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ちょっと今週はばたばた気味なのですが

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 昨日の今日で大神殿での式典。ゲームでスチル表示はなかったが、さすが大神殿だな。荘厳な雰囲気と美しいステンドグラス、明かりの配置さえ計算されつくしてる感じがある。

 その大神殿の大礼拝堂での戦勝式とはある意味王宮よりレアだ。壇上にいるのはグリュンディング公爵とセイファート将爵、それに最高司祭様と王女殿下たるラウラまでいる。王城以外の場としてはかなり豪華だ。自分が場違いな場所にいると思ってしまう。


 一方、どこか殺伐としてるなと思うのはいまこの瞬間も大神殿の外で魔物の死骸から魔石を取り出す作業とか、死体の焼却処分とかが継続して行われているからだ。従卒や兵士が休めるのはもう少し後。

 なんか申し訳ないと思うのは俺の根っこが庶民だからだろうか。補給がギリギリの今は無理だが、ツェアフェルト隊の兵士たちには王都に戻ったら安酒でもいいから出してやりたい。


 ちなみにと言うか一応鰐兵士アリゲータ・ウォーリアーとかも食える。が、王国の民衆や兵士を食ったかもしれない相手を食うのは流石に生理的に無理。あんまり美味くはないらしいと言うことで、俺は少なくなった補給の分で我慢する。

 あと革は鎧や盾に使えるはず。普通の皮鎧よりも丈夫だが見た目があれなので冒険者か傭兵が使うのが普通。鎧にすると鰐の着ぐるみ(胴体だけ)みたいになるんだよなあ。生き残ることだけ考えれば性能は悪くないんだが。


 なお戦場でのドロップアイテムゲットは基本的には一度上司に提出してしかる後に下げ渡される。上司が買い取ることもあるが大体適正価格であることが求められるな。ゲットした側が買い取ってくれと言うことも可能。

 上司は安く買いたたいたり買取拒否もできるんだが、そういうのが噂になると今度は自分の評判が悪くなるんで大体は希望通りになる。


 そう言えば死体剣士(デッドソードマン)の剣のうち一本はこの時点ではレアなアイテムだった。運がいいんだか悪いんだか。一本しかないんで俺が買い取ってノイラートたち二人には金銭でのボーナスにしないと。とは言えこの剣どうするかねえ。

 俺が剣持っててもしょうがないし、マゼルたちはこれよりも高性能。父への土産にでもするか。


 「……勲功第一、マゼル・ハルティング、前へ」

 「はっ」


 全く無関係なことを考えているうちに儀式が進んでいた。公爵閣下の呼び出しにマゼルが進み出て、段の下で跪いて頭を下げる。いやほんと、騎士でもないのになんでそう絵になるかね。これが主人公属性と言う奴なんだろうか。


 「魔将を打ち取る功績、この戦場において比類ないものと認める。誠に見事であった。その功績に報いるため、王国より褒美を取らせる。望みはあるか」

 「ではお言葉に甘えて、お願いがございます」


 なんとも言えない空気があるのはむしろ周囲の貴族連中だ。何を言い出すつもりなのかと思っているんだろう。


 「うむ、申すがよい」

 「私は平民の出であり、家はさほど豊かとは申せません。それゆえ、このたび戦地となったこの大神殿および周囲の惨状に対して何もできないことを心苦しく思っておりました」


 本心でもあるんだろうから声に説得力があるな。報酬内容を助言した側としては微妙な気分だ。


 「それゆえ、恐れながら報酬の全額を神殿および被害者への救済として寄付させていただきますようお願いいたします」


 先ほどまでがざわざわだとすれば今度はどよめきに近い空気が起きている。そういうことを言い出すとは思っていなかったんだろう。


 「見事な心掛けである。承知した。我が公爵家から予算を出し、卿の名において大神殿および周辺の復興に力を尽くすこととしよう」

 「お聞き届けいただき、ありがとうございます」


 さりげなく公爵家を先に言うあたり公爵もしっかりしてる。ポーカーフェイスを保つのにちょっと苦労した。落としどころとしてはこんなもんだろ。


 これでマゼルの功績に文句付けようものなら、報酬を承認した公爵家とマゼルの名で復興資金を寄付されることになった神殿の両方を敵に回すことになる。この国では自殺行為だ。

 しかも報酬の金額については全く触れていない。公爵もプライドがあるから安い額ではすまないだろうが、ポイントはマゼルが金額を指定したわけではないという所だな。贅沢ともわがままともケチをつけようがない。せいぜい偽善者と陰口をたたくぐらいが関の山だ。そしてそんなことを言おうものなら魔将退治の英雄に嫉妬していると言われるのがオチ。そんな奴は勝手に恥をかいてくれ。


 「続いて勲功第二位。ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト。前に」

 「ははっ」


 やべえ俺の方が緊張してきた。表情に出さないようにしてマゼルの横まで進み、一礼。平民のマゼルは戦場式典でも跪かないといけないが、貴族の俺は礼をするだけでいい。戦場式典でも跪くのは陛下がいる時。この辺りの差別があるのもこの世界だ。

 気になったんで視線を向けたらちょうどマゼルがこっちを向いて笑いかけてきた。扱いの差を気にしてないのはいいんだがちょっとは気にしてもいいんだぞ。


 「ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト子爵。卿はこのたびの戦いにおいて見事な献策を行い、敵を殲滅することに貢献した。無断離脱の件も問題なしとし、かつその功績をたたえ褒美を与えるものとする」

