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ちょっと忙しいので短めですーごめんなさい

感想、ブクマや評価、誤字報告ありがとうございますー!

 一口紅茶を飲んでからそのまま情報交換を続ける。気になったのはマゼルの発言だ。


 「そういえば、またあの黒い宝石を見つけたんだよね」

 「魔物暴走やドレアクスの時の奴か」

 「うん、魔将軍を倒した後に調べたら見つけたんだ」


 今のところ最大の謎がそれだ。ゲームには登場していなかった。そういえば俺もすっかり先送りしていたな。


 「前の奴は王都で調査中だが、すまん、詳しく進捗は聴けてない。それと実は俺も拾った。ここじゃなくてアーレア村でな」

 「そうなの?」


 フェリが口をはさんできたんで簡単に説明した。何だったのかはさっぱりわかってないんだが。ただなぜあそこに黒魔導士がいたのかも含めて謎だらけだ。どうもゲームと違う動きがあるようなんで気にはなっている。


 「公爵に提出したんでその後は知らんけどな」

 「僕らの方ももう提出はしたんだけど……」


 マゼルがちらりと視線を動かすと、エリッヒとラウラが頷く。


 「最高司祭様が何やら得体のしれない魔力を感じていたと申しておりまして」

 「私もそう思いました。あれは危険なものだと思います。祖父にもそのように伝えてはあるのですけれど」


 うーむ。そう言われてもな。確かになんか嫌な空気は感じたが。と言うかなぜ俺にそれを相談するのかとも思う。なんか変に期待されてないか。


 「なにせ実物を調査どころかゆっくり確認もできていないんで何とも言えん。けどわかった、なるべく俺も調べてみるよ」

 「お願いします」


 マゼルに言ったつもりだったんだがそれより先に妙に真顔でラウラが頭下げてきた。だからあなたのオーラで以下略。けど歴代最高クラスの聖女が気になるってことはやっぱりなんかあるんだろう。

 もっとも魔族クラスが持っていたものだから何にもないと考えるのはお気楽すぎか。


 「それ以外にはなんかないのか」

 「何かと言われてもな」


 ルゲンツの問いに答えられることがなくて困る。王都での状況は俺自身確認できてないから何とも言いようがないし。ああそうだ。


 「実は飛行靴(スカイウオーク)がなくなっててな。今度でいいんで補充できたら少し分けてくれないか」

 「解った。覚えておくよ」


 マゼルが即答。なんかすまんな。そういえばエムデア遺跡の次になるあのイベントは臭わせておいてもいいかもしれん。


 「あと少し気になっているのは、大神殿の中にまで魔族が入り込んでいたことだ。それも人に化けてな」

 「確かに、そうですな」


 エリッヒが頷く。一応、信仰の中心地に邪悪な存在が入り込んでいたわけだから、教会の面子で言えば大失態もいいところだ。一応それなりのレベルになる結界も張ってあるはずだしな。

 とはいっても王都の結界ですら最終的には破られることを知ってる俺からすれば結界なんぞに過大な期待をするつもりはないわけだが。


 「これからもそういうことがあるかもしれない。街中での噂にも注意したほうがよさそうだな」

 「確かにそうだが気の休まる暇はねえな」

 「さすがにそうそう街中で襲われたりはしないと思うけどね」


 ルゲンツにそう答えつつ、なんか頭の片隅で引っかかった。なんだろう。ひとまず先に話を進めよう。


 「以前と人が変わったみたいだ、みたいな話があった時は気を付けたほうがいいと思うが、ずっと気にする必要もないと思う」

 「そんなもんかね」

 「もちろん油断しっぱなしも困るけど」


 ゲームだと魔族が領主に化けていた街に行く前にそんな情報が聞けたんだよな。あそこの街の領主は何か急に人が変わったって噂。

 その噂の町にようやくたどり着いたと思い、まず宿に泊まったらいつもの宿の音楽が流れてそのままいきなり戦闘画面。寝入ったところに襲撃かけられたって設定だろうあのイベントには驚かされた。

 武器や防具をしっかり装備していたままだったのはあの当時のゲーム機の処理能力的にはしょうがないところだが、鎧着て寝てたのかよと突っ込まれることにもなってたっけ。いやそれはいいんだ。


 さっき引っかかった自分の発言を自分で咀嚼する。そうそうは襲われないってことは逆に複数いる可能性はある、ってことだよな。少なくとも魔族全体で一人とか二人ってことはないだろう。

 例えば、難民全員がお互いの名前と顔を知っているだろうか。もし五〇〇〇人の難民の中に人間に化けた魔族が潜り込んでいたら。あるいは王都に入り込んできている商人や旅人、冒険者なんかの中に魔族が紛れ込んでいたら。

 ゲームの王都襲撃イベントはマゼル(プレーヤー)がいないところで起きていた。何が起きていたのかはわからない。難民発生なんてイベントもなかったが、それも含めてどうやって王都が攻められたのかわからないってことだ。


 これはひょっとしてまずいんじゃないか。少なくとも調査確認する必要はある。優先順位はかなり高いぞ。タイムリミットまではまだ時間はあると思うが調査にかかる時間も考えると余裕があるとは言えん。


 「ヴェルナー?」

 「ん、ああ、ちょっとな」


 急に沈黙した俺にマゼルが問いかけてきたが、それに対する俺の返答と言えば返答になっていないことは自覚している。だがマゼルたちに心配かけるわけにもいかん。ポーカーフェイスだ。


 「ちょっと思い出したことがあってな。とは言えそっちは任せてくれ」


 と言いつつ誰かに頼るつもりではあるが。調査の必要性は高いが俺の手には余る。そんな権限もないし。ん?

 権限がない。待て待て待て、何で俺はそこに引っかかった。権限がないことをやっているのは今更じゃない。今更じゃないことが気になったってどういうことだ。取り合えず先送りにしておいたことを順に思い返してみる。

 ……そういうことか。今、引っかかったんじゃない。ずっと引っかかっていたんだ。思わず舌打ちしてしまった。


 「殿下」

 「は、はい。何でしょう」


 俺が突然話しかけたんで驚いていたラウラが俺の表情を見て真顔になる。何と言うか王族の前で舌打ちとか、礼儀をすっ飛ばしているが後で怒られてもいい。これ早いうちに報告と言うか相談しておかないと。


 「申し訳ありませんが、公爵閣下にお話をさせていただきたいのです。可能な限り早急に」


 気が付けただけ良しとしよう。手遅れになるよりよっぽどましだ。

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