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誤字報告もありがとうございますー。
他の大御所の方って誤字対策をどうやっているのか、切実に知りたいです…
「話は変わるが」
と今度は王太子殿下の方から話を始める。当然俺は聞き役だ。
「内定ではあるが、学園のおよそ半分は休学となることが決まった」
「半分……ですか?」
「貴族科や騎士科、魔法科などだ。現実問題、人手が足りない」
あー。勝ち戦でも死傷者は出る。魔物暴走、ヒルデア平原と連戦で勝ったとはいえ損害の穴は簡単に埋められるものじゃない。人手が足りなくなるのもある意味当然か。
騎士科とは言え学生レベルを戦場に出すわけにはいかないが、街中の治安維持などには動員できるだろうしな。いや俺やマゼルも学生なんだけどね?
ちなみに騎士科を卒業してやっと騎士見習い。見習いをまた何年か続けて経験を積んでようやく騎士だ。だからそれ向きのスキルがない普通の人が騎士になるのは二十代半ばぐらい。
逆にそれ向きのスキルがあると学生時代から騎士レベルの実力が身についちゃったりもするけどな。俺みたいに。そういう意味でスキルの有無ってデカい。魔法使いとかも似たようなもんか。
貴族科と言うのは学園設立時からの古い名称の名残で、実際は政治・行政・外交と言った国策に関わる分野を専攻する。
現実の外交問題なんかが教材になるんで機密保持ができるかどうかレベルから判断され、学園の中でも狭き門だ。大学院? ちょっと違うか。国立政治研究所とでも表現する方が近いかもしれん。
魔法科は文字通り魔術師育成が主目的だが、僧侶系魔法もここで学ぶ事ができる。信仰心は教会で学ぶものだが、実戦的な使い方は学園で学ぶわけだ。考えてみれば僧侶系攻撃魔法を教会で使うわけにいかんし。
何事もなければラウラもここに入るはずだったんだろうな。もっともラウラに関する限りは飛び級で卒業しててもおかしくないけど。
そのほか俺にはあまり縁がないが、宮廷画家や宮廷楽師を育成する芸術科や、薬草学・治療行為などを教える施療科、商業関係の知識を教える商業科、土木知識を教える工務科、従者を育てる家令科なんてのもある。実はやたらとデカい学園なんだよな。例えば都市伯の長男は貴族科で次男以下は商業科や工務科に通わせるなんてこともあるらしい。跡継ぎと補佐役は学ぶ内容から違うぞと言うわけだ。どの学科でも一般的なマナーは習うしな。
これもゲームには登場しないから最初は面食らったもんだが。そもそもゲームだと学生って説明しかなかった。こんなしっかりした学園がある割に民衆の識字率が高くないあたり変に中世風だ。
「貴族家の子弟も一部を除いては家と共に国のために働くことになる」
「それに伴い」
「はい」
「勇者であるマゼル君、いや、マゼルにも休学し現場に出てもらう」
背筋がぞくっとした。目的はこっちか。マゼルがどこかの貴族……ツェアフェルト家も含むんだろうが、どこかの貴族に囲い込まれる前にマゼルの自由行動を王家が認め、同時に対魔王戦に“王家から”の依頼で参戦するわけだ。
そうなれば他の貴族家は軽々しく勇者と関係を作るためのご招待とかは難しくなる。他の貴族が口を開く前に、そのために学園の半分も巻き込んだのか。
目的のために手段を択ばないというか、権力を躊躇なく使うあたりやはり王族だなと思う。
「承知いたしました。本人に伝えておきます」
「うむ」
今までは俺が窓口だったがこれからは正式に王家直属に移ったわけだ。個人的な支援は別として。マゼルも翌日あたりに呼び出される可能性もあるだろうから後で話を通しておこう。
「それと、勇者の同行者について、国から正式に報酬を出してもらえますでしょうか」
「信用はできそうかね」
「マゼル本人は信頼しているようですし私から見ても大丈夫かと」
「解った。予算を付けよう」
あっさり受け入れられてほっと一安心。マゼルも気にしていたしな。しかしこっちがやらなきゃならん対貴族対応とかを先回りされると殿下の頭がいいのか俺の対応が遅いのか判断に悩む。
「それと卿には数日の休暇の後に水道橋の建設護衛任務に就いてもらう予定じゃ」
今度は将爵がそんなことを言い出した。建設中の労働者たちの護衛はまあ必要なのはわかるがまた軍務か。不満を顔に出すわけにはいかんけど。
「そういえば、水道橋そのものは大丈夫なのでしょうか」
「うむ、結界石の数も何とか足りそうなのでな」
結界石と言うのは一部の街や村、橋なんかにも設置されている魔物を寄せ付けないようにする石だ。王都にある結界の簡易版だと思って間違いはない。水道橋は地面から離れているので橋脚だけ保護すれば当面の安全は維持できるという事らしい。
もっとも簡易版な結界の癖に周囲の土壌からの魔力を吸い上げて起動するまで一〇日ほどかかったり、
