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夕方になって王都城外に作られている宿舎に入って一息。この件ではツェアフェルト伯爵家隊だけじゃなく複数の貴族家が城外で活動しているので宿舎の数もそれなりに存在している。
実のところ、水道橋完成後にはこの宿舎付近で例の一次産業開発が始まることになっていて、その際には労働者たちの共同住居となる予定。
家族での居住も許されているんで単身赴任ではないが社員寮と言ういい方なら間違っていないだろう。宿舎でもあるんでやたら無骨な作りになっている。まあそれはいい。文句を言いたいのは。
「アウデンリート伯爵はこの五戸制を
「反対だ。管理する数が増えれば増えるほど書類上だけのものになる。形式じゃなく実行されていないと意味がないし、チェックは確実に働かないといけない」
「なるほど」
「それに結局のところ管理制度じゃなく監視の手段だからな。仕事をもらえるなら不満でも妥協するだろうが、ただ監視されるのはいい気分じゃないだろうさ」
「インゴ様にはそのように伝えます」
いや確かに江戸時代ごろの五人組制をイメージした難民の管理手段は提案したよ。戸籍作るより手っ取り早いし、相互に監視させるため人手がかからず管理システムとしては優秀だ。少なくとも数年単位の短期的には。
難民は追い出されれば行くところがないから、子供がいる家庭なら組の誰かの犯罪に巻き込まれないように必死にもなるだろうからな。それはいいんだ。
問題はそれがなぜかこの王都近郊農地の居住条件の一つになってたり、難民管理だけじゃなく王都内部にまで広げたいとか話が広がってる件だ。
そんな民政レベルにまで俺の意見を聞かないでくれ。江戸時代研究の学者じゃないんだから運用面詳しくなんかないっての。
それでも発案した以上は責任があるから意見を求められたら返答はしないといけない。ああめんどくさい。父の言うように余計なことにまで首突っ込むんじゃなかったぜ。
それにしても古代の軍は五人一組だし五人組も考えてみれば五家族一組だ。なぜか近代以前でこの手の組織論では五と言う数字が基準になってるんだよな。
やっぱり指導者教育を受けていない兵士や農民には五人ぐらいが管理の限界だったんだろうか。文字や数字を学ぶ機会がなかった場合は把握が困難だったとか。考えてもしょうがないんだけど。
「ヴェルナー様、こちらが報告書になります」
「ああ、ありがとう」
わざわざフレンセンが宿舎まで持ってきてくれた報告書を確認する。自分で淹れた紅茶は味が安定しないな。今日はちょっと濃過ぎた。そういえばこの世界、コーヒーってないなあ。気候の問題だろうか。
そんなことを考えつつ報告書の束をめくる。
マンゴルドに関しては謎が増えた。例の暴走前に誰かと会っていたことははっきりしているんだが、酒場でフード姿の誰かとしばしば会っていた、じゃあ目撃談とは言えない。そいつが誰なのか謎のままだ。
本人は落ちぶれていたとはいえ侯爵家の人間と何度も会えていたってことは全くの庶民とは考えにくいんだが、今のところ足をつかめていないらしい。まあこれはしょうがない。俺もフレンセンにはいろいろ頼んでるし。
それ以上に謎なのがマンゴルトが率いていた人数だ。その一団は王都の外で目撃された際に数十人はいたらしいんだが、王都の中からはそんな人数がいなくなったという話はない。消えているのはマンゴルトとその側近たち数人だけ。
念のため調べてもらったが他の貴族家からもそんな人数は消えていないようだし。じゃあどこで人数揃えたんだって事になる。しかも城門を出たところが目撃されていないというおまけつき。流石に怪しいと王室の方も調査しているみたいだ。
フレンセンも相当に胡散臭いと考えだしたらしく最近はずいぶん積極的だ。要調査継続と言うことで任せておいてもいいだろう。
難民の中で文字や数字が解る人物に孤児院での教師を任せることに関しては父も容認し、教師役には報酬も出してくれることになった。もちろん、それで見込みのある子供はそのうち囲い込むつもりなんだろうが。
一方、孤児にも仕事を与えている。と言っても難しい仕事じゃなく道路の掃除だ。本来騎士科だったはずの学生が引率してゴミ拾いやらなんやらをやってもらっている。イメージ上昇と言う意図もあるが、それだけでもない。
