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評価者数3,400名様、ブクマ登録も12,500名様超えましたー!

感想をくださる方、読んでくださった方、応援してくださる方、本当にありがとうございますっ!

GWが抜けていない感じですが頑張りますー!

 ざわざわとした空気がここまで届いてくる。

 ここの宿舎は難民キャンプ……と言ういい方はしていないものの、俺の認識で言えば難民キャンプの夜間警備兵とか、そういう人たちも詰めている。おそらくそっちにも連絡が行き渡ったんだろうな。

 体感で言えば一時間は経ってないと思うが、鎧を着た時間も考えれば三〇分は経過しただろうか。馬蹄の音が聞こえてきたのに気が付いたのはこっちも緊張して注意力が高まっているからか。


 「待つ必要はないな。フレンセン、マックスたちを呼んできてくれ」

 「はっ」


 招集はフレンセンに任せて宿舎を出ると先ほどのキッテル騎士が馬からちょうど飛び降りたところだった。なかなかの馬術だな。


 「ご苦労。指示は?」

 「はっ。現在警備任務に就いているツェアフェルト伯爵家隊は総員出立、王都近郊のバーデア村で騎士団と合流せよと」

 「総員だと?」

 「はい、総員です」


 水道橋工事は放り出せって事か。いや多分翌日以降は別の隊が水道橋警備任務に玉突きのように従事することになるんだろう。その準備時間も惜しいのか。

 常時出撃に備えてる騎士団と貴族家騎士隊だと緊急時の反応速度が違うのは確かだ。すぐに動ける貴族家騎士隊をかき集めているって事か。指揮系統大丈夫なのかね。

 ちょうどマックスたちも到着したんで後は騎士団に合流してから責任者に説明を聞いたほうがよさそうだな。


 「解った。マックス、オーゲン、バルケイ、これからすぐに出る。夜間行軍で朝までにバーデアに着くぞ。フレンセン、後任に引継ぎは任せる」


 すぐに全員が自分の隊に駆け戻り従卒が松明に火をともす。魔道ランプもあるが煙が出ないランプの方は必要な時まで温存。第一、雨の時はランプに頼るしかなくなるから普段は原始的な松明だ。

 その間に俺の従卒が馬に鞍を乗せていた。出兵回数が増えたせいかもしれんが皆そつなくなってきたよなあ。


 「魔物の警戒を怠るなよ、出発!」


 馬蹄が夜空に轟き夜闇の中を松明そのものと鎧に反射した明かりが煌めきながら通り過ぎる。傍から見ていれば幻想的な光景だろうな。




 もともと王都の衛星村であるバーデアはそれほど遠くもない。徒歩で半日あれば十分到着できる距離だ。夜間警戒しながらであっても到着までにはそれほど苦労はない。幸い魔物の襲撃もなかったし。

 バーデア近郊には既に騎士団が到着し出発に備えて準備を続けているが何と言うか緊張感がすごいな。


 「ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト、到着いたしました」

 「お通りください」


 本陣テントであいさつしたらまさかの顔パス。いや違うな。余計な時間さえ惜しいのか。


 「失礼いたします」

 「うむ、ヴェルナー卿、来てくれたか」


 おおう、セイファート将爵とその隣にいるのは確かウベ・フライムート・シュンドラー軍務大臣閣下じゃないか。軍務のトップがこんなところにお出ましかよ。


 「遅くなりました」

 「卿は早い方だ。だが済まぬがすぐに出てもらうことになる」


 おいおい。シュンドラー大臣の発言に渋い顔を隠すのにちょっと努力が必要だった。また随分な指示だな。そうは思ったが将爵の眉間に皺が寄っているので反論は控えておこう。代わりに質問はする。


 「また魔物暴走(スタンピード)ですか?」

 「違うと思われるがまだわからん。そして確かなことは今回完全に出遅れておる。最初に被害があったのはペルレア村で二週間も前じゃ」


 将爵の口からペルレアと言われてしばらく思い出すのに時間がかかった。ここもゲームでは登場しない村だがデトモルト山脈の上流域にある村だったか。


 「ペルレアは全滅していたとしか思えん。思えん、と言うのもヴァレリッツからの使者が来るまで何も知らなかったし解らなかったからだ」


 大臣の発言を聞きながらデトモルト山脈のモンスター出現状況を頭の中で確認する。ゲームだとあの辺は確か人食いトカゲとか山ワニとかの出没地域だったよな。


 「その後の状況を確認すると魔物の群れはヴァレリッツの次にデンハン方向に向かったようでな」


 その後の状況、ね。ヴァレリッツは落城したか。予想していなかったわけじゃないが驚きがないわけじゃない。とは言えその言い方だと占領したりはしていないようだな。

 ん? デンハン村もゲームには出ないが、アーレア村と並んで大神殿への巡礼者が宿泊する村だと聴いたことがある。デトモルト山脈からヴァレリッツ、デンハンと線を結ぶとその先にあるのは……。


 「……敵の目的はフィノイですか」

 「卿は聡くて助かる」


 フィノイの大神殿。そうか、これは魔軍三将軍の一人ベリウレスによるフィノイとそこにいるラウラ襲撃イベントか。ゲームだといきなりフィノイが襲撃されたとしか情報がなかったが実際はこういう経緯をたどってたのか。

 わかっていることだが確認しておこう。


 「まさか第二王女殿下も?」

 「殿下もフィノイにおられる」


 確定。そして王国軍が急ぎたい理由も理解した。信仰の中心地であり第二王女がいるところにヴァレリッツを攻め落とすような敵が向かってるんだからな。


 「デンハン近辺には大軍が通れる道がなかったと記憶しておりますが」

 「その通りじゃ」


 将爵が苦い表情で頷く。ゲームだと大神殿前は草原だがその途中まではそもそも森しかないようなマップだったはず。道なんてとんでもない。多分巡礼用の小道ぐらいしかないんだろう。俺が記憶を掘り返している間も大臣が発言を続けていた。


 「それゆえ逐次投入に近い形になるが、順次行ける軍から現場付近まで行ってもらう。補給は何とかする。ツェアフェルト伯爵家隊には別街道を使い、最速でまずヴァレリッツに向かってほしい」

 「ヴァレリッツで一度隊列を整えるわけですか」

 「そうなるの」

 「別ルートだと遠回りになりますね。承知いたしました」


 メインの街道は騎士団が通るが騎士団が通るとなると他の貴族家騎士団が通るスペースがなくなる。渋滞するという方が近いか。分進行軍と言うわけだな。


 「ではツェアフェルト伯爵家隊は直ちに出陣し、西回りのルートでヴァレリッツに向かいます」

 「頼む」


 おや、まさかの将爵から頼まれごとだ。しょうがない、やるしかないか。急いで隊に戻ると全員に届くように声を上げる。


 「全員聴け! 魔軍の目的地はフィノイだ! これから最大行軍速度でまずヴァレリッツに向かう!」


 マゼルがラウラのとこに到着するまで時間稼ぎをすればいいんだろう。多分。ゲームだと騎士団がいなくても間に合うんだから大丈夫さ。と言うかゲームと異なり騎士団がいるって状況、逆にどうなるのか想像がつかん。

 それはそれとしてやれることをやるが。むしろ現場で変化をこの目で見ないと不安もある。願わくばシナリオ通りに進んでくれますように。

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