 「ありがたき幸せ」


 それだけなのか、と思う向きもあるかもしれないがこれは本音と建前と言うか、戦功として結構ややこしい状況になっているから。

 戦略評価と戦術評価という言い方になるだろうが、要するにここで評価できることと評価できないことが割と複雑に入り組んでしまっているのでしょうがない。いや半分以上俺のせいなんだけどさ。


 戦術と言うのがその場の戦場を範囲とするものだとすると、戦略はより広域での軍事行動を指す。ものすごく大雑把にプロスポーツに例えると、年間を通して優勝するための作戦が戦略で、一試合ごとの作戦が戦術。

 この場合「昨日の試合で活躍したから今日の試合もお前がMVPね」という訳にはいかないのは当然だ。そういう考え方で見ると、このフィノイ近辺での戦功と、それ以外、今回の俺で言えばアーレア村での功績は別々に考えないといけない。そうしないと「戦況と無関係だけどあっちの城を攻め落としたからこの戦場でも俺が勲功一番だ」とか言い出す奴が出てきちゃうからな。


 また、実際はどうであれ、ツェアフェルト家としての勲功、例えば中央突破を成功させた件などはあくまでも家の功績であり、称賛されるのは家の代表である父になる。魔物暴走の時と同じ。

 一方、献策は俺個人がやったこととして理解され認められている。また指揮官としての件も含め、俺がやったことは理解しているので、代官であるお前にはこの場で褒美は出さないが評価としては加点するよ、と言う非常に微妙な表現を使う事に。

 戦場での評価はその軍を率いている指揮官が賞罰を与える事ができるが、戦略的な功績はそれより上、例えば陛下とかが評価し褒賞を出すことになる。戦国時代でも戦場で褒められる褒美と、国に帰った後に報酬貰うのの二種類があるのと同じ。


 俺やマゼルを称賛する際に「この戦場」「このたびの戦い」とかわざわざ注釈付けてるのもこれに準じている。だからこの場ではあくまでも献策の件と、俺個人としても戦場で勇敢に戦いました、と言う点だけで評価される形。公爵の「功績をたたえ」ているのが発言の一部に掛かっているのか、発言全体に掛かっている表現なのかでどっちともとれるあたりが貴族の言い回しだ。

 ただ、たまに理解力のない奴が「ああ言ったじゃないですか」と後から文句を言うこともないとは言えない。この辺りは腹芸の得手不得手もあるかもしれん。

 俺としては功績は評価しているけどこの場では褒められない部分もある、と言う理由が解っているから何も言う気はない。


 戦功二位ぐらいになるとご褒美は普通、先方からの提案と言うかこれをやろうという指示。そして目下の側はありがたく受け取っておしまいになるんだが、今回はラウラの件があるんでちょっとだけ会話と言うか演技が続く。

 マゼルの褒美希望も含め、この辺は昨日のうちに打合せ済みだ。


 「特別に望みを聴こう。何を望むか」

 「では謹んでお願いがございます。私は現在、王都で対魔軍対策のために提案をしております。その件につきまして公爵閣下のご助力をお願いいたしたく」

 「提案とは何か」

 「王都で実物をお見せいたしたく存じます。それゆえ、この場での報酬は不要でございます。そのうえで、公爵閣下のお声がけで予算と腕の良い職人を手配していただけますよう」


 実際、いい職人が欲しい。割と深刻に。なのでこの際言わせてもらう。その辺は要望を口にしてもいいだろう。


 「卿はそれでよいのか」

 「王国のため魔軍対策が進む事こそ我が望みでございます」


 将爵閣下、笑いを堪えんでください。俺だって我ながら大根役者だと思うよ。この世界で大根役者って通じるんだろうか。そもそも役者の社会的な地位が違うか。基本、役者は貴族のお抱えだし、当たらない役者が自称役者で生活できる世界じゃないしな。


 「よかろう。王都で実物を見せてもらいたい。そのうえで予算手配と推薦状を書くことにする。またツェアフェルト伯爵には王都に戻ったのちに褒賞を下すであろう」

 「ありがたき幸せ」


 一礼。これでおしまい。勲功一位の希望は大神殿復旧と被害者救済、勲功二位は魔軍対策のための予算と人員募集。伯爵家には別に褒美が出るがこれは向こうからの指定なんでこっちからお願いすることは何もない。これじゃ第三位以下は贅沢が言えたもんじゃないだろ。

 とは言え報酬をケチりすぎるのも士気とか忠誠心とかの観点からあまりよくないんで、そのあたりは俺宛ではなくツェアフェルト伯爵家宛とかで調整がつくはずだ。なおマゼルに対しては後日王家内で相談される予定。

 何と言うか、黒幕は公爵閣下だが完全に共犯者だよな俺。


 大神殿内部とは言え戦地での式典だ。パーティーとかはないが儀礼的なものは続く。神のご加護に感謝したりとか、そういうのはおろそかにできない。俺自身は神様を信じてないが、兵士の中には信じてるのもいるからな。伯爵家の指揮官は神様信じてないらしいなんて評判が立つと、兵士の士気にかかわってくる。

 前世日本ならともかくこの世界だと神の奇跡が身近だから、そういう意味では俺の方が異端なのか。神様がいるのは確実なのに神様信じてないんだもんな。だからと言って神頼みが過ぎるとやっぱり別の問題が起きるし。バランスが難しい。


 なんか色々複雑なんで考えてたら肩が凝った。早く終わらないかな。

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