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「じゃあ僕は邪魔になるかもしれないから、大之助さんのところにでも行ってくるよ」
「由希、置いていくな。 だぁもう、しつこい!! 」
がちゃりと扉の閉まる音が墨の耳に入った。 由希のいなくなった家に墨のため息が響く。 墨の髪をなでながら、百目鬼はかわいいと額に口づける。
離れようとする墨の腰に腕を回し、逃げられないように墨に口づけをせまった。 当然、嫌だと告げる墨に百目鬼は口をへの字に曲げる。
「いい加減にしろって」
「あなたも。 いい加減、私の思いに答えてくれてもいいではないか」
昔からの付き合いなのだからとつぶやく百目鬼に墨は顔を押し、離れた。 湯呑をシンクに置いて墨は寝室へと戻っていく。 そのあとを百目鬼が追う。
目の前で閉められそうになった寝室の扉に指を滑りこませ、力任せに開くと呆れたと瞳で語る墨の姿があった。
「だいたい、俺のどこがよかったのか」
「昔、あなたと初めて出会ったころから惚れている。 あなたほど興味を示した相手はいない」
「付喪神として初めて人型をなしたときにお前が俺にどんな酷いことをしたのか覚えてないのか」
ため息をこぼしつつ、寝室のベッドに腰をおろした墨の前に腰を下ろした百目鬼は右手を己の左手に墨の右手を乗せて手の甲に口づけをひとつ。
手の甲、手首、二の腕、鎖骨、首。 ゆっくりと上へと上がっていく百目鬼の唇に墨は身を震わせた。 最後に墨の唇に重なったとき、墨をベッドに押し倒す。
否定の言葉を墨が吐きだしそうになったとき、百目鬼はそれを手で塞いだ。
「あいにく、ここまできて否定の言葉は聞きたくない」
墨の首に触れ、衣服の中に手を忍ばせる。 びくりと体を震わせた墨の姿に相変わらずだと百目鬼は心の中で思った。
付喪神となったころ、まだ人型が安定していなかった墨を百目鬼は力づくでものにした。 いまのように大人の姿ではない、見た目は由希ぐらいの大きさである墨を。
一目見てきれいだと思った、ただそれだけの理由で。
「初めて抱いたころから、あなたは変わらず美しい」
百目鬼の言葉と漏れる熱い吐息に墨はゆっくりとまぶたを閉じた。