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評価30,000ptなんて数字、投稿始めた時はどれだけ遠いのかと思っていましたが…
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これからも更新頑張りますー!
翌日は早朝からフレンセンにマンゴルトの調査を任せ、俺自身は王城で勤務だ。いつから学園に行ってないんだっけ。もう諦めて魔王が倒されてから復学するしかないだろうな。
それにしても今日はシュンツェルとノイラートの二人ともう一度話をすることになるはずだったんだが。
「ヴェルナー・ファン・ツェアフェルトです」
「ヴェルナー卿が参られました」
衛兵に到着を伝えると彼らが室内に声をかけて許可を受けてから扉を開く。手順は手順だがいつもの事ではある。
「王太子殿下、ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト、参りました」
「ご苦労。楽にしてくれ」
ヒュベルトゥス王太子殿下のお呼び出しである。他の要件なんか後回しにするしかない。宮仕えの辛いところだ。
しかも室内には先客としてセイファート将爵までいらっしゃる。
「まずいろいろご苦労だった」
「いえ、皆様の働きあってのことです」
実際一番面倒なことは将爵やエンゲルベルト伯爵がやってたわけだしな。肉体労働は偵察の
「将爵から聞いた。あの布陣計画は卿の発案だったそうだな。見事な献策だった」
「発案は確かにそうですが自分ではあれをこなす自信はありません」
謙遜でもなんでもなく事実だ。一〇〇〇〇人を超える兵士を指揮するとか無理。年齢的にもだし
むしろ前世のあやふやな記憶から出た計画を実戦レベルに落とし込んだ王太子と幕僚団がすげぇと思う。
「卿は謙虚だな」
謙虚じゃないんだけどなと思いつつ苦笑いで済ませる。あまり否定し続けるのも相手の面子をつぶすことになるんでこの辺りは対応が難しい。
王太子殿下もそれ以上は突っ込んでこなかった。話が変わる。
「伯爵家から献上された武器は実によいな。皆驚いていた。あれが適正価格で購入できるのであればすぐにでも数を揃えたい」
「それはギルドの方にお願いいたしたく思います」
丸投げ。だが王太子はややこっちを探るような視線を向けてくる。
「よいのか? 伯爵家を通せば伯爵家にも利益があるだろう」
「あまりそのような利益は必要としていないと思いますので」
まず王都の将兵にきっちり高性能の装備を充実させてほしいというのが最優先だからな。間に貴族家が入って中抜きすればその分余計に予算がかかる。大体、難民対策とかで予算が出ているんだから他のところは絞りたいだろうし。
それに中抜きすれば確かに伯爵家にも利益は出る。だがそれはマゼルが魔王を斃すまでのいわばバブルだ。ゲームのエンディンググラフィックで外見が変わっていなかったことを考えると、長くてせいぜい二~三年だろう。
短期的に儲かるだけでこの武器売買に注力するのは長期的には下策。それにここで伯爵家だけが儲けでもしたら今まで国に武器を卸していた商業ギルドや商隊を任せたビアステッド商会の印象が悪くなるしな。
長期的に考えれば餅は餅屋に任せた方がいいと思う。父の考えは解らんが。
「卿も気になっているだろうが、難民の方は一応落ち着いてはいる。水道橋の方の工事もまずまず順調だ。渇水期までには間に合うだろう」
「それは何よりです」
唐突に話が変わった。しかしひと月程度しか経ってないのに凄いな。魔術師隊もフル稼働したらしいが。流石王都の技術者団。
「しかし、別の問題もある。難民たちをどこで受け入れるのかと言う問題もだが」
「どうやって貴族領に移動させるのか、と言う問題も発生してきておってな」
ここで王太子に続いて将爵が口を開く。軍事部門の将爵がここにいるのはその移送計画の件もあったからか。
「将爵や卿が王都を離れている間に状況が変わったのだ。特に魔物の分布が変わってきている」
「各貴族家も難民を受け入れる金があれば自領の防備に回したい、と言いだす家も増えてきておるのじゃよ」
