幕間(サンとエウラリア)
目も眩むような陽射しの下で、ふたりの女性が連れ立って歩いていた。
ひとりはほっそりとした小柄な女性で、抜けるように白い肌と銀色の髪を持つ楚々とした美人だ。
もうひとりは日に焼けた大柄な女で、太陽のように輝く金色の髪を無造作に束ねている。その身なりも女性らしさとは程遠く、動きやすい男物の軽装に編み上げの靴を履き、小汚い布で包まれた身の丈ほどの棒状の何かを背負っていた。
金髪の女はふいに足を止めると、ゆっくりと周囲を見渡した。
ここはアデルバイトが王都、オルスレインにある目抜き通りである。左右には洗練された佇まいの宝飾品店や老舗の仕立て屋、さらに洒落た茶店や清潔そうな食堂などがずらりと軒を連ねていた。
整備された道を行き交う人々の顔は皆明るい。物乞いや浮浪者なども見当たらない。
往来で突然立ち止まってしまった同行者に、隣を歩いていた小柄な方の女性が怪訝そうに眉を顰めた。
「―――どうかしましたか、サン」
サン、と呼ばれた体躯の良い女は、意志の強そうなはっきりとした顔立ちに皮肉気な笑みを浮かべていた。
「いや、沈みかけの我が国とは大違いだと思ってね。これで建国からまだ数百年と言うんだから脱帽だ。周辺国からやっかまれるのも無理はないよ。―――エウラリアも、そう思うだろう?」
儚げな印象の女性は賑やかな街並みを一瞥すると「そうですね」と頷いた。
「おそらく、土地にも恵まれているのでしょう。この国には豊富な水源と地下資源がありますから」
「瀕死の国からしてみれば、咽喉から手が出るほど欲しいだろうな。頭でっかちの先人どもはつくづく残念なことをしたよ」
それから周囲を警戒するように声を顰める。
「―――それで、ケンダルのクソジジイはなんだって?」
エウラリアも心得たように小さく告げた。
「夜明けとともに西から飛んできた渡り鳥が空に瞬く小さな星を奪って行った、と。アデルバイドから見て西の方角にはファリス、夜明けの鳥は【
予想通りの内容に、思わず舌打ちが漏れる。
「ったく、あの薄らハゲ、油断したな」
「もうお年ですからね。今度からはただのハゲでいいんじゃないでしょうか」
しとやかな外見に反して辛辣なことを告げるエウラリアを横目に、サンは小さくため息を吐くと、がしがしと豪快に頭を掻いた。
「こっちは
「それは大丈夫でしょう。彼女は昔から気丈ですから。それよりもユーリが心配です。いくら大人びているとはいえ、あの子はまだ子供なので」
エウラリアの発言にサンは思わず眉尻を下げると「そうだな」と同意した。
「まさか、囚われのお姫さまが二人になるとはね。まったく、どいつもこいつも厄介なことをしてくれるよ」
問題は山積みだったが、
そのため二人は大事なあの子を塔に残して秘密裡に出国してきたのだ。
「急ごう、エウラリア」
サンはそう言うと、ふと頭上に広がる澄み切った青空を見上げた。それから祖国―――ファリスがあるはずの遥か西方を強い眼差しで睨みつける。
「早くしないと―――手遅れになる」