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「ほら、食べるぞ」
ソースをかけて由希の前に差しだすと、ためらいながらも由希は目の前のハンバーグを一口。
食べたと同時に目を輝かせた由希は一度だけ墨を見上げて、すぐにがつがつと食べ始めた。 口の周りにソースをたっぷりとつけた由希の姿に墨は思わず吹きだす。
「なにかおかしいの? 」
首をかしげた由希の姿にかわいいなと心の底から思った。
〇月✕日
今日は由希とお出かけ。
油断すると由希が誘拐されそうで気が気じゃなかった。
「いいか、由希。 いい子だから絶対に手を離すなよ」
墨の言葉に由希はうなずいた。 右手をぎゅっと音が聞こえそうなほど握りしめてきた由希の頭を墨は撫でる。 もう片方の手にかごをもった墨は店の中を見渡して歩く由希をちらりと見てほしい物を手をつないだままかごの中に放りこんでいく。
人である由希が珍しいのか、行き交うものたちから好奇な視線を向けられる。 ときには舌なめずりをしているものもおり、由希はびくりと肩を震わせた。
そんな由希を知ってか知らずか手を握る墨の手にも力が入る。
「うかつに目を離すとこりゃ由希は誘拐されるな」
思わず口からこぼれた。
徐々に混雑してきた店の中を動き回る付喪神と人に対しての視線が厳しくなる。 人だ、という言葉が聞こえたとともに墨の肩を誰かが叩く。
そこには墨でも見たことのない蛇の男。 と同時に由希をつかんでいた手が離れた。
「由希! 」
抱えられていく由希の姿に墨は思わず叫んだ。 いきなりのことに思考がついていかない由希はただ口を開いて涙をぼろぼろとこぼす。
「由希になにをしやがる!! 」
墨の飛び蹴りが由希を抱えたものの背中に直撃した。 落ちそうになった由希をひっつかんだ墨は涙をこぼす子どもの頭を何度もなでる。
「もう帰るぞ」
由希を攫おうとしたものを何度も踏みつけてレジへと並んだ。