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応援、誤字報告、感想、いつもありがとうございますー!

感想で楽しみにしていると言われるとやっぱり嬉しいです。


6月頭も忙しくなってしまっているのですが

更新も頑張りますっ!

 翌日、王都への帰還第一陣は第一、第二の両騎士団と魔術師隊、それにグリュンディング公爵とノルポト侯の部隊だったのでそれを見送った。マゼルたちとは大神殿から別行動だ。

 マゼルたちは王都の方も気になるようだったが、勇者が王都まで戻ってきたら相手に警戒感を与える可能性もあるということでここでお別れ。


 「じゃあ、ヴェルナーも気を付けて」

 「俺よりお前さんだ。魔王の首、待ってるぜ」


 ぱん、といい音をさせて手をぶつける挨拶。学生の時にはよくやったなこれ。

 ルゲンツやエリッヒ、フェリ、ラウラとも軽く握手をして馬上の人になる。実際、これからの方がマゼルたちには困難が多いだろう。俺としては幸運を祈るだけしかできん。

 その一方、マゼルならどうにかするだろうと思ってしまうのはゲーム補正なのかマゼルの人柄補正なのか。


 そういえばあの後に公爵たちとラウラが別室で話をしてラウラもマゼルに同行することが許されたらしい。一安心。

 なんでもラウラ本人が命の恩人に対して礼を逸してはいけないと言い張ったらしいが、最高司祭様が大神殿に復興予算を回してくれた勇者(マゼル)に神殿代表として同行し旅を助けるようにと命を下し、公爵も文句は言えなかったそうだ。

 なんか変なところに援護射撃する人がいたがこれ俺のせいじゃないよな。ゲーム補正に違いない。うん。


 飛行靴(スカイウオーク)の補充に関してはマゼルの方に余裕ができたらと言うことでひとまず保留。俺の方の予算が足りん。ただマゼルに余裕ができたら王都のツェアフェルト邸に持ってきてもらうことになっている。

 時期が特定できれば家族に会わせてやれるんだがと言ったら、任せているから何も心配してないと笑って言われた。あのお人よしめ。


 そういえば開戦前に公爵が大神殿と連絡が取れているとは言っていたが、その連絡を担当していたのはフェリだったらしい。あの包囲状態の神殿からちょくちょく抜け出してたってどんな腕だ。フェリの実力をちょっと甘く見てたかもしれない。

 公爵はフェリにもお抱えにならないかと声かけてきたらしいが、マゼルと同行することを選んだそうだ。聴いたときには内心慌てたんで正直ほっとした。なんか公爵には貧乏籤をひかせまくってる気もするな。


 貴族家軍の大部分はここから本領に戻る。実際、自領を空にする勢いで兵力かき集めてきている貴族もいるようだし。他人ごとではあるが領内の魔物は大丈夫か心配になる。あと、ここにいると補給の問題もあるんでそういう意味でも早く戻れという一面があったりするのも確かだろう。

 ただ貴族本人は全員が直属の騎士団と共に俺たち第二陣と王都に同行。これは軍事行動の結果を陛下にご報告しご挨拶をせにゃならんからだ。先に断りを入れてあったり、領地で緊急事態発生とかならともかく、そういった理由もないのに自領に勝手に帰ると王家に不満でもあるのかと疑われる。この辺りは付き合いと言うか不文律と言うか。


 ツェアフェルト隊は第二陣のセイファート将爵、シュラム侯と共に第一陣の翌日に出発し、王都に向かった。王都までは一〇日前後の行程になるが戻りは急がない。怪我人は大神殿で治療してもらえたんで無理な行軍をする必要もないし。

 時間があったんで輸送部隊の編制を見学させてもらったが、完全に組織化されてフォーマットに従いピストン輸送できるようになってるのを見て驚いた。将爵によると王太子殿下がこの短い間に大改革したらしい。あの人すげえなほんと。


 なお武装の損壊に関しては公的に予算が下りる。今回は特に緊急出動令による出兵なので給与も国からだ。ただ国が貴族家に支払って、それを貴族が騎士や兵士に分配するという手間がかかる。俺や父はそんなことをする気はないが、こっそり中抜きしてしまおうと思えばできてしまうのも事実。実際、中世なんかだとそうやってかすめ取って贅沢した貴族もいたらしいな。

 もちろん手柄を立てた人間に各貴族家が自腹を切ることは許されている。父に確認と許可を貰う必要はあるが、俺は今回アーレア村に同行した騎士たちには少し色付けるつもり。後はノイラートとシュンツェルにも報酬出さないとな。


 ちなみに戦闘の損壊で一番多いのは盾だ。まあこれは想像通りだろう。ただ盾ってものは行軍中、運んでるときは場所を取るわ重いわ運びにくいわであまり好まれない。日本(ぜんせ)みたいに盾を使わない国があるのも多少は解る。