働かざるもの食うべからず。子供に仕事を与えて給与を払ってる。都市の美化に働く子供たちを冷遇しているなんて評判は立てられるといい気分はしないだろうから今のところ邪魔は入っていない。
これのもう一つの目的はまだ全然だ。とは言え一~二週間で終わるものでもなし。こっちも継続だな。
「こっちはまだまだ苦戦気味か」
「例のないものですから」
職人街の職人たちには二つの仕事を依頼している。片方は幸いセイファート将爵がどこからか聞きつけていろいろな面で協力してくれた。父のおかげだろう。
まあ軍事部門に携わる将爵にとっても高性能の弓の研究と言うのは興味があるだろうしな。
この世界の弓ってどういうわけだか普通の木製の弓からいきなり魔法の弓までランクが飛んでしまう。いや
そこで提案したのが
単弓と違って射程と破壊力は向上する。その分張力が高くなるんで引くのも大変だし保存中に気を使うことも多くなるが。
そして何より、魔獣の素材で合成弓を作ったらどうなるのか、と言う点は俺自身ものすごく興味をそそられる。引くのはものすごく大変になるだろうが相応の威力が出るんじゃないかと思ってるし。
どの素材が適当かとかの研究は弓職人の創意工夫に任せるしかないんだが。幸い素材も将爵のお声がかりがあっていろいろな素材が提供されているらしい。
これに成功したら次の奴も作ってもらうことになっているし、その準備も進んでる……はず。概念図は渡してあるんでたぶん何とかしてくれるだろう。俺の画力じゃ設計図とは言えないんでそこは気がかりだが。
「玉の方も苦戦中?」
「バランスのよい球体にするのが難しいそうです」
「まあ今まであんなもの作る事がなかっただろうしな」
王国の装備は近衛から順番にだんだん俺が装備してるのと同レベルかそれ以上になり始めている。もっとも貴族の中には先に自分の家にと横から言う家も出てきてるらしいんで発注責任者やビアステッド商会を含むギルドは大変らしいが。
ただそうすると今まで装備を作ってきた工房とかが商売あがったりになりかねないので、古い鎧なんかを安く下げ渡してもらって、それを熔かして別のものを作ってもらってる。
現状ではゴルフボール大の物と野球ボールぐらいの金属の球体の二種類だが、ノウハウが蓄積されたらもっと別のサイズも作ってもらう予定。と言うより実はそっちが本題。
サイズも一定でないと困るしすぐに壊れるようだとあんまり意味がないしで注文がうるさいのは自覚しているが間に合ってほしいなあ。
余談ながら慣れない仕事が急増した職人たちはストレス発散も兼ねてるんだろうが、職人街近くの公衆浴場をよく使うようになったらしい。
客が来るんだから売り上げもそれなりには出るだろうし、水不足なら調達先探すのも大変だろうしでさぞやお忙しいことでしょ。孤児院にかまう暇はなくなるだろうな。俺は何もしていない。
「
安心した。本当は本人たちにも会いたいんだが何せこの状況だからな。もし王都にとどまっていてくれるなら今度の休みの時に屋敷に戻りがてら詳しく話を聴こうか、と思ったんだが報告書を見て眉をしかめてしまった。
「あー、フレンセン、どういうことだこれ」
「理由までははっきりわからなかったそうです」
マゼルの家がアーレア村で村八分になってる? 正直理解不能だ。フレンセンに視線で続きを促す。
「宿屋なので金銭は外の客が落としますが、食材とかそういうものを村の他人から購入できなくなっているようだと」
香辛料とか塩とか余裕があったら譲ってほしいと
「流通の方の問題か?」
「いえ、他の村人も“あそこの宿に泊まっているのか”と言うような態度をとってきたそうです」
うーん? そんなことってあるのか? 仮にも王室お声がかりの勇者様ご実家だろうに。なんか謎が増えたな。
早く話付けないとどっか行っちまう危険性があるのが冒険者である。予約指名入りまーす。いやそんな冗談言っていてもしょうがない。
「フレンセン、今度の休みに……」
「ヴェルナー様、申し上げます!」
突然扉の外から大声が響いた。声に聴き覚えはあったんでフレンセンに合図して扉を開けさせる。騎士が一人転がり込んできたが俺が指揮してる隊じゃなく父の直属騎士だったはず。どこか別のところで事件でも起きたか?
「卿は確かキッテルだったか? どうした、王都で火事でもあったか」
「違います。宰相閣下より緊急出動令です!」
……は?
GW終わっちゃいますね…
天候もあんまりよくなかったのでいまいち休めた気がしないGWでした。
読んでくださっている皆様もお体にはお気をつけて。