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またレビューをいただきました! 嬉しいです!

ブクマ登録数がついに10,400名様超えました。五桁なんて最初想像もできませんでした。

2,800名の評価をくださった方も、本当にありがとうございます!

 帰宅前に大回りして学生寮にいるはずのマゼルの所にも顔を出した。王室直属になる事、対魔王戦の戦力として魔王討伐が正式に言い渡されるだろう事、ルゲンツたちに関しても丸抱えしてもらえることなどを説明する。

 今のところこっちの都合が全部通っていることになるが、そこは相手があの王太子殿下だ。そのあたりもひっくるめて何か考えがあるんじゃないかと言う気もしている。

 頭悪い上司は頭痛の種だが、頭良すぎる上司は胃が痛くなるな。


 「なるほど、わかった。わざわざありがとう」

 「気にすんな。それに俺個人としてならいくらでも協力するぜ」

 「助かるよ。……もしあちこちに行かなきゃいけなくなるとしたら、何を注意すればいいと思う?」

 「そうだなあ」


 えらいふわっとした相談だな。いやゲームのシナリオは知ってるけど。だからと言って先の事を知っているなんて話しちゃうわけにもいかないし、シナリオとの乖離もちらほら見えている。なんか先入観持たせたら危ないような気がするんだよな。


 「まず拠点になる町とか村でちゃんと情報収集することだろうな。地元の人間が地元の情報には一番詳しいし」


 ゲームだとイベントやダンジョンの情報は大体近隣の街とか村で聴けるからね。それにこの中世欧州風世界では情報通信手段は弱い。地元の情報は地元が一番と言うのは間違いないだろう。


 「移動やダンジョンの探索中に関してはむしろルゲンツの助言をよく聞いたほうがいいと思う。何といっても冒険者として旅慣れているだろうし」

 「うん、それは解る」


 実際問題、旅の最中の注意点とか、目の前で起きないと判断できないことは多いだろう。俺だって毎日キャンプする場合の注意点とかそんな詳しいわけじゃないし。そういう意味ではベテラン冒険者のルゲンツがいてくれるのはありがたいし、その助言は絶対に役に立つはずだ。


 「あとはまあ、無理はしないことと消耗品を使うのを惜しまないことだろうな」

 「消耗品?」

 「毒消しとかポーションとか。道具抱えて死ぬとか馬鹿らしいじゃん」

 「確かに」


 怖いのは毒だったんだよなこのゲーム。毒には注意することを強調しておいた方がいいだろう。それに何よりゲームのようにリスタートは無理だろうと思うし。即死防止アイテムぐらいなら効果あるのか?


 「ほかには敵に応じた戦い方をすることぐらいしか助言はできないな」

 「敵に応じた?」

 「属性的にさ、敵が火属性なら水属性の武器を使うとか、魔法系の相手には物理で殴るとか。落ち着いてその辺の判断をすることかな」

 「なるほど……」


 まあそんなことを言ってる俺には選択肢の方がないんだけどな。スキルは槍術一本だから相手が物理攻撃に強い奴だとそれだけできつい。物理無効だったら逃げの一手だ。幸い王都の周囲にはそんな敵は出てこないが。

 しかしこれって見事なまでにゲームキャラクターのセリフだよなあ。こんな強制力は嫌だ。


 「まあ何かあったらいつでも相談に来てくれ。できる限りのことはするぜ」

 「期待してる」


 マゼルはそう言って笑った。本来なら俺がいなくても何とかするだろう。何と言っても勇者(しゅじんこう)だし。だがそれとは別に愚痴や相談ができる人物がいてくれた方がいいだろう。当たり前だがゲームにはそういう存在はいなかったしな。普通の冒険者はパーティーメンバーに愚痴とか言うもんなんだろうか? そもそも冒険者の普通とは何ぞや。

 やっぱりこの世界はどっか中途半端なんだよなあ。この違和感は何だろう。とは言えここで考えていても回答が出るわけはないな。


 「まずはハーフェンの街あたりを拠点にして腕試しをしてから、当座の目的としてはフィノイの大神殿に行けるぐらいにするといいんじゃねえかな」


 うろ覚えだがゲームだとそんな感じだ。まあ途中にダンジョンとかあるんでストレートに行くわけじゃないが。ハーフェンで情報を集めればトリアム洞窟のことはすぐ耳にするだろう。

