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評価者数4,200名様、ブクマ登録も15,500名様になりました、本当にありがとうございます!

レビュー、感想もありがとうございます! お気遣い嬉しかったですー!

余談やコメントは余裕があったらと言う事で、まずは更新頑張りますっ!

 爺さんの発言に一瞬面食らって反応できなかった。いや、ある意味でそうかもしれない。マゼルの家族が狙いだった事は確かだろう。けど何でそんなことを知っているんだ。

 俺の混乱にかまわず爺さんはあたかも犯罪者を弾劾するかのように怒り顔で発言を続ける。


 「お前たちがマゼルを王都なんぞに行かせるから、魔物が来た時に対応できなかったのじゃ!」


 ……おい。


 俺が絶句したのは許してほしい。いや俺だけではなくノイラートとシュンツェル、騎士たちまで唖然としている。なんだその理屈は。


 「マゼルは《勇者》であると言っていたではないか! あ奴がいれば戦わせることができた! お前たちがマゼルの奴を王都に行かせたからこんなことに!」

 「そうだ! 村長の言うとおりにマゼルが村にいればあいつを戦わせればよかった! 行かせなければよかったんだ!」

 「村を守れなかったのはあんたたちのせいだ!」


 俺たちを無視してマゼルの家族が罵倒され続けている。会話は聴こえてるんだが何と言うか呆れかえって口をはさむタイミングを失ってしまった。


 「危ないっ!」

 「お父さんっ!」


 げっ。あのバカども投石まで始めやがった。ケガ人のマゼルの父親がリリーさんを庇って肩にこぶし大の石がぶつけられたのを見て流石に俺も慌てる。


 「やめないか! 止めろ!」

 「はっ!」


 騎士たちも我に帰り急いで集団との間に割って入った。そうしたら今度こっちに矛先が向く。


 「いくら騎士様でもよそ者は黙っておれ! 儂がここの村の村長じゃ! ここのことを決めるのは儂じゃ!」


 あー、前世でもいたなこんなの。ブラック企業の社長とか地方自治体とかの勘違い顔役とか、何より自分の主張が優先されると本気で信じてるやつ。

 と言うかマゼルは一応王家のお声がかりだったはずだが。村長なら説明を受けているよな?


 「マゼルはここの村の出身! ならばこの村にいるのが当然じゃ! この村のために働くのがあ奴の役目じゃ!」

 「そうだ! マゼルはここにいるはずだった! それをこいつらが邪魔したんだ!」


 身勝手極まりない主張を聴いてるうちにだんだん呆れを通り越して腹立ってきた。冷めた視線で村人の一団を見やる。マゼルが以前躊躇してた理由がわかったわ。家族に会いたくないんじゃなくて村に帰りたくなかったんだな。

 長い間顔役を続けてる奴がいる地方の集落ってのはたまにとんでもなく澱むことがある、と前世の知識で知ってはいたが、まさかここまでだったとは。

 俺たちが沈黙してると言うか憮然としているのをいいことに連中は言葉を継ぐ。自分のセリフに自分が煽られているんだろうが。


 「解ったら邪魔するな、よそ者!」

 「そうだ! 邪魔だ!」

 「理解できたらその村の裏切り者どもを引き渡してもらいたい!」

 「引き渡してどうするんだ」


 問い返した俺に何を勘違いしたのか、ものすっごく偉そうな態度で村長様がほざきやがりました。


 「無論罰を加える! おい!」

 「おうっ」


 若いガタイのいい男が斧持ってきた。戦闘用じゃないな。木こり用の斧か。おいおい、冗談じゃ済まんぞ?


 「じゃがあんなのでも少しは役に立つじゃろう、せいぜい一生の傷物にする程度で……」


 嗜虐心むき出しの爺に続きのセリフは言わせない。言わせる気もない。

 魔物相手よりいい踏み込みだったんじゃないだろうか。過去最高速度で突きだした俺の槍が、木こりが胸元に構えていた斧の柄をへし折った。槍の穂先は男の服に穴開けた状態で止まっている。血が流れてないのは我ながら自制した証拠だ。


 「ひ……」


 蒼白になった木こりらしき男がよろよろと数歩後ろに下がってそのままへたり込んだ。村の奴らも絶句し沈黙している。って言うかお前ら村が襲撃受けたという事情は認める。が、興奮して自分に酔ってたんだろうけど武装した専門家相手にどんな態度取ってたのか少し自覚しろよ。この世界で村人が騎士より上の階級に取った態度としては処罰もんだぞ。

 俺は自重する気はないぞと言うつもりで騎士たちの方を見たら、皆同意見らしいのが表情だけで解ったんで自重はやめた。


 「な、な、な、何を」

 「黙れ!」


 何か言いかけた爺を一喝。魔物暴走の時からでかい声は出しまくっていたからな。相手が村人レベルなら声だけで委縮させる自信もある。


 「お前たちの態度は度を越している。まず言っておく。俺の名はヴェルナー・ファン・ツェアフェルト。恐れ多くも国王陛下から子爵を名乗ることを許されている」

 「貴族様っ!?」


 たちまち蒼白になる村人(バカ)ども。まあ若い上に薄汚れた格好だから貴族に見えなくてもしょうがないけどな。ただの騎士か何かと勘違いしたのはあいつらであって俺は悪くない。

