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「大之助さん、兄弟って」
大和の翼を折りたたんでなでる大之助に由希は疑問をぶつけた。
その場に崩れるように体を倒した大和からはすぐに寝息が聞こえてくる。 疲れたのだろうと大之助は大和の上に己の着ていた服をかぶせた。
そんなことがあったすぐあとに黒猫がにゃあと戻ってくるとすぐに三つカラスとどこかへ行ってしまう。
大之助はつまらなそうにため息をこぼすとあれは兄弟だとつぶやいた。
「あの三人は俺と半分だけ血のつながった兄弟、一応ね。 大和よりも年上になるけど、俺よりもだいぶ年下」
「兄弟ケンカをしていたってことですか」
驚きと疑問で首をかしげた由希をちらりと見つめて、そばへくるように促した。 意味もわからず、言われたとおりに近づいた由希を胸におしこむ。
「兄弟ケンカって簡単に済ませられるほど単純なものでもないけど」
寝息をこぼす大和の頭を大之助がなでると大和が笑みを浮かべる。 それに答えるように笑みを浮かべている大之助の姿に由希は兄弟っていいなと思った。
一人っ子で、親も小さい頃に亡くした由希にとって血のつながりというものに少しあこがれをいだいていたが、大之助と大和にとってはそうでもないように瞳に映った。
「大之助さんと大和さんって何歳違いですか? 」
由希の問いに大之助は己の指で数えていく。 親指、人差し指と倒して首をかしげる。
「忘れた。 百は確実に離れていた気がするけどね」
「そんなに離れているんですか!? 」
大之助の言葉に由希は声をもらした。 ううん、と体を揺らした大和を起こさないように口を塞ぐとすぐに寝息が聞こえてくるように。
「うん、だって大和が生まれたのがたった二三十年前の話だし」
「大和さんも意外に年が」
「ううん、妖怪のなかでは若すぎるぐらいだけど。 人で表すとやっと一人で立つことができるようになった赤んぼぐらいだし」
大之助の言葉にそうだったと由希は思い出した。
妖怪や妖たちは人と違ってとても長生きをすることを。 人が生きても百年に対して、千年生きたと言われた妖怪ですらいる。 墨でさえ数百年となるのだ。
この目の前の妖怪だってそれぐらい生きていても全くおかしくはない。
そのことを思い出したとき、この妖怪たちよりも早くに自分は死ぬのかと由希はあらためて実感した。