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「由希ってやつはいるか」
四限が終わり、辰美とどこでご飯を食べようかと考えていたとき知らない声が由希を呼んだ。 一体、と教室の入り口に立っていたのは犬神の子ども。
昂輝が由希のいる教室を訪ねてきていたのだ。
「なんだろう」
突然現れた昂輝によって教室は静まり返った。 そんなことは露程も気にしていない昂輝は教室を見渡して由希を見つけると、由希と辰美がなにかをいう前に由希を抱えて教室からでてしまった。
「あいつ、なにをしたんだろ」
「半殺しになるんじゃね? 」
そんな物騒な言葉が耳に入ってくる。 思わずごくりとつばを飲みこんだ由希を昂輝は男子トイレに引きずり込んだ。
唯一ある個室に押しこむと由希を蓋の閉まった便座に座らせる。
「てめぇのどこが、いいんだ」
「あの、なんでしょう」
由希の言葉は聞こえないというように、頬に触れて首に触れて、唇に触れて。 胸に触れて、腹に触れて、太ももに触れて。
一つずつ確認していく昂輝だったが、なぜ大和が由希のことを気にいっているのかわかっておらず舌を打った。
「なにがいいんだか」
由希の制服のボタンを器用に外していく。 千切るのではなく、一つ一つ丁寧に。 その動作があまりにもきれいで、脱がされているとわかっていても見惚れてしまった。
ボタンをすべて外し終えると、前をくつろがせる。 下に着ていたシャツをまくりあげて、素手で由希の胸に触れた。
「柔らけぇ」
ぽつりとつぶやく。 由希の背中に腕を回してその胸に顔を埋める。
「大和と同じくらい、いやそれ以上か」
由希の肌の柔らかさにしばし時を忘れて触れていた昂輝はふと、由希の首に触れて、ふんと鼻を鳴らした。
「なんだ、これであいつを誘惑したっていうのか」
納得すると一人でつぶやきつつも、由希の腹に触れて右に横一文字。 ぴりりとした痛みがその場に駆け巡り、由希は目を細める。
痛いと声をもらすよりもじんとそこからくる痛みに涙を浮かべた。
「昂輝! なにをしてんだ」
トイレの扉を叩く音が聞こえた。
「由希を連れていったって由希のクラスの奴に聞いたからな。 由希になにもしてないだろうな」
大和の声に舌を打った昂輝は由希のはだけさせていた前を留めていく。 壊れるのではないか錯覚してしまうほど扉を強く叩く大和に由希は思わずびくりと体を震わせた。
きれいにボタンを留めてしまった昂輝はトイレの扉を開いた。 急に開かれた扉にうわっと声をもらした大和を目に写した昂輝は腕を大和に絡ませる。
「大和がこいつを気にしているのが気に食わない」
大和の首に口づけ、腕を腰に回した昂輝の姿に大和はため息をこぼした。 それからなにも言わずに首に顔を埋めたままの昂輝の姿をちらりとだけ見て、由希のほうへ向き直る。
二人のやりとりを呆然と見ていた由希の瞳に大和はあぁと声をもらした。
「なんともないなら、良かった。 お前が昂輝に連れていかれたって聞いたから」
「大丈夫、です」
悪かったと頭を下げた大和は昂輝の腕を引いていく。 その昂輝が大和を愛おしそうに見つめていたのを由希は見つけてしまった。