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「東方四星」セリカの夢見

クリスマスショートストーリー、3本、お楽しみくださいませませ。

 がばっ、と彼女が身体を起こしたとき、まだ日は昇っておらず室内にはひんやりとした冷気が漂っていた。


『はぁ、はぁ……夢……あぁぁぁもう最悪、なんで今さらあんな夢見るかなー』


 日本語でそうつぶやくと、ぼふりとベッドに再度横たわった。

 ポーンソニア王国王都にある「東方四星」のアパートメントであり、セリカの私室である。

 ふんわかしたベッドには多くのぬいぐるみが転がっており、それらはムッチリと太っていて抱き心地が大変よろしいものばかりだ。


『……ま、夢、っていうか現実の記憶みたいなもんだけどね』


 彼女が見ていたのはこの世界に転移してから、自分の身に降りかかったこと。

 大森林のど真ん中にいた彼女は高校の制服姿。

 襲い来る魔物への対抗手段なんてなくて、ぎりぎりで開眼した精霊魔法のおかげでなんとか生き延びた——そのときのサバイバルはもう、思い出したくもない。


「あら、セリカ。珍しいね、こんなに早く起きるなんて」


 結局眠れずに、部屋から出て行くとリビングルームにはソリューズがいた。


「人を寝坊の常習犯のように言わないで欲しいものだわ!」

「ふふふ。時間通りに起きたことがない人にそう言われてもね? ——お茶飲む?」

「いただくわ!」


 こちらの世界の言葉はどうにもいただけない。力加減がわからないので周囲からは「怒鳴っている」ように聞こえるらしい。

 同じ転移者であるヒカルは上手に操っているだけにいっそう腹が立つ。


「もう今年も暮れねえ」


 ソリューズがお茶を出してくれる。

 外は雪が降っており、ただでさえ静かな明け方は、死のように静まり返っていた。


『あ……今日、24日だっけ』

「? セリカ?」

「なんでもないわ! こっちでは12月25日になにかイベントとかあるの——ってあるわけないわよね!」


 アレはあくまでもキリスト教の祝祭である。


「あるよ?」

「あるの!?」


 意外な答えが返ってきた。


「かなり古くから伝わっているのだけど、12月の24日から25日にかけて、赤い服を着た男がプレゼントを配って歩くの」


 ガタッ、とセリカの腰が浮いた。

 転移者だ! 絶対転移者が始めたイベントだ!


「? セリカ?」

「あ……大丈夫よ! それで、それだけなの!?」


 自分たち以外にもいるのだ——いたのだ、と思うとなんとなくうれしくなるのも仕方がないというものだろう。


「でもね、その服の色が赤いのはね……返り血を浴びたからなの」

『はい?』


 日本語で聞き返していた。


「プレゼントをもらえるのは子どもだけでしかも女の子限定なんだけど、子どもはプレゼントの見返りを払わなければならないの……そう、はいている下着を」

『今なんて?』

「でなければ赤い服を着た男は、女の子の初めてを奪ってしまう——そしてその血がついたのが服の色で————」




 がばっ。


『はぁ、はぁ…………夢の中の夢って……最悪…………しかもなんていう夢を見てるのよ』


 彼女が身体を起こしたとき、まだ日は昇っておらず室内にはひんやりとした冷気が漂っていた。

 全身に冷や汗がくっついている。なんという、なんということをやらかしてくれたのか、転移者は——と思ったが、夢なのだとわかってある意味ホッとした。


「…………で、アンタ何者よ!」


 セリカが見たのは、部屋の隅に立っていた赤い服を着た男だ。

 見ると、部屋の窓のカギがこじ開けられていた。


「くっくくく……俺は12月25日に現れる、赤い服を着た『惨憺たる苦労する』だ。プレゼントが欲しければお嬢ちゃん、キミのはいている下着を——」

「……『突風の一撃(ウインドショット)』!!」

「へぶおっ!?」


 赤い服を着た男は廊下へと吹っ飛んでいった。

 こうして、王都を騒がしていた12月25日の怪人は捕まった——ということである。




 捕まえた本人である高名な冒険者は後に、こう語ったという。


 ——アタシを子ども扱いするとはどういう了見よ!


 と。

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