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必要な情報をグリュンディング公爵とセイファート将爵に確認させてもらい終えると、さすがに二人とも本陣に戻って行った。表向きはノイラートとシュンツェルの部下として。あの二人も胃が痛くなればいいんだ、ふははははは。
うん、そんなことを考えても何にもならないのは解ってる。
入れ替わりに俺の監視についた二人は一応衛兵の格好をしているが、冷静に見ると身のこなしが違う。公爵や将爵どちらかの部下かもしれない。ここまでの話を聴いてしまったんで逃げようとしたら殺されそうだな。逃げる気なんぞないけど。
ちなみに兵士の営倉は檻を乗せた馬車になるが、貴族の場合一応外からの目を遮断する建物や
逃亡防止の目的もあるんで当然だが。相手が国同士だったら貴族の捕虜なんかもこういう所に押し込まれるからな。
天幕の寝床で仰向けに寝転がり慨嘆。なんでこんな面倒なことに巻き込まれるんだ、と思ったが、騎士団が崩壊していたらどの貴族だって自分の領地を守ることが最優先だ。ラウラに言い寄るのなんか後回しにするしかなかっただろう。
逆に言えば騎士団が健在でいるから少々の無茶をする余裕があるということになる。つまりまわりまわって俺の行動の結果かよ。泣きたい。
嘆いたりぼやいたりしても仕方がない。大きく深呼吸を繰り返して頭をクリアにする。なんせ今回は条件が複雑だ。俺自身が認められる一方、マゼルも評価されなきゃいけない。
そもそもフィノイが半壊したのもラウラが勇者パーティーに参加できる理由なんだが、そのフラグはもうどうしようもないな。フィノイは無事と言う前提は崩さない。問題は他の条件だ。
マゼルが評価されなかったらラウラとの同行が許されないかもしれない。
同時にもう一つの条件。貴族の誰かが俺より功績を上げて婚約者候補とかになったら、ラウラが旅に出られずに王都なりその貴族領なりに留まらざるを得ない可能性があるということだ。それもやっぱりマゼルの魔王討伐の失敗フラグになる。
もちろん論外なのは敗北する事。ゲームだとラウラの目の前で三将軍ベリウレスと戦闘になるが、現状ベリウレスも多数の敵軍の中にいる。いくらマゼルでも敵軍の中に突入してボスとだけ戦うのは無理だろう。ゲームだとそれに近い事やってるんだけど実際は周囲から邪魔が入るだろうからな。
かといってベリウレスを倒し損ねると今度ストーリーがどうなるやら。撤退したベリウレスが戦力を整え直して王都に再戦を挑んできたりしたらこっちの収拾がつかなくなる。
つまり現在フィノイを攻囲してる魔軍を壊滅させてベリウレスを倒し、その上俺とマゼルでワンツーフィニッシュを決めなきゃならん。しかも手持ちの札だけで。なんだこの無茶な
ため息をつきながら布陣状況を確認する。扇の要の位置にフィノイを置くと、扇の中骨の部分に魔族、さらにその外側、紙や布を張り付けた扇面の部分に王国軍が布陣している。地形的に扇の外側からフィノイに攻め込めないのは不幸中の幸いだな。
フィノイは山の中、魔軍のいるあたりは平野に近く、王国軍は森と平地の境目に布陣してるのか。これ森の魔物が復活してきたら挟み撃ちにあわないだろうか。魔物はどっかから湧いて出てくるし。
案外ベリウレスはそのあたりも狙っているのかもしれない。王国軍の兵士とこの辺の魔物が一対一で戦えば魔物の方が間違いなく強い。騎士だってやばいぐらいだ。
そしてベリウレスの率いる部下たちは恐らくそれよりも強いだろう。にもかかわらず向こうが攻勢に出ないのはそれが理由か。確証はないがフィノイに強襲かけないのは向こうも持久戦狙いなのかもしれない。敵は食い物大丈夫なのかね。
王国軍は相手を半包囲していて、両翼に騎兵を配置する常道で第一騎士団と第二騎士団が左右両翼に配置されている。それはいいとしても全体数が多いせいで何と言うか、でろーんと展開されているな。
通信機もない上、ラウラを嫁にとやたらやる気のある軍があるかと思えば、初戦で心折られた軍があったりするんで統一性すらない。陰では
「どーすんだこれ」
言いたいことは山ほどあるが文句を言っても仕方がない。こういう時にやっちゃいけないのは敵の長所だけ、自分の欠点だけを見ることだ。それでは打開策が出てくるわけがない。相手の欠点を狙い自分の利点を生かす方向で考えないと。
なんせ今は時間制限があるからな。相手の欠点を上回るまで時間は待ってくれないんだよ。
王国軍の利点は数だ。何のかんの言いながら数は力。一方魔軍の欠点は……ん、ちょっと待てよ。
起き上がり胡坐をかいて思い付いた思考を追う。ゲームでのベリウレスのセリフ、ヴェリーザ砦の魔族の口調、そしてリリーさん拉致犯の
バカにしている相手が罠にかけてくるとは思わないだろうな。そしてゲームの知識で言えばベリウレスを倒せば大神殿マップは解放される。つまり副将格の敵はいないかそれに近い状況だろう。ターゲットはベリウレスに絞る。
……本当なら最初から綿密に計画立てておきたい作戦だがやってやれなくもないだろう。さっき公爵に確認したらフィノイとは一応連絡は取れているらしいしな。
大神殿に
これだとマゼルが功績一位になるだろうが、むしろその方がいい。大体、公爵が後ろ盾になると言ってくれてもどこまで信じていいかわからんし、仮に後ろ盾になってくれたとしてもこっちはしょせん一子爵。後が怖い。
その点マゼルは王室お声がかりだからな。後はうまくフォローすれば大丈夫なはず。どうせワンツーフィニッシュを狙わなきゃいけないんだ。全部俺がやる必要はない。マゼルならきっと大丈夫。
「悪いが、公爵閣下か将爵閣下に今晩あたり相談がある。取り次いでくれ」
俺が床の上でぶつぶつ言ってるのを黙ってみていた衛兵に声をかけると、二人が頷きあって一人が出て行った。やっぱりどっちかの直属騎士だったか。
この日の夜、将爵からの差し入れとやらを持ってきた兵士の服を借りて営倉を出て、お二人に直接面会し案を説明する。必要な道具は幸いまだ俺の青箱の中にあるしな。二、三の質疑応答を済ませてこの日は大人しく営倉に戻った。
これで全体の作戦計画はいいとして、後は明日からの戦況次第だ。俺はどうやって功績上げようかねえ……。胃が痛い。
とりあえず明日は営倉から出たら飯は柔らかい麦粥かなんかにしてもらおう。はあ。