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「そんなことも知らねぇでそんなにおいをつけていたのか。 そいつはよっぽどお前に正体を知られたくないらしい」

 意味がわからない由希のもとへもう一度降りてきた男は由希の頬に触れて己の頬を擦りつける。 くすぐったいとつぶやいた由希に口づける。

 なんだと由希がつぶやく前に大之助に腕を引かれて、由希の体は大之助の胸に飛びこんだ。

 その姿に男は声をあげて笑う。

「お前からは赤い炎の気配がする」

 それだけを告げて男は姿を消した。

 男が姿を消したことにより大きく息を吐きだした大之助は由希を撫でた。

「どういうこと、なんでしょうか。 あの人って」

 由希を起こした大之助は店の方へと手を引いていく。 つられて歩きだした由希は先を歩く大之助に問う。 大之助は己の頬をひっかきながらゆっくりと歩く。

「はっきりとした刻印はないからわからないけど、かすかに誰かのにおいがするってことなんだろうけど。 俺も言われるまで全然わからなかった」

「なんのことかわからないのですが」

「由希に刻印を刻みつけたい奴がいるってことだよ」

「全然、心当たりがないのですが。 一体、誰のことだろう」

 そこまでは、と言葉を濁した大之助はたどりついた店の扉を開いた。 

「じゃあ、あの人って」

「たぶん、出会うことはあんまりないと思うから別に覚えなくてもいいと思うけど。 龍だね」

 龍と聞いて由希は思わずえっと声をもらしていた。

 由希の頭の中にある龍という生き物は大きな体をうならせ、生物たちの上に君臨すると聞いていた。 よく絵本なんかで出てくるので由希も覚えている。

 ただ、あんな男とは思わなかった。

「龍って絵本とかにでてくるやつ? 」

 奥の居間に腰をおろした大之助はそばに由希を座らせると話を続ける。

「龍っていってもいろいろいるはずだからね、あいつはたぶん水を司る青龍のひとつだろうね」

 それだけと告げると大之助は大きな欠伸をこぼしてすぐに寝息をたてはじめる。

 由希は己の頬をなでながら胸をつかむ。

 一体、だれが刻印をつけたのだろうか。 想像がつかなかった由希は息を吐きだした。

 

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