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由希が家に帰り着いたころには百目鬼はすでにいなかった。
墨はというといつもと変わらず、台所で夕飯の準備をしている。 ときおり、腰を叩きながら今日の晩御飯であろうハンバーグのたねを丸める。
「墨、ただいま」
「おかえり。 すぐに晩御飯の準備をするから食器をだしていてくれ」
いつもより少し低い声で答えた墨にはなにもつっこみをいれることもなく、いつものように食器を並べると墨が台所からやってきて由希を抱きしめる。
「由希、頼むからあいつが来たときはお前も家にいてくれ」
「昔馴染みって言ってたからいろいろと話したいことがあるんじゃないの? 僕がいたら邪魔かなって思って」
「邪魔じゃないからいてくれ、本当に、お願い」
墨の必死な言葉に由希はどうしたものかと首をかしげた。 勘弁してほしいとため息をこぼす。 本人は気がついていないように由希は見えた。
本当に嫌なら家にはあげないし、相手なんてしない。 由希を助けたときも、わざわざ連絡をとったりなんてしない。
頭がいいようで己のことに関してはバカになってしまうのだろうか。
「墨、お腹すいた」
「お、悪かったな。 すぐに出来上がる」
由希の言葉に墨は台所に戻っていく。 義理の父親の後ろ姿を見送った。
「本当に、父親が三人になるのかな」
ぽつりとつぶやいた。