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翌朝は朝一で王城に出仕。驚いたのは王城に入った後だ。なんかあちこちに戦闘の跡がある。これだけの戦いが起きていたことも驚きだがそれが王城の城壁一つ跨ぐとほとんど感じられないのも凄い。
誰が主導してるのかわからんが情報統制力と言うか統率力すごいな。
いつもの手順をややハイペースで進めて王太子殿下の執務室に入室。殿下もこの後予定が詰まってたりするんだろうか。そう思いながらいつものように礼をする。
「ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト、参りました」
「よく来てくれた、ヴェルナー卿。そしてよくやった」
第一声がお褒めの言葉とは驚いた。恐縮しておく。
「恐れ入ります。ですが、私一人の成果ではありません」
「フィノイの件ではない。アーレアの件だ」
予想外の発言に不思議そうな顔を浮かべてしまう。表情だけで意味を伺うと殿下が説明をしてくれた。
「まず、勇者マゼルの家族を守った点、これは称賛に値する」
「恐縮です」
「それと、マゼルの妹が拉致されかけたときのことをおぼろげながら覚えていた。卿が家族を先に王都に送り届けてくれていたため、事情聴取の際に彼女から詳しい話を聴けていたのがなければ被害はもっと大きくなっていただろう」
「それほどの話がありましたか」
“何か”を飲み込まされそうになったリリーさんは『素体』『復活』と言う単語は覚えていたらしい。素体と言う言葉の意味は解らなかったそうだが。記憶力の良さも兄譲りかね。
そしてあの黒い宝石には何らかの魅了するような得体の知れなさがある、ということも魔術師団長からの報告にあった。専任で調査をしていたピュックラー卿の様子がおかしい、という疑いもある。
そして王都にあるはずの黒い宝石の一つがアーレアで回収された。もう一つも無事かどうかはわからない。それらの情報を集約した王太子殿下の回答は一つだったようだ。
「おそらくあの黒い宝石は魔族の魂のようなものなのだろう。素体と言うからにはあの黒い宝石は犠牲者の肉体を乗っ取るか、操ることができるとみてよい。そして一つが持ち出されていた以上、最低でも誰かが既に魅了されていると判断できる」
「なるほど……」
「それに、卿の調べていたマンゴルトの件も参考になった。卿の情報を基に調査をしたところ、マンゴルトと接触していたフードの男がピュックラーだということが判明したので、すべてつながった」
納得するしかない。そしてゲームで魔軍三将軍が復活してきた理由もわかった。コアを破壊しないと復活してくるタイプの敵だったってわけ……ん?
ちょっとぞっとした。もしも肉体を乗っ取るような形で三将軍が復活してきたんだとすると、アーレア村でリリーさんが食わされそうになってたのはドレアクスの
もしそうなったらフィノイかどこかでマゼルが妹の身体を奪った
黒い宝石の危険性は説明する必要があるからマゼルに話すのはしょうがないが、リリーさんには言う必要のないことだな。黙っておこう。
それにしても、だ。ゲームで復活し最後に登場した三将軍の肉体は誰のだったのか。ひょっとしたら
この想像が正しいとすると魔物暴走で王国軍大敗、騎士団壊滅なんて事態にならなかったことでこのストーリーの変化が始まっていたのかも。考えると色々怖い感じもする。
さらに別の疑問が浮かぶ。王都襲撃の内容だ。仮にピュックラー卿が俺と会ったあの時には既に魔族に乗っ取られていたのだと仮定してみる。時間軸で言えばまだラウラが勇者パーティーに参加する前からだ。
ゲームであの黒い宝石は出てこなかったが、魔物暴走を操った魔族がいた場所を王国が調査すればマゼル以外の誰か調査員が拾うこともあっただろう。もしそうなら実はゲームでも早い段階で魔族は王都の中に入り込んでいたということになる。
四天王の王都破壊イベントは外からの襲撃だけかと思っていたが、実は城内でも魔族が暴れていたのかもしれん。だがそうなると何のためにという疑問が湧く。
ゲームではマゼルの国王即位のための
思わず考え込みそうになったが意識的に疑問を追い出す。今考える事じゃない。王太子殿下の話が続いているし。
「ピュックラーと接触した相手を丹念に追うことで王都内にいた怪しい者たちを選別することもできた。昨日のうちに衛兵や騎士団の働きによって城下の方は大体は片付いたのだが」
「何か問題がありましたか」
「ピュックラー、いや、ピュックラーの身体を乗っ取っていた魔将ゲザリウスと名乗った相手には恐らくだが逃げられた。包囲が完成する前に功績争いから先走る者が出たのは痛かったな」
殿下が自嘲していたが俺はそれどころじゃない。ゲザリウス? 誰だそれ!? そんな名前ゲームに出てこないぞ。
俺の知っている魔将軍はドレアクス、ベリウレス、それに後半に出てくるアバドラスの三将軍だけだ。ゲームにはそんな名前の魔将は間違いなく出てこない。いやちょっと待てよ。
魔王城の最終決戦前、ボス連戦マップで四つの扉を守るのは復活三将軍だった。単に扉と扉の間にある部屋を守衛しているのかと思っていた。けど本来は文字通り門番だったのだとしたら。四つの扉をそれぞれ守る魔将軍だったのか?
