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昨日は本文更新のみでしたが、一昨日にレビューを頂戴しておりました!
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二人を連れて向かったのは魔術師隊の研究所だ。外見は螺旋状の塔みたいになっているが、中はもっと複雑な作りになっているらしい。ファンタジーだ。
もっともゲームのマップもどんな建造物だと言いたくなるようなものは少なくないしな。明らかに空中に浮いてるだろうとか思える孤立した部屋とか。ダンジョンだったりするともっとひどい。あれも実は魔法だったんだろうか。
そもそもゲームで魔術師隊とか出てこなかったし研究所もなかったんだし考えるだけ無駄か。でもこの建物は建築方法そのものがまず謎だ。いっそアルミかなんかでできてると言われた方が納得がいくぐらいの曲線だな。
入り口で誰何されたので名と爵位を名乗りフォグトさんを呼んでもらう。魔術師隊の門番も武装兵士だ。まあ視覚効果と言うものもあるだろう。武器を持っているのは単純に抑止力になる。考えてみれば護衛とか警備に魔法使いの姿をあまり見ないのは数が少ないからなのかね。
もっとも、そもそも王城の中ではあるんだけどな。そうは不審者が来ることはないだろう。そう考えると無駄なような気もしなくもないがそこはいろいろあるんだろうな。
「どうぞお通りください。三階の銀研究室でお待ちしております、とのことです」
「感謝する」
衛兵に挨拶をして入り口で場所を聞いてから階段を上る。魔術師隊の研究所ってあんまり来ないから新鮮だ。同じ城内とは言えやっぱり空気が違うな。アカデミックな雰囲気とでもいうのかね。
銀研究室ってのはいくつかある部屋のプレートの色のようだ。扉は同じ規格の物だが赤とか白とかプレートの色で分けてるんだな。銀色のプレートを見つけるとノイラートがノックをして中から返答を待ってから扉を開く。
「お久しぶりです、ヴェルナー卿」
「ご無沙汰しております」
ヴェリーザ砦の報告をした時以来なんで確かにご無沙汰だ。それでもフォグトさんは「お忙しかった事情はうかがっております」と笑ってくれた。うん、イケメンだね。
本人の研究室は別にあるらしいがそれとは別の広い部屋での面会だ。研究室と言うが別に怪しい壺とかかき回しているわけでもなく、いろんな人が椅子に座って何やら計算のようなことをしていたり、何か図を書いていて意見を戦わせたりしている。
感覚としてはむしろ理系の実験室でグループごとに席に集まって実験研究してる、グループミーティングルームって感じの方が近いな。
「どうですか、範囲魔法対策は」
「順調とは言えませんが方向性は見えてきました」
そのあと専門用語が並んだ。効率のいい魔力蒐集方法やら逆に蒐集した魔力をどのように使えないようにするかなど、説明はしてくれたんだが俺にはさっぱりだよ。
もともと魔法科でもないし学校も事実上中断してるレベルだしな。前世の知識を生かせるところならともかく、そうでないことははっきり言えば苦手だ。
「魔力をどこかに保存することはできないのですか」
「大きな魔石ならできるのかもしれませんが、魔石はもともとある魔力を使い切ると割れてしまうので実験に使うのも難しいのですよ」
「なるほど」
意外といっては何だがシュンツェルは結構話について行っている。そういえば使い捨ての攻撃魔法アイテムとかなかったもんな。一部アイテムは道具として使うと魔法もどきもできた気がするが。炎熱の杖とかいったっけ。MP使わないから便利っちゃ便利だったが威力的には中盤までしか使えなかったような。
それはそれとして今の会話で思い出したことがある。フォグトさんに聞いてみるか。
「そういえば、なのですが」
「何か気になるところでも?」
「ああいえ、範囲魔法の件ではなくてですね」
思い出したのはマゼルが言っていた魔族からのドロップアイテムらしい黒い宝石の件だ。確か魔術師隊で研究されていたはず。全く覚えのないアイテムだけに何かわかっているかなと思ったんだよな。
「ああ、あの。そういえば勇者殿とも親しかったのでしたな」
そう言って話してくれたフォグトさんによれば、確かに魔術師隊で研究はしているそうだが担当が違うらしい。まあ一人で何でもかんでも研究している時間がないのは当然か。
「ピュックラーに聴いてみましょうか」
「マゼルにも進捗を伝えたいですし、お願いできますか」
「かまいませんよ」
気軽に応じてくれたフォグトさんにぞろぞろとついて行き、担当者のいるだろう研究室まで移動。いやほんとこの建物どうなってんの。外から見た面積と違わない?
そんなことを思っていたらフォグトさんが扉の一つをノックしていた。
「ピュックラー、いるかい」
「少し待て」
くぐもったような声がした後、少しして開いた扉から出てきた顔に少しだけ見覚えがあるような。メガネが似合いそうな外見……ああ、この人もヴェリーザ砦の報告をした日に見たな。会話とかはしなかったが。
「どうかしたのか、フォグト」
「ああ、こちらのツェアフェルト子爵が」
こっちに視線が向いたので一礼する。目が冷たい。たまにこう研究の邪魔をされると腹立てる人っているが、この人もそういうタイプだろうか。いや確かに俺は魔術師隊からすれば部外者だけど。
「例の黒い宝石に関して解ったことがあったら教えてほしいということでね」
「そういう事か」
フォグトさんに頷いて俺の方に向き直る。インテリ型で俺の苦手なタイプではあるんだがそれを差し引いても視線がきついな。
「ロゲール・ピュックラーと申します。ツェアフェルト子爵にはお初にお目にかかります」
「よろしくお願いいたします、ロゲール卿。ヴェルナー・ファン・ツェアフェルトです。こちらは部下のシュンツェルとノイラート」
ピュックラー氏は二人にも一礼。そのあと俺に向き直り口を開いた。何となく違和感を覚えたがとりあえず流しておこう。フォグトさんは特に何も思わなかったようだし。
「わざわざ来ていただいたのに申し訳ありませんが、あまり研究は進んでおりません。それと現在来客中でして」
「それは申し訳ない。日を改めましょう」
表情と言い態度と言い、どう見ても歓迎されていない様子だったのでさっさと引き上げることにする。シュンツェルたちが何か言いたげだが目線で黙らせた。少し離れてからフォグトさんが頭を下げてくる。
「申し訳ありません、ツェアフェルト子爵。以前はあそこまで不愛想でもなかったのですが」
「お気になさらず」
塩対応されて喜ぶ性癖はないがいちいち怒る気もない。気分はよくないが。
「あの対応は正直いかがなものかと思いますが」
そうノイラートが言ってきたが俺としては判断に悩むところだ。実際に忙しいところに来客が来たので塩対応になったのか、貴族としての派閥に対して隔意があるのか、ツェアフェルト家に思う所があるのか、俺個人に何かあるのか。
正直どれもありそうで困る。俺だって清廉潔白じゃないし。それに相手が平民出身だったりすると貴族に距離感を持つ人物がいるのも確かだ。理由は解らんがあまり好意的ではない相手にごり押ししても態度を硬化させるだけだろう。
まあその辺をフォグトさんに聴かせるわけにもいかんし、ノイラートとシュンツェルの二人には後で相談するとしようか。研究状況の進捗はフォグトさん経由で聴けばいいだろう。
その後も魔道具や装備を製造する際に使う魔法に関する情報などを聴くことができた。直接的に得るものはあんまりなかったが、対範囲魔法対策に本気で取り組んでいてくれているのが分かったのはありがたい。
とは言えタイムリミットは
※伏線を張ってありますのでそこは指摘されてもスルーします。
ご了承ください。