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――72(◎)――

総合評価が65,000ptを超えましたー! 自分でもびっくりの数字です。

評価してくださる方も3,900名様、ブクマ登録数も14,300件を超えました! 嬉しいです!

感想や誤字報告もありがとうございます。

誤字は減らそうと努力しているんですけどなかなか…

落ち込みつつ更新頑張りますー!

 何が起きたんだろう。なんでこんなところにいるんだろう。

 動けない体でぼんやりとそんなことを考える。


 自分が人間じゃない何かにさらわれたことだけは解る。けど何でなのかとか何もわからない。足音もたくさんいるみたいだけど何人かもわからない。

 抵抗した時に殴られたところが痛いな。


 ここが村の外なのはわかるし、担がれているのもわかるけど何が起きてるのか考えようとすると頭に靄がかかったみたいになる。


 お父さん大丈夫かな。斬られちゃってたみたいだったけど。お母さん大丈夫かな。突き飛ばされてたけど。

 なんだか頭から布を被った相手に触られてから考えもまとまらない。どうなっちゃうのかな私。


 しばらく藪をかき分けながら進んでいたけど村から離れたところで止まった。地面の上に投げ出された。痛い。


 「このあたりで――」

 「時間も――」


 何か言ってる。話してる? わからない。


 「――が勇者の――」

 「間違いない、この娘で――」


 ぐっ、と頭が持ち上げられた。髪の毛をつかんで引っ張り上げられてるみたい。痛い。


 「――を飲ませ――」

 「素体として体を――」


 口を開かされる。何だろう。石みたいな物が目の前に近づいてくる。


 「――でこの娘は終わり」

 「――の復活――」


 え、終わり? 私、おわっちゃうの……?

 いや。そんなの……もう、会えないのかな……。お父さん……お母さん……


 「……お兄、ちゃ……」


 そうつぶやいた直後、ふいに、がつん、と引っ張られるように私は前のめりに倒れ込んだ。




 村を駆けだした俺は奇妙なことに気が付いた。こっちから村の外に出るとフィノイからは逆に遠ざかる方向になる。

 フィノイに直接向かうには逆に村を突っ切らないといけないはずだ。と言うことは目的地はフィノイじゃない。こっちにあるのは何だ。ゲームだと何があった。


 「……星数えの塔か」


 この時点では星数えの塔も魔物の巣窟となっている。しかも周囲に人家そのものがない。確かにあそこに連れ込まれたら勇者パーティーでもなきゃ救い出しようがない。

 幸か不幸か相手は藪を突っ切るように走ってる。枝が折られたり足元の草が踏みつぶされたりしてるんで後を追うのは難しくないが、ただ追うだけだと追いつけるかは微妙だ。

 最終目的地が星数えの塔だとすれば村を回り込むように動くはず。途中であえて相手の後を追うのをやめてショートカットするほうに動いた。枝が頬を引っかいたりしたが無視だ無視。

 時間的に俺たちが村に着いた時には誘拐犯は村から出ているぐらいのタイミング。追われてるとは思っていないはずだ。そこにきっと油断がある。諦めなきゃ間に合うはずだ。


 途中で曲がったが、少し進むとついさっき踏み荒らされたとしか思えない跡にぶつかった。数分分でもショートカットできた! さらに追う。完全に闇夜になっていないのは月が明るいからだ。運がいいと言っていいだろう。

 そしてちょっと開けたところで、気を失っているのか、抵抗もしていない女の子の髪をつかんで持ち上げているローブの人影一人と、その周囲を囲むように立っている三つの人型の影を見つけた。二体は剣士風でもう一体別のフードがいるな。

 ローブの男が髪をつかんでいない方の手を女の子の顔に近づけている。なんだかわからんがろくな事じゃあるまい。俺は足を止めないまま槍を握り直した。


 「あたれぇっ!」


 《槍術》スキルはあるが《投槍》スキルってのはない。だから投げる方にも《槍術》スキルは有効。ただ投げるための槍と普段使う槍はバランスが違うんで、普段使いの槍を投げるのは流石にぶっつけ本番にはなったが、上手くいった。

 全力で投げた槍の穂先がローブの顔面ど真ん中に吸い込まれ、そのままローブの男は顔から槍を生やし仰向けにその場に崩れ落ちる。髪をつかまれたままの女の子も一緒に倒れちまったが後で詫びよう。


 何が起きたのかわからないらしい周囲の三体のうち、フード野郎に剣を抜いて切りかかる。剣技は苦手だが剣そのものの質がいい。足を止めずに相手に斬りつけ相手は大きくのけぞり倒れ込んだ。血と言うか体液が飛び散る。

 倒しきれなかったみたいだ。大振りになっていたんでもう一度剣を振り下ろすのは隙が大きくなりすぎる。思い切り蹴とばして女の子の近くから引き離した。カエルを踏み潰したような声が聞こえたが放置。