多分だが、人間にとっての真っ暗な森みたいな感じで、命令がなかったりよほどの目的がなければわざわざ近寄りたくはない、と言うような印象を与える程度の効果しかないんだろう。トライオットなんて国そのものが滅ぼされてるぐらいだし。効果時間を考えなきゃゲームにでてきた戦闘回避する魔除け薬の方がよほど効果が高いはず。
そんな“ないよりまし”ってぐらいの道具だが、入植地とか長期対陣する際の陣地なんかで使うことはたまにあるらしい。あと衛兵もろくにいないような地方の村とか。考えてみればゲームでも周辺フィールドの敵は結構強いのに戦闘できそうな人がいない村とか、いくつもあったもんな。
「少しでも人手が少ない方がいいからの」
「おっしゃる通りです」
人手不足のいい例がヴェリーザ砦だ。砦の奪還は成功したが、当然ながらあちこち傷んでいて砦として使えるかと問われると難しい。だからと言って放置もできないし。ほっといて今度山賊とか犯罪者のアジトになっちゃったりすると笑えない。だから監視する担当がいる、らしい。それは俺と言うかツェアフェルト家の管轄じゃないんで詳しくは知らんが。
ふと気が付いて口に出してみる。
「ヴェリーザ砦の門にも結界石を設置できませんか」
「数がそろえばできなくはないと思うが」
なぜか、と表情で問われているんで思い付きを口に出してみる。
「いえ、どうせ王都の方は人手が足りないのならヴェリーザ砦の掃除修繕にトライオットの難民を使ってみてはどうかと思いまして」
現在のところ王都城外での夜営になっている難民たちだが、今のままだと魔獣に襲撃とかされるかもしれんし。砦の中ならそういう被害は出ないだろう。戦闘能力のない子供や老人を砦の中で保護しつつ、ついでに働いてもらう。
「労働力として優秀な人物は王都近郊で働いてもらい、腕っぷしに自信がない面々はヴェリーザ砦の掃除をやってもらえばいいかなと」
そのついでに家族を別々の場所に置いておくことで難民が暴動しないように牽制することもできるはずだ。食料は王都から運ぶことになるだろうがそれだけに暴動とか違法占拠とかを避けることもできる。王都付近に不確定要素は少ない方がいいと為政者なら考えるだろう。
「王都付近でどう働かせるかね」
「王都のそばに果樹園作るのなんかどうでしょうか」
そう言ったら微妙な表情をされた。まあそうなるわ。とは言え実のところ何でもいいっちゃ何でもいいんだ。たぶん数年かからずにマゼルの奴が魔王を滅ぼしてくれる。その間難民が暴動とか起こさないように仕事させときゃいい。
ただ保護して恵むだけだと古代ローマの小麦法じゃないが、そのうち王都内の貧しい人たちにまで配り出さなきゃならず、財政を圧迫させる結果になるのは火を見るより明らか。報酬は労働の対価でなければならない。
とはいえじゃあ何をさせるかって言うとまた別問題になるわけで。
「水は水道橋が完成すれば多少の余裕は出ると思います。それに果樹なら育てば実がなりますし、失敗しても枯らさなければ薪にぐらいはできるでしょう」
農産物だとそうもいかんのだよな。一年ごとに手入れしなきゃならん。身も蓋もない言い方をすれば木なら植えて一定期間の手入れ後は勝手に大きくなる分、難民たちを貴族が引き取った後に果実ができなくても使い道がある。
難民がずっと王都郊外で住むのなら長期計画の必要があるが、今回は数年単位の、計画ではなく想定とか予定レベルで十分なはずだ。ただそう説明できないのがつらい。
「農地を作らせるとなると指導する人間も必要ですし農具も必要です。果樹なら管理をある程度任せられますし、水の散布とかなら今まで経験してなくても何とかなるでしょう」
実際はそんな簡単じゃないだろうが、農地の監督官の場合と果樹園監督官の場合だと監督するほうの負担が違う。今は人手が足りないってのがとにかく問題。別に果樹園にこだわりがあるわけでもないけど。
都市に併設して新鮮な農産物を提供するための施設、と言う意味ではカルタゴのイメージがあるっちゃあるのか。カルタゴはその農地施設から占拠されて攻め滅ぼされたわけだが。
カルタゴはともかく、要するに難民に仕事を与えてその対価としての食糧を配布するという形式が必要なんだよな。
「何を作らせるかはともかく、半数程度をヴェリーザ砦で管理するというのは悪い手ではないな」
「警備兵は必要でしょうがの。また襲撃されると逆に難民に王国に対する怒りが発生しかねませんからな」
殿下と将爵がそんな会話を交わしている。ゲームではヴェリーザ砦が再奪還されたりしてなかったから大丈夫なんじゃないかなとは思うが、ゲーム通りとも言えないしそこは確かに不安は残る。
「提案の一つとして聞いておこう。ヴェルナー卿、ご苦労だった」
「はっ、それでは失礼いたします」
あー胃が痛い。神経使うわほんと。馬鹿貴族やってればこんな胃が痛くなることないんだろうけどなあ。学生なのにストレスで胃が痛くなるってどうなんだろうか。
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