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王太子殿下の前を退いてほっと一息。何か確認したかったことがあったような気もするが思い出せん。ちょっとやること抱えすぎてるかな。
どっちみち自分にチート能力なんぞないことは解っているんだし、任せられるところはどんどん丸投げしていこう。何でもできる主人公ってのにもちょっと憧れるけどないものはしょうがない。
そんなことを考えながら父の大臣執務室の隣に借りた俺の臨時執務室に戻ると、ノイラートとシュンツェルは既に待っていた。二人とも騎士ではあるが流石に鎧は着ていない。騎士団の制服の色違いだ。
ちなみにデザインはほぼ同一。ベースカラーが深青と深緑は王国騎士団で青い方が第一。赤の場合は貴族家所属騎士と言うことになり、あとは腕章に描かれた家紋でどこの貴族家か判断する。学園生の共通カリキュラムに紋章学って授業があるのはこれのせいもあるな。
このほかに黒と白の制服もあるが近衛騎士団と後宮親衛隊なのでこっちはデザインにもちょっと儀典服っぽいところがありほぼほぼ別物。
余談だが後宮親衛隊は通称白竜騎士団と呼ばれていて女性騎士が多いのが特徴だ。王妃様とか王女様の護衛もあるんで当然と言えば当然だが。ただ中には白竜騎士団から王族のお手付きになった例もあるからわざわざ武芸を磨いてそれを狙う女性も多いらしい。これ絶対脳筋世界の一面だよな。
「待たせてすまなかった」
「いえ、そのようなことは」
「お気になさいませんようにお願いいたします」
別に二人とも直立不動で待たせていたわけではないし適度にリラックスをしていたようだがまあそこはお約束だ。とりあえず二人を来客用の長椅子に座らせ自分も向かいに座る。いろいろ確認しておきたいしな。
「改めて待たせてすまなかった。ところで二人とも、現状を確認させてほしい」
魔王復活はもう知られているだろうし
二人の個人的な実力に関しては年齢相応レベルの騎士ではあるらしい。これは後で実際に手合わせしてみればいいだろう。ただ話を聞いた限りでは剣に関しては俺より強いんじゃないかね。俺付きの騎士って事は戦場での護衛も兼ねるんだからある程度は実力も加味されているはずだ。
俺が王都を留守にしていた範囲に関して二人の情報をまとめると、周辺の魔物を積極的に狩りに行く形で訓練を重ねる貴族家騎士団があった一方、自領の保護目的で王都を離れていく例もあるようだ。子や孫を自領に戻し、それに随伴させて騎士も領地に戻すというやり方が多い。
貴族の中にもいろいろな人間がいるのは当たり前。何より、貴族にとって最優先なのは家を守る事だ。極端に言えば自家が無事なら王都がどうなろうとかまわないという家があるのもまたしょうがない。
この辺、ゲームだとどうだったのかね。騎士団が壊滅しているから自領を守ることに集中していたのか、それとも逆に王命で王都に戦力を提供させられていたのか。
「少なくとも魔軍に降伏などと言い出した貴族はいなかったようですね」
「ヴェリーザ砦の印象は大きかったようです」
シュンツェルの発言にノイラートが続けて話をまとめる。ふむ、ここまでの情報の伝え方からするとこの二人はどちらかと言うとシュンツェルの方がやや参謀型か。ノイラートはどちらかというと感覚とか感性で話すタイプだな。
騎士団が健在なこともあるんだろう、市民の方はそれほど危機感はなかったらしい。少なくとも表向きは。先日のお祭り騒ぎを見る限り内心では不安も感じていたんだろうが、まだ表に出るほどではないという事かな。とは言え魔物の出現状況が異なっているためか、市場の方には品薄になりつつあるものもあるようだ。
「自衛のためと言うこともあるのでしょうが手ごろな武器が品切れになり始めているようです」
「そんなもん持っていても役に立たんだろうに」
ノイラートのセリフに真顔で突っ込む。手ごろな武器なんて冒険者見習いレベルの人間が手に入れるようなものだ。魔物そのものが弱かった魔王復活以前ならまだしも、訓練も受けていない市民がそんな中途半端なものを持ってもしょうがない。
「お守り代わりでしょう」
「まあそうなんだろうが」
あんまり無関係な人間が武器を持つのは治安的によろしくないんだがなあ。とは言え不安を持っている人間に不安を捨てろと言うのも難しい。まあその辺は治安担当の人間に情報上げておけばいいか。
「騎士団の食堂でも一部の野菜類は高騰しつつあるという話が出ていましたな」
「薬草類の確保にも影響が出ていると聴いております」
「そういう一面はあるだろうけどなあ」
どこの世界でもそうだが王都ってのは人口が多いんで消費都市になりがちだ。街道の魔物の強さが上がると流通が滞るところはあるだろう。
元々この世界の食品保存能力は高くない。氷室のようなものはあるが、それだけじゃ万全とは言えないだろう。実際、魔法で氷漬けにされた野菜とかが氷柱のまま売られてたのを見て驚いたこともある。
薬草類もそれに近い。元々先日の
「街道の安全管理もそのうち問題になりそうだな」
「確かにそうですね」
今までだって絶対安全と言うわけではなかったが、これからはもっと危険になるだろう。半ば必然的に行商人たちが冒険者や傭兵を雇うようになるはずだ。言ってしまえば柔軟に運用できる戦力が分散することになって、俺からすればあんまりいいことじゃない。
要するに戦力が絶対的に足りない。どこかを切り捨てなきゃならないんだろうが切り捨てられるところは当然不満を持つしなあ。これ地味に国のお偉いさんたちは頭抱えてるんじゃね。
「とは言え、我々がそれを考えていても仕方がないのでは?」
「それもそうか」
シュンツェルがそう言ったんで一旦思考の輪から抜け出す。実際問題として俺は子爵相当の一伯爵家のさらに嫡子だ。国政での発言権なんてものはないに等しい。まあ何故か王太子殿下のお気に入りっぽいが。
ただよっぽど
「ま、上に提言するだけならタダだからな。二人とも、何か気が付いたことがあったら教えてくれ」
「はっ」
「了解いたしました」
実際はタダでもない。あんまり馬鹿な提案ばっかりしていると評価も下がるし。案があったらせめて予算の捻出先とかぐらいは答えられるようにしておかなきゃならんのだよ。
それはそれとして。
「ちょっと行ってみたいところを思い出した。二人も同行してくれるか」
一か月で状況が変わってるとも思えんが進捗は確認しておきたい。