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――89――

総合評価が100,000pt超えていましたー!

皆様応援本当にありがとうございます!


忙しかったので昨日と比べれば短めですーごめんなさい

 マゼルの問いは俺だけではなく全員の予想を裏切ったようだ。一瞬皆様が視線を交差させ、代表したように最高司祭様が口を開く。


 「それはどのような意味ですか?」

 「その黒い宝石の内、向かって右側の物は、先日の魔将軍を斃した際に発見したものです」


 右と左という言い方をしているが正直よくわからん。ああやって横に並べて両方を比べれば少し形が違っているのはわかるがどっちがどうとかはさっぱりだ。よく見ると二つの石の下に色が違う布が敷いてあるのは区別のためだろうか。

 第三者的にそんな感想を持ちながらマゼルの話を聴いていたが次の台詞には目をむいた。


 「そして左側の石はヴェリーザ砦の魔将軍を斃したときの物です」


 一瞬の沈黙。ややあってグリュンディング公爵が口を開く。


 「確かかね」

 「間違いありません。同じものです」


 そういえばマゼルの奴は一度聞いた事でも忘れないぐらい記憶力いいんだった。ゲームだとプレイヤーが画面の向こう側でメモ取ってるようなものなんだろうか。いやそれはともかく。


 「ヴェルナー卿、これは間違いなくアーレア村付近で入手したのじゃな」

 「はい。先日の報告の通りです」


 セイファート将爵の問いに躊躇なく答える。しかしこれが指し示す事実は一つしかない。この黒い宝石は王城から持ち出されたということだ。魔術師隊隊長、顔色悪いぞ。責任問題になるのは理解できるが。

 公爵も将爵も騎士団長たちも難しい顔をしている。最高司祭が一度箱を閉じるように進言したのはあまりまじまじと見ていると魅入られる可能性があるからか。

 しかしどういうことだろうか。何か見落としているような。なんとなくもやもやしたものを感じていたらラウラが口を開いた。


 「最高司祭様、一度情報を整理したいと思うのですが」

 「うむ、何か見落としがあるといかんな」

 「そうですね」


 公爵が真っ先に応じ最高司祭様が頷いてペンを手に取る。まずはっきりしていることはヴェリーザ砦でドレアクスを斃した際に手に入れた黒い宝石がここにあるという事、それはアーレア村で回収されたこと。

 魔術師隊が陛下からヴェリーザ砦の黒い宝石の調査を指示されたことは公爵も知っているし、魔術師隊の研究所にあることは魔術師隊隊長が一度確認しているらしい。

 研究所の担当者を決めたのは魔術師隊の隊長だが才能も人格も保証していた。現状確認としてここまでは特におかしなところはないなと思っていたが、横にいたマゼルが口を開いた。


 「確認させていただきたいのですが、魔物暴走(スタンピード)の際に手に入れたものも魔術師隊で調査中なのでしょうか」

 「もちろんだが」

 「今もそこにありますか?」


 普段なら非礼極まりない問いかけだ。仮にも王宮の魔術師隊を疑うような発言だからな。だが今の段階ではその疑問はもっともでもある。むしろドレアクスの物だけ持ち出されているほうが不自然だ。魔術師隊隊長が重い口を開く。


 「こうなると間違いなく、と断言するのは難しいかもしれん。ピュックラー卿は信用できる研究者なのだが……」

 「ピュックラー卿」


 思わず口をついて出た。そういえばそんな名前だったな。愛想はあまりよくない相手だったと一度会った時に……一度?


 待て。あの時の違和感を思い出せ。ピュックラー卿はあの時何と言った。『お初にお目にかかります』と言ったような。会話こそ初めてだが会うのは二度目のはずだ。

 それにフォグトさんは確か『以前はあそこまで不愛想ではなかった』とか言っていた。普段は、じゃなくて以前は、だ。そしてゲームで魔族と入れ替わった領主は人が変わったという噂があった。

 もし専任研究員であるピュックラー卿が魔族と入れ替わっていたらこの黒い宝石をこっそり持ち出すこととかできるんじゃないか。と言うより、状況証拠だけで言えば第一容疑者と言ってもいいのでは。


 「ヴェルナー卿、どうしたかね」

 「……証拠は何もないのですが」


 公爵に問われた以上、何も言わないわけにもいかない。多分顔色とか変わっただろうし。ポーカーフェイス失敗してる自覚はある。あくまでも怪しいというだけではあるんだが、この際全部話した方がいいだろう。

 それに実のところ俺の方が目立っておいた方がいいと言う一面もある。今のところマゼルの方は漠然とした疑いだが俺の発言は証拠がない以上、誹謗か中傷になる。言ってしまえば問題発言だ。

 だが調査の結果、もし魔術師隊、もしくはピュックラー卿に問題がなかった時には批判は疑っただけのマゼルではなく俺の方に来るはず。今後、魔術師隊とマゼルの関係が悪くなるよりはよほどいい。俺はいくらでもリカバリが効くはずだ。


 「ピュックラー卿に少々怪しい節があります。実は……」


 俺が個人名を挙げて説明を始めた意味をラウラは理解したんだろう、もの言いたげな視線が一瞬こっちを向いたが今度はポーカーフェイスで知らんふりを押し通す。いいんだよ、問題はこっちで引き受ける。勇者(マゼル)には魔王討伐に集中してほしいからな。


 「私の思い過ごしであればよろしいのですが、念のため調査をしていただければ幸いです」


 魔物と入れ替わると人格が変わる、というゲームの知識は他人に言えないが、発言の端々に違和感があったことは事実。一応告発じゃなく注意喚起ぐらいに止めておく。他に容疑者もいない以上、調査には入ってくれるだろう。多分。

 ただ俺自身、この可能性が当たっている方がいいのか外れてる方がいいのか判断に悩む。当たっていると魔術師隊レベルに魔族の手が侵入してることになるし、外れていれば誹謗したことになりピュックラー卿との関係は後に尾を引く。

 どっちになっても胃が痛い結果しか見えないのが悲しい。当たっていた場合胃が痛いじゃ済まなくなる可能性もあるわけだが。


 案の定難しい顔を浮かべている人もいるが、当の魔術師隊隊長が頷いた。


 「解った。この状況では確認しないわけにはいかぬだろう。内々に調査をする」

 「ありがとうございます」


 もう一度頭を下げた。いや実際、何もなければ名誉棄損だよなこれ。まあ何とかなるだろう。うん。

 それより俺も父に連絡して身辺の警戒とか気を付けてもらわんといかんだろうな。フレンセンに調べさせていたマンゴルト関連の資料は、全部父経由で提出してもらうように俺も書状を出させてもらおう。

 こうなると父が文官系なのは運がよかったのか悪かったのか。動員兵力ほとんどここにいるし、現在の状況だと力こそすべての魔族に襲われるには価値が低い。何が幸いするやらさっぱりだよ。


 この後、公爵たちは報告書やらなんやらを書くと言うことで慌ただしく善後策を打ち合わせてお開きになった。ラウラは最高司祭様や公爵閣下と何やらまだお話があるらしいが。

 とりあえず調査の方は俺が戻るより早く始まるだろうからこれで良しとしておくべきだな。


 我にかえると他の面子は勇者とか王女とか公爵とか団長とかで俺一人浮いてた気がする。夜中一人で悶える羽目になったが明日に持ち越さないようにしないと。はあ。

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