 いや騎士に対しての態度としても無礼だったし、この国ではめったなことじゃ使わない上に埃かぶってる規則だが、貴族は平民を処罰する権利も一応ある。貴族に対して邪魔だとか言ったこいつらは今この場で俺に処罰されてもおかしくない。

 不愉快極まるが俺が処罰するとそれはそれで面倒なんでこの場で処罰はしないが。俺自身、軍規違反でここにいる身だからいるはずのない奴が処罰したとかになるとめんどくさいことこの上ないし。だが、今までの態度が高くついたという事は村人に刻み込んでやるぞ。


 くるりとまずマゼルの家族に向き直る。いやそんな身を竦めないでほしい。確かに貴族だけど取って食ったりしないから。

 まあいいや、反応は放置してやることをやらせてもらおう。俺はおもむろにマゼルの家族の前に片膝をつき、本来なら王族相手に対して行うような最上級の礼をした。


 「……!」


 周囲から驚きの雰囲気が伝わってくる。気にしない。演出だし。だが貴族としての演技ぐらいは俺にだってできるぜ。そのまま村人にまで聞こえるように声を上げる。


 「ハルティング家の皆様にははじめてお目にかかります。私はヴェルナー・ファン・ツェアフェルト。陛下より子爵を名乗ることを許されております」 


 ここまではさっきと同じだがこの後が本題だ。声を強くする。


 「ご子息であるマゼル・ハルティング殿に置かれましては、我が国の拠点であるヴェリーザ砦の奪還に多大なる貢献をしていただきました事、ヴァイス王国の貴族として厚く御礼申し上げます」


 村人の驚きの声がここまで感じ取れる。まだ俺のセリフは終わってないんだがな。


 「また、わが国のクナープ侯爵閣下の命を奪った魔軍の将軍を打ち取った戦功、学生であるがゆえに褒賞たる爵位こそ一時保留となっておりますが、陛下も多大なる国家への貢献であると褒め称えておりました」

 「陛下……」

 「王様がっ……!」

 「しゃっ、爵位……」


 村人の方から引きつったような声が聞こえてきたな。聞こえたからと言って言葉は止めないが。


 「マゼル殿には王太子殿下も大変に期待されており、私にも格別の配慮をするようにと指示されております」


 何も嘘は言っていない。殿下が勇者に期待してるのは事実だし、マゼルに配慮するようにと言われた件の人名を省略しただけだ。聴いてる奴らがどう誤解するかは知らんけど。


 ちらりと見るとジジイが蒼白になってやがる。当然だな。国王陛下や王太子殿下が称賛し期待していると言うマゼルの家族に暴力振るおうとしたんだから、事は王家の面子にもかかわる。

 と言うかヴェリーザ砦の事ぐらい伝わってるだろうにと思ったが、この手の奴らはどうせ自分が聴きたくないことは聴こえない、都合のいい耳を持っているんだろう。今回は耳に力ずくで押し込んでやったが。


 「見たところご自宅も焼失してしまった様子。王太子殿下から配慮せよとも言われておりますゆえ、我がツェアフェルト家が責任をもってハルティング家の皆様をひとまず王都にお迎えいたしましょう」


 言外に言う。王都で村人たちの行動について詳しく聴きますよ、と。当然その内容は王家にも報告が上がるだろう、って言うか俺が上げるし。なんか悲鳴みたいな声が村人の方から聴こえたが俺知らね。

 まともな民を守るのは権力者の仕事だが、勘違いしてる奴まで守るほどこの世界は優しくないんだよ。不敬罪すれすれの発言もあったし。睡眠不足と疲労もあって短気になってるのは否定しない。


 「ハルティング家の家長殿は負傷しておられる。村に荷車ぐらいはあるだろう。ツェアフェルトの名で接収してきてくれ」

 「はっ」

 「我らの代えの馬で荷車をひきましょう。連れてまいります」


 ノイラートが素早く動く。シュンツェルも動きが速いな。と言うか既に村人たちなんかいないものとして扱ってやがる。俺も同じだが。


 「あ、あのぉ、子爵様……」

 「ハルティング夫人、焼け跡から何か持ち出せるものがないかお調べください。二人ほど騎士をつけましょう」

 「は、はい」

 「重い荷物は我らにお任せください」


 騎士たちもさっさと動いてくれた。騎士であればあるほど国の敵である魔族の将軍(ドレアクス)を討ったマゼルに好意的だろうし、さっきのアレを見たらこの村に非好意的になるのは避けられんわな。

 疲れてるがこの村で休んだら精神が腐りそうだ。急ぎになるんでマゼルの家族には申しわけないし、野宿になるが夜のうちにさっさと村を出るとしよう。あのバカどもが処罰されない理由の方がないしな。蛇の生殺し? そういう表現もあるね。


 くそジジイが何か言っていたような気もしたが空耳だよなきっと。

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