞬間、ごほっという咳きこんだ音とがしゃんという物の壊れる音が聞こえた。
飲み物が入ってはいけないところに入ったのか己の喉をおさえて咳きこむ墨の姿にやっぱりと由希は思う。
そんな話をしたことはなかったが、この動揺ぶりから墨にも刻まれているのだろう。
「刻印のこと、誰に聞いた? 」
墨は恐る恐ると由希に問う。
聞いてはいけないことだったか、と由希は思うも後の祭り。
正座、と言われて由希はそばまでやってきた墨の前で正座。
「この前、大之助さんのところでいろいろとあって」
「あいつにつけられたんじゃないよな」
大之助の言葉に由希は首を左右に振った。
それに安堵の息をもらした墨は己の胸をなでて由希を抱きしめた。
「それで、墨は刻印ってあるの? 百目鬼さんの」
由希の問い、というよりも確信をこめた言葉に墨は顔をあげた。 その顔は夕日のように真っ赤に染まっている。 顔だけじゃない。 首、耳、二の腕。
由希の見える範囲のすべてを真っ赤に染めた墨は由希から視線をそらした。
「いずれ教えようとは思ていたけども、まさか先にそれを理解する日がくるとは思わなかった。 刻印なんてそんなにいいものではないからな」
「どんなのか見てみたい」
好奇心をこめた由希の瞳に根負けした墨は己の首をなでる。
「正直、あんまり見目がいいものじゃないから見せたくはないんだけどな。 ってか気持ち悪い」
いやだいやだとつぶやいた墨はため息をこぼした。
じろり、そんな音が聞こえた気がした。
なにもなかった墨の首にうっすらとなにかが映ってくる。 黒い、黒い、塊。
それらが一斉に開いた。
「うわっ」
由希は思わず声をあげた。