 ラウラの状況もよくわからんしな。先日王都で鉢合わせしたんで今現在フィノイにいるのかどうかも疑わしい。

 今度は何でも疑いすぎているだろうか。


 「解った。無理せずに頑張ることにするよ」

 「ああ、途中で野垂れ死ぬような真似は許さねぇぞ」

 「気を付ける」


 苦笑気味にそう言ったマゼルに手を出す。マゼルも手を伸ばし握手した。


 「んじゃ、俺は戻る」

 「解った。ヴェルナー、頑張って」

 「マゼルもな」


 笑って手を振り、学生寮のマゼルの部屋を出る。多分、これでマゼルは本格的にゲームのルートに入ったと言えるんだろう。ここから先の冒険部分に俺の手助けが必要になるとは思えない。

 一方の俺はこれからあの王都襲撃イベントまでシナリオなき世界だ。しかも厳密にはゲームと異なっているとはいえ、実際のところあのイベントが発生すると仮定したら、死ぬ可能性が高いのはマゼルじゃなく俺の方だ。

 だが。


 「脚本家(シナリオライター)の都合なんぞ知ったことか」

 「は?」

 「何でもない」


 学生寮の外で待っていたフレンセンと合流した際に思わずつぶやいてしまい、怪訝な顔をされてしまった。だが本心だ。どうせストーリーが変わってるんならせいぜいハッピーエンドに向かうようにしてやる。

 これはひょっとするとマゼルの奴の変な影響だろうかと思わなくもない。あそこまで信用されるとできることはやらないと何となく落ち着かない。これが主人公補正と言う奴なんだろうか。どっちでもやることは変わらんけどな。

 凡人が本気で悪あがきすれば、さぼり癖のあるチート程度には結果を残せるだろうさ。




 館に戻るとフレンセンから簡単に報告を受ける。マンゴルトの件は進展なしだがこれは予想通り。と言うか昨日の今日で何かわかるとは思ってない。


 「それはそれとして、少し手伝ってくれ」

 「はっ?」

 「ちょっと父経由で国宛の提案書書くんでな」

 「かしこまりました」


 自分で予算を出せない以上、他人を巻き込んで計画を進める方法を考えるしかない。まあ幸いと言うか何と言うか俺の第一目標は死なないことだ。儲けとか利益とかは他人に多く分けても気にならない。

 もっと言えば貴族の息子ってだけで恵まれてるしな。それは今日の孤児院で実感した。他人に利益を持って行ってもらう代わりに協力してもらうということでまとめればいいだろう。


 しかし提案書は本当に面倒。ペンとインクで書くと間違えられないんでどうしても下書きが必要になる。木の板に案を書いては消し、読みやすさや意味が誤解されないように文脈を考え、かつ非礼になっていないかも気にしなきゃいけない。

 それをまとめて最終的に紙で提出する提案書の形に落とし込んでいくんだがこれが大変だ。自分一人でやると見落としがあると困るから補佐がいると助かる。前世の頃みたいなプレゼンソフトはないし。そもそも提案とかの共通フォーマットもないんで書き方だけで問答無用に却下されたりもする。


 しかしインクつける羽ペンは格好はいいんだけど使い勝手がよくないわほんと。毎回インク壺に突っ込むのが面倒で困る。


 この世界、実はボールペンのようなものもあったりする。ペン尻につけた魔石を用いて魔力でインクを生成し続けるんで、魔石がつかえなくなるまでインクがなくならないと言う、なかなかファンタジーな代物だ。使用時間と言うか耐久性と言う意味では前世のボールペンより優れている。

 ただ魔石がペン尻についているんでペン全体のバランスが悪い。はっきり言えば書きにくい。このペンで長時間丁寧にものを書くことができるようになることが官僚になる最初の試練とまで言われている。俺には無理。

 ついでに言うと結構お値段もするし。面子だけで買う貴族はいるらしい。扱いで言えば前世での高級万年筆みたいなもんか?


 「ま、愚痴ってもしょうがないか」


 江戸時代にはそれっぽいものがあったはずだから万年筆も技術的には可能なんだろうし、毛細管現象を使ってることぐらいだけなら知っている。生き残ることができたら万年筆でも考えてみるかね。

※付けペンを格好いいからと使ったことがありますが、一回使った後は飾りになっていますw

 ホームズの『赤毛連盟』は挿絵の羽ペンで辞書の書きうつしをしたのかな……

 大変だっただろうなあ……

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