 反面、実戦を経験した後だと盾の重要性は肌で実感する兵士が多い。そして大体もっと大きくてしっかりとした盾にしておくんだったと後悔する。次の行軍の時はすっぱり忘れてしっかりとした盾を抱えて重いと文句言うのまでワンセットのお約束だ。


 行軍の損壊では靴が一番多くなるが、そのせいで普通兵士は何人かのグループに一本、やすりを持っている。工業製品がないこの世界では靴も手作りだからだ。靴職人によって完成度にかなり差があるんで、各自でカスタマイズする必要がある。特に皮膚に触れるところがちゃんと面取りしてないと拷問レベルにえらいことになったり。なんせ移動中ずっと革紐でごしごしと擦られ続けるようなもんだからな。そこから菌が入って壊死するような事態さえ起りえる。

 意外かもしれないが靴下はあまり好まれていない。服が高いように靴下も高いし、毛織を加工する技術水準も決して高くないんで、逆に蒸れたり擦れて豆ができたりするからだ。この辺りを踏んでいるファンタジー小説の古典だと靴を脱いだら裸足ってのが多いのも解る。そもそも兵士は長距離歩くところから訓練なので足の裏が丈夫になっている事もあり、そのまま革靴履く方が早かったり。

 そして靴代は武装じゃないからと言うことで各自の持ち出し。高いがいい靴を買うか、評判がいまいちの店で安いのを買って自力でカスタマイズするかの選択を強いられる。国せこい。口にはしないが。

 なお魔物の革でできた革靴ってものもこの世界にはあるんだが、丈夫なことに関しては王都近辺で出没する程度の魔物であっても評価が高い。半面、加工がめんどくさいんでお値段もお高くなるし、有名な魔物の革でできてたりするとステータス扱いされてもいる。前世でブランド物の革靴を自慢してる奴がいたが、この世界だと強い魔物の革靴を履いてるのを自慢するわけだ。人間何かを自慢したがるものらしいな。




 途中のデンハンとヴァレリッツで第一陣、第二陣それぞれ丸一日かけて鎮魂の儀式を行い、一部の部隊は事後処理のために残る。ツェアフェルト隊はその任務はなかった。あの惨状を見た俺としては被害者が安らかに眠れるように祈るしかない。と同時に下手をしたら王城がああなるのかと思うと胃の底になんか鉛の塊でも溜まってるような気がしてしまう。


 その日の行軍中は表に出さないように気を付けてはいたが内心ずっと悶々としていた。が、ノイラートの所に騎兵が来たのを見て意識を無理やり切り替える。そのノイラートとシュンツェルが近づいて来た。


 「ヴェルナー様」

 「ああ、どうした?」

 「先行している本隊と、王都の伯爵様からです」


 わざわざ書面ねと思いながら読み進めてため息。調査が早いと感心はするが、やはりと言うか怪しい連中がいるのが分かったのはいい気分はしない。今回は処置できても魔軍が諦めるはずもないから、王都襲撃は確実にあるだろうと思うしかないからな。

 ただ現状、王都の何が襲撃されるのかわかってないのが気になるんだよなあ。ゲームの時はそういうシナリオだからで思考停止できたが、こうなってくると王都襲撃に魔軍の側にも何か理由があると考えておいた方がいいだろうし。


 ひとまず今回の件に思考を引き戻す。とは言え今回の処置は騎士団と王都の衛兵が専任するようだから、直接俺が対応することはなさそうだ。王家の立場になれば貴族家騎士団をあまり動かすと報酬出さないといけないし、既に今回のフィノイ防衛戦で複数の貴族家に緊急出陣を要請してるしな。


 しかし、わざわざゆっくり行軍しながら王都と使者を行き来させて、これだけの調査を行わせているんだからグリュンディング公爵も王都の王太子殿下も大したもんだ。王都の調査部門の人たちも相当に優秀だな。


 「ノイラート、悪いがマックスたちを呼んできてくれ」

 「はっ」


 二人が馬で駆け去るのを横目に見ながら王都に戻ってからする作業を考え直す。幸か不幸か水道橋建設護衛の最中に石工のベテランとか、足場を作る大工に伝手はできた。弓に関しては将爵経由で職人も紹介してもらった。

 後はやっぱり大物を作れる鍛冶師と言うか鋳物師だよなあ。孤児院の方も資料まとめなきゃいかんし、範囲魔法対策の進捗も気になる。うう、やることが多い。

 今回のフィノイ防衛で引っ張り出されたこともあるし、軍事行動はしばらくないだろう。水道橋警備の方も多分別の隊がやるんじゃないかと思うし。王家もツェアフェルト家はちょっと働きすぎだとは思うだろう。多分。きっと。思ってほしい。


 よし、この期間を生かして王都襲撃前にやっておきたいことを片っ端から終わらせるか。そう思ったところでマックスたちがやってきた。まずは戻ったその日の対応だな。

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