珍しい人
「助けてください! 」
それは昼下がりの出来事。
店の片づけをしようかと由希が店のほうへやってきたときに入り口で響いた声。 声の主は店の中にいた由希を見つけると真っ先に駆け寄ってきた。
見た目は大之助とあまり変わらない青年。 瞳から大粒の涙をこぼしながら由希にしがみついた青年の後ろから額に角を生やした大男が迫ってくる。
「早く奥に入ってください」
青年を中に引き入れた由希は店の扉を勢いよく閉じた。 肩で息継ぎを繰り返す青年を奥に押しこんだと同時に扉を強くたたく音が店の中に響く。 扉を壊さんばかりに激しい音が鳴り響くと青年はひっと短い悲鳴をあげて身を丸めてしまった。
「由希、なにごと? 」
騒々しくなった店の音に店主である大之助が眠そうな体を起こしながら奥から出てきた。 後頭部をひっかきながらやってきた大之助はそばでうずくまっていた青年と激しい音をたてる扉を抑える由希の姿に大体察した大之助は扉から由希をひっぺがし、扉を勢いよく開いた。
「中でおとなしくしていて」
そう告げて外に出ていった大之助を見送った由希はうずくまる青年の背中に触れた。 びくりと震えた青年に大丈夫と答えると青年はゆっくりと顔をあげた。
「もう大丈夫ですよ、安心してください」
「ありがとうございます、助かりました」
由希が青年を起こしたとき、あることに気がつく。
淡い色をもつ肌、黒い髪に瞳。 どこを探しても見つからない角や尾。
そんな由希の視線に気がついたのか青年はあぁとうなずいてにっこりと笑った。
「助けてくれてありがとう。 俺は和也」
「初めまして、由希といいます」
青年をそばに座らせた由希は奥から飲み物を持ってきた。
それを受け取った青年の隣に由希は腰をおろす。 辺りに散らばっていた物を端によせる。
「人、ですか? 」
由希の問いかけに和也は首を横に振って少しだけとつぶやく。
「母親が人なんだ。 父親は付喪神で母親の血のほうが強かったみたいでほとんど人と変わらないよ。 君こそ人だよね? 」
「僕は生粋の人です。 ここでアルバイトをしています」
由希から受け取った飲み物を口につけた和也はふうとため息をこぼす。 身を震わせてもう一度ため息をこぼすと疲れたと吐きだす。
「お互い大変ですね」
由希の言葉に和也はまったくだとため息をこぼした。
「人や人に近いだけで襲われるなんてたまったものじゃない! ただ普通に生活しているだけなのに」
ため息と同時にぽつりと涙をこぼした和也は目元を拭う。
痛いと肩を回しながら入り口から大之助が戻ってくる。 由希を見つけるとその隣に腰を下ろした。