 その間に残り二体も剣を抜いてこっちに向き剣を振るってくる。とっさに避けたが胸甲をわずかにかすめた。ひとまず女の子が狙われなきゃよし。


 敵の動きが何かどこかおかしいが考えてる場合じゃない。さらに距離を詰めて格闘戦の間合いに入ると、剣を構えている相手の顔面を柄を握ったままの拳で殴りつけ、すぐに剣を横に払う。拳でとか学生時代の喧嘩を思い出すな。

 もう一方の相手が振った剣が俺の剣にあたり火花が散った。殴った勢いで位置を入れ替え、女の子を背中に庇える位置に移動する。殴られた奴は声も出さないな。苦手な剣で乱戦はきついんで何とか戦闘力を減らしたいんだが。

 殴った拳から腐臭が臭ってきた。腐臭? 驚いて月光の中で相手の顔を見直し、次いで思わず声を上げる。


 「な、何でこいつらがここにいる!?」


 死体剣士(デッドソードマン)? こんなところに出てくる敵じゃない……いやまて。星数えの塔には確かにレアで出没した。ベリウレスが倒れた後のダンジョンに。ってことはこいつらベリウレスの部下じゃないのか? 

 いやでも村を襲ってたのはベリウレスの部下であるはずの大神殿で出現する爬虫類系だ。おかしい。何かがおかしい。


 困惑しつつも剣を振るう。相手の剣で受け止められてもう一体がその隙に切りかかってくる。くっそ、相手がアンデッドだと顔面殴ったりしても無駄だった。いまさら言っても仕方がないが。

 メイン武器が槍だと盾を持ってないんで二対一の上に剣一本で二体の攻撃を受けなきゃいけない。きついなこれ。


 剣を受け、切り返す。横に薙ぎ、突きを避ける。鎧に相手の剣が当たり衝撃が内側に響き火花が外に散った。

 苦手な剣で相手が二体でしかもここいらで出てこないはずのレアモンスターとかマジで勘弁。しかもこっちは疲労してるんだからハンデ戦もいいところだ。


 五合、十合、十五合。剣と剣が当たると火花が散り、手がしびれつつもひるまず相手に切り返す。突き込んでくる剣をとっさに受け流し、振り下ろされる剣は受けると同時に手首をひねって逆に相手の体を崩す。月夜の中で二対一にしては我ながらなんとかいい勝負になっている。

 しばらく二体と打ち合う。片方に意識を向けるともう片方が切り込んでくるんで両方に注意を向けなきゃならず、精神的には消耗が凄い。ただ徐々にこっちが押し込まれているものの、鎧が頑丈なおかげで意外とこっちも怪我はしてないな。

 だが体力的にはこっちの方が絶対に不利だ。こうなったら肉を切らせて何とやらで行くかと思ったとたん、何か声のような唸り声のようなものをかすかに耳がとらえる。

 俺はとっさに剣を大振りすると同時に身を翻し、剣を手放すとまだ地面に横たわってた女の子を左手で抱きかかえ、右手で視界の隅に入ったそれ(・・)をひっつかんでその場から距離を取った。


 直後に轟音が耳朶を乱打し、背中に衝撃と高熱が叩きつけられた。

 ゴロゴロと女の子を抱え込んだまま地面の上を転がりながら距離を取る。いってぇ。さっき蹴飛ばしたフード野郎が立ち上がりこっちに手のひらを向けているのを確認する。蜥蜴魔術師(リザードマジシャン)だったのか。今のはどうやら炎系魔法のようだな。

 爬虫類系って事は、奴はベリウレスの部下なのか? いや別に一緒にいてもおかしくはないんだが。とりあえずそのあたり考えるのは後だな。


 何回か地面を転がりながら位置を確認した直後に死体剣士が距離を詰めて襲い掛かってくる。わからなくもないがそりゃ悪手だぜ。背中の痛みに耐えつつ自分の足場を安定させられる場所を確認し、相手の動きを見ながら半身を起こし片膝を立てて狙いを定める。


 死体剣士が剣を振りかぶって俺に狙いを付けたことを確認した直後に体が動いたのは、訓練の賜物かスキルのおかげか。

 がつん、と鈍い音ともに死体剣士の右から来た奴の鎧と胴体を貫通し背中から槍の穂先が突き抜けた。


 「やっぱこっちの方が俺の得物だよな」


 背中が痛いがこの程度なら我慢できる。俺は立ち上がりながらにやりと笑うと右手に引き抜いた槍を構え直し、左手の女の子を抱えなおした。

※意外に思われるかもしれませんが、実は西洋鎧って結構柔軟に動けるのです。

 https://www.youtube.com/watch?v=5hlIUrd7d1Q

 かなりのスピードで走ることもできるんですよー。


 そして片手に武器、片手に美女(美少女)はテンプレですよね?

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