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評価、感想ありがとうございますー!
忙しい中でも続き書こうというエネルギー頂いています!
騎乗でやってきたマックスたちが俺の周囲に集まる。今更ながら皆に怪我がなくて何よりだ。周りの騎士たちに少し距離を取るように手で合図をする。
「ヴェルナー様、お呼びとか」
「ああ、指示することができたんでな」
「何でしょう」
うん、確かに問題発生なんだ。それはそうなんだけど何か言いたげな目で見ないでくれ。いやまあフィノイのあたりで俺のやらかしが多かったのは否定できないんだけどさ。
周囲にマックス、オーゲン、バルケイにノイラートとシュンツェルだけがいる状況なのを確認し、それでも心持ち小声で口を開く。
「戻るとすぐに王都で軍事行動が行われる。直接動くのは騎士団と王都の衛兵だが」
「軍事行動?」
「王都に魔族が潜り込んでいる。ほぼ確定情報だ」
マックスの疑問に対し俺が淡々とした口調を作ってそう言うと皆驚いた表情を浮かべた。そりゃそうか。とは言え大っぴらにできる事でもないしな。
「まず何度でも確認するが基本的に対応するのは騎士団と衛兵。俺たちが横から割り込んで手柄奪うような真似はできない」
「それはそうでしょうな」
「すると我々は?」
オーゲンとバルケイのもっともな疑問に対して、それぞれに指示を出しておく。と言っても事態がどうしても流動的だ。最悪、大規模市街戦になる可能性もある。正直そこまでは俺のところに情報は来ないんで一応それに備えておかないとな。
「派手に動くとかえって足を引っ張る危険性もあるんだが、俺の所にも全体情報が来ているわけじゃない。なので大雑把になるがまずマックス」
「はっ」
「マックスは最精鋭の数人を連れて王城の父の護衛を頼む」
「かしこまりました」
マックスが巨体を折り曲げて一礼。マックス自身は父の家臣だし当然と言えば当然だ。
「オーゲン、何かあった時に
「ははっ」
「バルケイは従卒を始めツェアフェルト家に仕えているそれ以外の人たちの方に備えた手配を。二人は王都に戻るまでに配置を決めて必要なら王都の父に連絡するんで書面で俺に渡せ」
「承知いたしました」
執事やメイド、庭師やコック。それに直接的に仕えているわけではないが騎士に仕える従卒やその親族。一つの貴族家と関係がある人数は結構な数になる。それらすべての人たちの身命も預かるのが貴族の責任だ。
貴族家一つ潰れると状況によってはそういう非戦闘員が何十人と一度に職を失う。その家族や親族まで考えるとどれだけの人数、人生ひっくり返すことになるやら。平民を軽く見ている貴族はそう言うのを気にしないのだろうが、俺はどうしても気になってしまう。
「ノイラート、シュンツェル」
「はっ」
「派手に動けないんで二人は済まないが裏方を頼みたい。前に話したアーネートさんの孤児院の方だ。場所は解るか?」
「大丈夫です」
「解りました」
フィノイ防衛戦でフェリが優秀なのは理解できたんだろう。本来の任務は俺の護衛も含まれるはずだが、二人とも素直に応じてくれた。まあフェリが貴族に対して軽いというのは解らなくもないが、アーレアの村長はもっと無礼だったし。
より酷い方を見ると前の悪い印象って意外と消えるよな。
「ヴェルナー様は」
「俺はツェアフェルトの館で警備指揮を執る。何かあったら王城の父へ指示を仰げ。父に連絡が付かなかった時は館に指示を求めに来い」
「承知いたしました」
「この件、伯爵様には」
「俺から指示の内容は直接伝えておく。もし入れ替わりで父から別の指示があった時はそっちを最優先しろ。父の指示で変更したという連絡だけ館によこせ」
「解りました」
本来なら配置まで父が指示するところなんだが、何分実働部隊は現在俺の指揮下にある。そうなると配置は俺がやるにしても指揮系統の順位だけは明確にしておかないといけない。この辺がごちゃごちゃしてると情報の錯綜とか指示の混同とかろくでもないことが起きるんだよな。
「王都での手配は父に願い出ておく。オーゲンとバルケイはノイラートの実家を拠点として指示を出せ」
「はっ」
王城の父、ツェアフェルト邸の俺、両方と連絡が取れなくなったらノイラートの家が第三指令所になるわけだ。もっとも王城の父に連絡取れないって時点で詰んでいるんじゃないかと言う気もする。
ノイラートの家を選んだのは地理的な問題でツェアフェルトの館とノイラートの実家が一度に戦場になる危険性は低いと判断したから。司令部が集中してたりすると纏めて連絡取れなくなったりする事故が怖い。
それはともかく俺が出した指示内容の連絡と各種手配を父に頼まないとな。これは俺が何か言うまでもないと思うがそっちでハルティング一家への配慮も頼んでおこう。今日中に第一報の書状を出しておかないと。
数日後、王都近郊で第一陣と第二陣が落ち合う。合流して首脳陣は密かに長時間の打ち合わせを行っていたようだが、俺は不参加。ただ凱旋式で見苦しくないように全軍武装を再確認するように通達があった。
その次の日に大神殿前での勝利に伴う凱旋式として完全武装で王都に入り、王城まではそのまま住民の歓呼の声の中を進む。マゼルの奴はここで主役張ってたんだからすげえな。俺は平常心維持するのが精いっぱい。
幸いと言うか、今回の主役は公爵と騎士団だから俺はその他大勢と言う顔をしていられる。こういう立場になると警備の方が楽だったとか思う。時々俺の方を指さしてる人がいるような気がするが気のせいだよな?
