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ヒカルとラヴィアの冬の夜

 夜が更けると雪が降り始めた——と先に気づいたのはラヴィアだった。


「わたし、雪には敏感なの」


 そう言った彼女を、ヒカルはなんとはなしに見つめる。

 今日はポーラは教会に泊りがけで行っている。「信仰の集い」なるものがあるようで、夜通し祈りを捧げるのだとか。


 ——なにもこんな日にやらなくていいのに。


 とヒカルが思ったのは、今日が12月の25日だったからだ。もちろん、クリスマスなんてこの世界にはないのだけど。


「雪……ほんとかな?」


 半信半疑でヒカルがホテルの窓を開くと、外には細かな銀の粒が舞っていた。


「ほんとだ。よくわかったね」

「ふふ。空気がね、針のような冷たさを帯びるのがわかるの」

「部屋の中は暖房が効いてるんだけどな。——ううっ、さむさむ」


 窓を閉じると、魔道具による暖房のありがたみがよくわかる。


「……雪が降るとね、とても静かになって、本を読むのに集中できるの。本を読んでいる間、わたしは自由だったから」

「…………」


 改めて問う必要はなかった。ラヴィアの言っているそれは、彼女が孤独に過ごしていたモルグスタット伯爵邸での日々のことだ。

 出会ったときの彼女が、痩せっぽちだったことを思い出す。軟禁されていたとはいえ、食事は十分にあったはずだ。

 それでも彼女は細かった。

 細くて儚くて、触れれば折れてしまいそうだとヒカルは思った。


「……ねえ、ラヴィア。雪が降るとさ、僕のいた世界では雪合戦というのをやるんだ」

「それはなに? 戦うの?」

「ある意味はね。雪玉を作って投げ合うんだよ」

「まぁ……大人もやるの?」


 大人はやらないけど、と言いかけてヒカルは考える。大人も混じって雪合戦をしたらきっと楽しいのにな、と。


「やる大人も、いたと思うよ」


 どこかにはいただろう。

 現実的な話をすれば、YouTuberとか。


「明日、やってみようか?身体が凍えて寒くなったら、あったかくて甘いものを食べるんだ」

「ココアとか?」

「いいね。——米はあるし、小豆があればぜんざいもできるんだけどな。黒くてつぶつぶしていて、とても甘いんだ」

「ヒカルが言うのだからきっと美味しいのね。食べてみたい」

「いつかごちそうするよ」

「ほんとう?」

「ああ。未来の可能性は無限大だ」


 ヒカルはソファに座るラヴィアの横に腰を下ろした。


「一緒に作ったっていいしね」

「うん! とても楽しそう!」


 にこにことするラヴィアを見て、ヒカルも目尻が下がる。


 ——ラヴィアの四季を、1年を、毎日を、楽しい思い出で上書きしてあげたいな。


 そう、思った。


 ——この世界にはサンタクロースはいないけど、僕がラヴィアにプレゼントをあげることは自由なはずだ。


 するとラヴィアが身を乗り出して、ヒカルの頰に口付けた。


「ありがとう、ヒカル。こんなものしか返せないけど……わたしにできることがあればなんでも言って」

「君はいつだって大きすぎるほどのものをくれているよ?」

「んーん、わたしが納得できないからね、それだと。そうだ! わたしの火魔法で敵の雪を一掃すれば雪合戦に勝てるんじゃない!?」


 うん、そういう戦いじゃないからね、とヒカルはそれからやたら乗り気なラヴィアを説得するのだった。


これにておしまい。続きはなにかあったら書くかも!

皆さんもよいクリスマスを(あと3時間半でクリスマスは終わる)。

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