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評価者数2,200人超え、ブクマしてくださっている方も8,100名様超えましたー!

異世界転生/転移ランキングで日間3位のほか、週間1位、月間2位でした!

評価・ブクマしてくださいました皆様、ありがとうございますっ!


第三者視点と言うこともあり今日は短めです。

 ヴェルナーが退出した扉が閉まると、王太子ヒュベルトゥスがどこか面白そうな表情でセイファートの方に視線を向ける。


 「どう思う」

 「そうですな、孫娘がいれば婿の候補にしておったでしょうかの」


 大叔父とも言える将爵のセリフにヒュベルは苦笑した。人間はままならぬものと言うべきだろうが、セイファートの息子夫妻と孫は疫病で揃って死没している。

 本来、家のことも考えるのであれば養子をとって後を継がせることを考えるべきなのだろうが、セイファート自身が丁重に断り、老妻が死没するまでの年金だけを希望し将爵領は王家に返還を提案までしていた。

 欲がない、と言う点に関してはヴェルナーとセイファートは似ていると言えるかもしれない。


 「殿下はどのようにお考えですかな」

 「まだ若いが有望だと判断している」

 「確かに」


 部隊指揮官としては戦況判断が正確で決断力もある。戦術立案能力もあり、魔物暴走とヒルデア平原の戦いの献策内容を経て、ヴェルナーの将才に関しては十分というのがヒュベルの評価だ。

 また範囲魔法対策案や難民護衛の際に積極的に魔物を刈り取るという一連の行動を見ると、発想が柔軟でかつ実行に移す努力は惜しまないという点もよい。


 優れた装備の情報を入手するだけならほかの貴族にもできただろうが、自ら商隊を準備し装備の実物を王家に提出したこともそれに類するだろう。提案だけなら学生にもできるが、それを実行に移すところまでできるという点でヒュベルのヴェルナーに対する評価は高い。

 しかもそれを自家の利益として独占する気がないという姿勢も王国の為政者としては好ましいものであった。もしヴェルナー本人が聴けば誤解であることを強調したかもしれない。


 「儂としては任務に携わる姿勢をこそ評価したいところですな」


 王都の貴族から見れば難民護衛などむしろ日陰の任務であるし、若い貴族のやるような仕事ではないと適当に手を抜いてやっていてもおかしくない。だがセイファートから見て、ヴェルナーは真面目に任務に携わっていた。

 実際問題として、任務の内容と目的がはっきり決まっている場合に最も重要なのは、その任務にどこまで真面目に取り組むかと言う部分である。ヴェルナーは隠された試験に合格していたと言ってよいだろう。日本人(ぜんせ)のワーカーホリック的な部分が抜けきっていない一面があることは否定できないかもしれないが。


 また、ヴェルナーが魔物の出没状況を様々な報告書の形で上げたことは、以前までの魔物出没と状況が変わった事を説明するのに十分な参考資料であり証拠にもなる。皮肉なことに魔王復活前の分布に関する情報の方が少ないほどだ。既にヴェルナーが提出したデータを基にした魔物対策案も国王臨席の会議では議題に上っていた。

 理解しやすい図やデータを準備し提出するということを毎回行っている、という点もセイファートの評価が高い理由である。


 「あれは伯爵の教育の結果ですかな」

 「それは解らんな。だがヴェルナーの兄君が死没しているのが惜しいと思う程度には気にはなる」


 ツェアフェルト家に長男がいればヴェルナーを直属の家臣にする事ができたのだから、とは二人とも思っていても口にしない。さりげなく二人の視線が交差する。しばらくしてセイファートが笑顔を浮かべた。


 「提案の掘り込みは浅く見えますがの」

 「あの年齢でそこまで求めるわけにもいくまい」

 「さようですな」


 ヴェルナーは学生の年齢なのである。国債と言う案も驚きだが、返済のために財源は必要と言う点まで理解していることを考えれば、むしろ平均的な学生レベルは超えているともいえるだろう。精神年齢で言えばむしろざっくりしすぎているのだが、ヒュベルとセイファートも当然ながらそれは知らないのでこのような評価になる。

 少しの沈黙の後、ヒュベルが口を開いた。


 「しかし果樹園とはな。何か意図があるのだろうか」

 「今回の遠征で干した果実や果物酢が有効かつ有益でもあることはヴェルナー卿も体験しましたからの。しかも状況が今までとまるで異なる」


 セイファートの見解にヒュベルもなるほど、と頷いた。実際の所、果物酢の生産量は時として人口にまで影響を与える。酢の殺菌効果や飲用した際の栄養が民衆の生活では重要になることがあるためだ。その意味では確かに王都近辺での需要があるだろう。

 また、対外戦争であれば国内すべての補給線が寸断されることはないだろうが、相手が魔王とその部下と言うことになると王国全土が半戦場状態となることが想定される。果樹がすぐに収穫できるわけではないが、消費都市である王都で近いうちに食糧不足が発生する可能性は確かに考慮するべきであった。

 その頷きを見てセイファートが顎を撫でながら笑みを浮かべる。


 「あまり良い趣味ではないですな、そうやって相手を計るのは」

 「こればかりは癖でな」


 ヒュベルが苦笑する。ヒュベルから見れば父王は悪王でも愚王でもないが軍事面ではお世辞にも優秀とは言い難い。内政は長期的視点で考えるものだが軍事は決断力が必要となる。これは向き不向きの問題ではあるが、物足りなさを感じないわけでもない。むしろ軍事面での力量で言えば実の父親より優秀なセイファートの方にこそ親しみを持っていた。だからこそセイファートにもこの場に同席してもらっていたわけであるが。


 「儂をここに呼んだのは、まだ若いので経験が足りていない。少し目をかけてやってほしい、とこういう事ですな」

 「下手な貴族の嫉妬で才が潰れては惜しい。将爵には済まないが頼みたい」

 「承知いたしました」


 若者をちゃんと育てることが年長者の義務である、とヒュベルもセイファートも理解している。特にセイファートにとっては良い弟子が見つかった、と言う印象の方が強いかもしれない。

 ヴェルナー自身は無論そのことを知る由もなかったが、ヴェルナーの父であるツェアフェルト伯爵にとっては苦笑いを禁じ得ない状況であった。

中世のイギリスではリンゴの不作のためリンゴ酢の生産量が不足した結果、

その年の人口が一割近く減ったこともあったそうです。

調味料としか思っていませんでしたが

隠れた社会活動の補佐役だったこともあったんですね…。


それと、大変申し訳ありませんが、思う所もあり、

今後感想欄への個別返答は停止させていただきたいと思います。

全てありがたく拝読させてはいただきますが、

感想に引っぱられて更新が滞るのは本末転倒だと気が付きました。

ご了承いただきますようお願いいたします。

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