メモリの都合でもあったのかゲームではカットされた四人目の魔将が現実には存在している、と言うのならその部分はひとまず納得はできる。できるんだがそれでもいろいろ疑問はあって頭の中がぐちゃぐちゃになってるがひとまず全部後回しだ。
情報もなしに考えてもしょうがないんで今は説明してもらえる内容の方が重要。
「おそらく、と言うのはどういう事なのでしょうか」
「魔術師隊や近衛、城の衛兵らが囲んで致命傷かそれに近い傷を与えたのは確かだ。だが相手は王城の城壁を越えた後に姿を消し、あの黒い宝石も見つかってはいない。卿はどう見る」
「あまり想像したくありませんが、人の姿に戻ることもできる事を考慮すべきかと」
「私も同感だ」
もし人間の姿に戻れるとなると王都の人口の中から一人を探し出すのは流石に骨だ。魔除け薬も魔将クラスには効かないだろうし。って言うか魔将ってゲームだとそもそも避けられないボスキャラなわけだが。
それにしてもゲームじゃそんな設定きいたことがない。それともそれはそのゲザリウスとか言う奴が持つ特殊能力か何かだろうか。いずれにしても考えなきゃいけないことが増えたな。
「こちらにも損害が?」
「死傷者や行方不明者も相応に出ている。ピュックラーが怪しいとまでは周知していたし、警戒もしていたが、魔将クラスが問答無用で研究所内で正体を現し暴れだすのは流石に想定外だ」
だろうなと俺も思う。ごまかし一切なしでいきなり暴れだされたんじゃ兵士に被害が出るのも避けられないだろう。フィノイ強襲に失敗したということが分かった時点で向こうも警戒していたのかもしれない。
しかも詳しく話を聴くと内側からピュックラー卿の身体が膨らむと破裂するように魔将が現れたらしい。目の前でそれ見たら普通は思考停止するか。冒険者とかでも驚くかもしれん。
しかしそうか、ある程度準備が整っていれば騎士団や魔術師隊でもゲームのボスクラスと戦えるのか。この辺もゲームとは違うな。それが再確認できたのはむしろ良かったと思おう。
ふと気が付いたのはボスなら取り巻きが周囲にいてもおかしくないはずだということだ。ひょっとするとゲザリウスとか言う奴は逃げたのではなく、あの黒い宝石だけを取り巻きが持ち逃げしたのではないだろうか。
初めから計画していたとまでは言わないが、そのぐらいの保険はかけてあっても不思議じゃない。だとすると行方不明者の中に変装した魔族がいたのではないかとも思うが、これは後で確認すればいいだろう。
そういえば何で魔王が復活したのかも謎と言えば謎なんだよな。もし魔王も同じように何者かの身体を乗っ取る形で復活したのだとしたらどうなんだろうか。いやだからそういうのを考えるのは後だ後。
「対範囲魔法研究の方への影響は大丈夫でしょうか」
「幸か不幸かまだ研究中だったのでな」
実害はなかったという事か。研究者が無事なら問題なしと考えていいんだろう。逆に言えばあんまり進んでないとも言えるのかもしれんが、被害が軽微ならまあ良しとするべきだろうな。下手に進んでいたら逆に魔族に警戒されたかもしれんし。
「そういえば、魔将はどのような外見でしたか」
「外観は人間と獅子を合わせたような姿だ。動きも素早く力も強かった。だが何より面倒だったのは跳躍力が高くてな」
あれ、と言うことは。
「……旧トライオット方面が危ないでしょうか」
「よく気が付いたな。いや、卿はそれも調査済みだったか?」
殿下が驚いた表情を浮かべている。ゲームだとトライオットがあったあたりのフィールドで
「トライオットの難民たちから人狼などに襲撃されたという話は私も調査済みだ。もし奴が健在なら卿が危惧したように奴がそちらに逃れて戦力を整えていると考えてよいだろう」
「そうなると、トライオットに隣接しているクナープ侯の領地がまず危険では」
「だが貴族家領だけにうかつに兵力を増強するわけにもいかないからな」
面倒なことだ。今のクナープ侯が独力だけで守り切れるかと言うと無理だろう。だが王家が勝手に防衛施設などを作ると、その地域を接収するのかとか、ぎくしゃくする問題が発生してしまうし、兵力を込めると誰が食料等を手配するのかという問題にもなる。事情を説明して理解できたクナープ侯が助けを求めてきたとかいう状況になれば別だが、それをクナープ侯や家臣団が納得するかねえ。
どっちにしてもややこしいのは施設建造にせよ兵の食費にせよ、予算を出せるとも出せないとも簡単に言えないことだ。だからと言って一貴族家に丸投げは無理だと解ってるだけに対応が難しい。貴族にはしがらみが多いな。
※爬虫人=レプタイポスと言うのは爬虫類(Reptile=レプタイル)からの造語です。作中限定。
レプティリアンだとSFの異星人になっちゃうのでちょっと違うかと思いまして…(^^;)