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「二名だ」
塀を駆け抜けた先に小さなお店の前で猫又は止まった。 店の前にはおすすめと書かれたポスター。
コーヒーから始まり、紅茶、カフェオレと並んでおり、そばにはケーキセットの文字。
看板には猫日和の文字が。
おそらく喫茶店かなにかだろうと由希は辺りをつけた。 猫又が扉を開けるとからんからんという鐘の音が店の中に響き渡る。
猫又について由希も店に入るといらっしゃいという声のかわりににゃあという声が聞こえた。
雪のように真っ白な毛並みをもった猫が由希たちを出迎える。 その猫に人数を伝えると猫はもう一度鳴いて、店の奥へと由希たちを誘う。
「ここってなんのお店ですか? 」
「ここはな、かわいこちゃんがわんさかいる店なのさ。 いつも癒されるためにここにきている」
どんな店なのかわかっていない由希に猫又はいいからと案内された部屋のなかに由希を押しこんだ。
六畳の部屋に掘りごたつ。 こたつの上にはかごにはきれいに並べられた甘いお菓子が見える。
そこに腰をおろした猫又は由希を手招きする。 猫又の前に腰をおろした由希を確認して猫又はお菓子を一つ、ほおばる。
「かわいこちゃんってなんですか? 」
「もうじき来るから焦るなって。 ここは俺のおすすめだからな、好きな子を撫でさせてもらえ」
由希が首をかしげたのと部屋の扉が開くのは同時だった。 にゃあと鳴いた先ほどの白猫のそばには何匹もの猫たちの姿が。
器用にお盆に乗せた飲み物を台のうえに置いた白猫は深々と頭をさげてでていく。 残された何匹もの猫たちは猫又と由希に群がった。
「猫がいっぱい」
「ここはかわいい猫がいっぱいいる、猫屋敷だからな」
かわいいと猫又は己の尻尾を左右に振りながら、膝に乗ってきた猫を撫でる。
由希のそばにやってきたのは、たまに町中でみかける三つの毛をもつ猫だった。 頭をなで、顎をなでると気持ちがよさそうににゃあと鳴く。
由希に体を擦りよせてくる三毛猫にかわいいとつぶやいた。
「猫がいるお店にきたのは初めてです」
「そりゃよかった。 ここは猫たちがいる店のなかでも老舗でな、ずっと昔から俺は通っているのさ」
かわいいと猫の腹に顔を埋める猫又の姿に由希は思わず笑った。