あー。まあわからなくもない。どうしたって不安定要素であることは確かだしな。何度でも確認するべきだが基本的に難民保護は予算が出ていくだけの存在でもある。少なくとも当面は。
「しかし、王都でずっと預かるわけにもいかないでしょう」
「現状では荷物でしかないな」
露骨な言い方だが飾る余裕もないという事か。しかし入植するにしてもなんにしても金がかかるしなあ。予算か。うーん。
「戦時国債でも発行するしかないのかな」
「何かねそれは」
いかん、口に出てたらしい。将爵の疑問に思わず冷や汗をかいたが、別に悪意とか咎める意図はないようだ。本心から聞いたことない言葉に不思議そうな顔をしている、ように見える。
この一月ばかりの間に将爵が食えない人物だということはよく理解できたしな。聞いたことがあっても知らんふりをしてるのかもしれん。だがまあそれはそれとして。
「あー、えーとですね」
「別に怒りはしない、言ってみたまえ」
王太子殿下からも促されて逃げ道なくしました。とは言え徴税システムとか社会情勢とか基本の経済力とかが全然違うんだよな。そのまま導入できるはずもない。ついでに言うと債券とか有価証券なんて言葉も多分通じない。
ものすごく大雑把に説明するしかないか。
「簡単に言えば借金するようなものです。国が」
「国が借金?」
「借金と言うと言い方は悪いですが。金銭を出す側は借用書の金額分、国に金銭を預け、それに即した利子だけを定期的に受け取る。数年ぐらい後に元本の返済を受けるというやり方です」
ざっくりとした説明……って言うか前世の国債だって詳細に説明できるほど俺は詳しくない。むしろ第二次ポエニ戦争当時のローマが発行した戦時国債の方がよほど記憶にある。
だが逆に言えばハンニバルとやりあってた紀元前のローマに同じようなものがあったんだから、似たようなシステムは導入できるんじゃないかと思わなくもない。
とにかく大雑把ではあるが国債の基本部分を説明した。殿下と将爵が軽く唸る。
「突拍子もないが斬新でもあるな。それとも逆か?」
「……逆の方が正しいかもしれません」
皮肉ではない。この世界ではたぶん斬新すぎて突拍子もないという方が正しいだろう。将爵が口をはさむ。
「しかし原資が保証されておらぬと信用もされぬであろう」
「そうですね。なので発行時には返済の裏付けになる税も合わせて創設する必要もあるでしょう」
ついでに言うとちゃんと満期が来たら返さないといけない。一度でも伸ばすと信用問題になる。所詮と言うかここは中世に近い社会だ。権力を振りかざして棒引きすることは可能だが、それをやってしまえば二度と信用されなくなるだろう。そうなれば今度は民衆からの不信はそのまま統治上の問題になる。
……本当にそうか? この世界は前世とは違う。なにせどこからともなく
妙に引っかかった。そういえば前魔王の頃に古代王国が滅びた事になっているが、古代王国は滅んでも人類が滅亡したわけじゃない。なんで人類滅亡と言う結果になっていないんだ? ゲーム世界だから設定だけとか
考え込みそうになったが目の前にいるのは王太子殿下と将爵と言う目上も目上の存在だ。無理やり意識を引き戻す。ちょうど将爵が口を開いた。
「民から批判は出そうだの」
「あ、ええ。購入できる対象を限定せず、税金分も後で返ってくると信じさせる必要はあります。ただ、魔王に負ければ何も残りません」
国滅びて山河あり。負ければ死ぬのは確かだしと内心思った俺が最後に言った言葉はかなり露骨だったかもしれないが、将爵と殿下の顔は驚くほど引き締まった。
「なるほど。確かに卿の言う通りじゃ。あのトライオット難民の姿を見たものは国が新しい税を創設することも不満であっても納得するであろうな」
あれ?
「国債とやらは突拍子もないが、何もしなければ我が国の民もああなる、という言い方には確かに説得力がある。どのみち魔軍との戦いには資金が必要なのは事実だ。難民の印象が強い今が良い機会なのかもしれん」
いや、そういう意味ではなかったんですが。なんかとんでもない方向に誤解されたっぽい。
※正しくは「国“破れて”山河あり」です。念のため。
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