不自然にならないように周囲を確認する。凱旋式の交通整理にしては警備の兵士が重武装過ぎませんかねとは思うが、住民の多くは気にしていないようだな。すでにここから作戦は始まっているんだろう。
王城の中庭まで進みそこで閲兵式。ここで戦勝式典は後日に執り行うのでまずは疲労している体をいたわるがよいという国王陛下のありがたいお言葉をいただき、貴族家の騎士団は解散許可が出る。
どうでもいいんだが偉い人の話が長いのは万国どころか異世界でまで共通だったとは。とりあえずその愚痴は置いておこう。近衛騎士団や白竜騎士団まで完全武装しているのは閲兵式だからと言う事で理由はつく。ただ王太子殿下ほか、父も含む一部大臣が姿を見せていない。
解散に伴い、貴族家騎士の動きを見ていると国から何も聴いていないのか、朧げにでも話を聴いているのかがここで分かるな。公爵の直属やノルポト、シュラム両侯爵家の騎士団は規律を守って解散ではなく移動だ。魔術師隊もそのままか。市街戦も想定済みのようだな。
いくつかの貴族家騎士は三々五々と解散してる家もある中で、ツェアフェルトの騎士は少数ごとに移動。ツェアフェルト伯爵邸にも数人の騎士が同行してもらうことになるほか、遠回りで何人かは裏から館に来ることにもなっている。俺一人で全体の警備はできんし。広いんだよ貴族の館って。使用人とかも寝泊まりすることがあるからしょうがないんだけどさ。
街中はまだお祭り騒ぎの余韻が残っているが全体としては落ち着きを取り戻してきた、ように見える。重武装の兵士たちも武装状態のまま一旦は持ち場に移動しているようだ。今の段階で館の方には何事もないことを祈る。
ちなみにツェアフェルト家の館も立派に防御施設としての体裁になっていて、一階の雨戸はすべて金属製だし、二階の窓の横には板を外せば矢を射るための細いスリットと丸い穴がある。郊外の広い庭とかがある場合はともかく、王都内部の館とかの敷地が限られている場合、塀の高さってこの二階から塀の外に矢が届くかどうかが基準として設定されているのが普通だ。結果的に高さが足りないんで塀を乗り越えて侵入されたりすることもある。この辺は痛し痒しだ。変に塀が高すぎると中で何をやっているのか疑われたりもするらしい。ツェアフェルト家にそっちで疑われた経験はない。
ガラスは高価なんだが窓があるのは貴族の館だよな。
もちろんこの防御施設としての建築様式は反乱のためではなく、クーデターなどの緊急事態には王族を匿って戦える施設として頑丈に作ってありますと言う名目だ。自家のセキュリティと言うより忠誠心の証明と言うことになる。
とは言え実際は防御施設として使われることはそうはない。もし何かあったら初めてそういった施設としての役目を果たすことになるだろう。事情を知っているとどうも落ち着いてもいられないな。ここで落ち着いていないと駄目なんだろうが。
そんなことを思いながら久々のツェアフェルト家邸宅の門を潜り、邸の中に入るなり一瞬思考停止した。
「おかえりなさいませ、ヴェルナー様」
えーと……何でリリーさんがお出迎えしてくれているんですかね?