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「まず、フェリに関してなんだけど」
「おいら?」
フェリが驚いた顔を浮かべる。俺も正直驚いた。だがその後のマゼルのセリフにいかにもこいつらしいと思ってしまう。
「フェリは孤児院出身らしいじゃないか。なら僕らと旅をしている間、その孤児院の方をヴェルナーに任せていいかな」
「引き受けた」
即答。俺も気にしてなかったわけじゃないし。そういえばゲームだとどうだったんだろうか。そもそもゲームで孤児院なんて出てこなかったんで考えてもしょうがないんだが。
とりあえずフレンセンが何か言いたげなのは無視する。
「それから、ルゲンツさんとエリッヒさんの事なんだけど。今は二人とも自由意思で協力してくれているけども……」
「それもわかった。二人は雇うことにする。もちろん今までの分の報酬も合わせて出そう」
俺が答えていいのかどうかという問題はあるが、無理でもなんでも通す覚悟で了承する。ゲームだと無料で協力してくれてるが、本来は命がけの旅だ。無料の方がおかしい。対価は支払わないといけないのは当然。
こうやってよく考えたらゲームの設定は結構無理があるんだな。真面目なマゼルを除くと無料で働いててもおかしくないのは王族であるラウラぐらいか。まだパーティーメンバーではないがウーヴェ爺さんもか?
「それと……これはできたらでいいんだけど……」
マゼルにしちゃえらく言い出しにくそうだな。なんだろうか。
「学園の方はもちろん対応してもらうようにするぞ?」
「いや、そっちも気にはなるんだけど、そうじゃなくて」
そういえばゲームではなし崩しに学生が世界を救う旅に出ることになるんだよなあ。それでいいのか。いやゲームだからと言ってしまえばそこまでだが。この世界でもそうなのかと言うと微妙な気もする。
よく考えてみれば教師が何も言ってこないこともおかしいな。やっぱり国が裏で動いているんだろうか。マゼルを評価しているのかそれとも利用しているのかの判断は難しい。魔王に勝てるかもしれない人間、とか国からすれば脅威なのは確かだろうし。
ゲームの方ではそのあたりを言い出しそうなのが軒並み死亡したことになっているが、今現在ではそういう状況じゃない。そうなるとどこかでマゼルを警戒するような奴が出てきてもおかしくないのか。
これはちょっと気を付けておく必要がありそうだな。この年齢で宮廷工作とか考えることになろうとは思わなかったが。どの辺から手を打っていくかねぇ。
そんなことを考えていたらマゼルの奴、意外なことを言い出しやがった。
「家族への連絡をお願いできないかな」
「は?」
唐突に現実に引き戻されたが意味不明だ。いや家族がいるのは知ってるが。なんだそりゃ。
「自分で連絡してもいいんだぞ」
「いや、何となくね」
「この靴で直接マゼルの兄貴が生まれたとこに行けるんじゃないの?」
フェリがそんなことを言い出したが、俺もそれは考えてなかったんで正直驚いた。ゲームの知識で行ったことのない町には行けないのは解ってるが、マゼルにとってアーレア村は出身地だ。行ったことがあるどころじゃない。
どうでもいいがマゼルも兄貴扱いか。あれゲームでもこんな風に呼んでたっけ? と思ったがそんなとこまで覚えてないな。いやそれはともかく。
「そういやそうだな、やってみるか?」
「あ、ええと、うん……」
「なんだ、親と喧嘩でもしてるのか?」
煮え切らないマゼルに本心から不思議そうに聴いてしまった。そんな設定はなかったと思うが。
「そういうわけじゃないんだけどね。心配するかなぁとか……」
ああ、つい数年前までただの村人だったのが魔族と戦うとか心配はするだろうな、確かに。そのあたりの折り合いがついてないという事か。
いやゲームの方が簡単に話が通り過ぎているのか。とは言えRPGでそんなグダグダ人間ドラマ見せられたくないしなあ。
まして主人公はプレイヤー本人だ。それまでの人生とつながりまで設定されていてもプレイヤーに説明なんぞしてられない。メモリも足りんだろうし。カットされてたとしても当然と言えば当然なのか。
「あー、とりあえず顔出してみたらどうだ。飛行靴の予備はあるし」
「……そうだね、やってみるよ」
「ヴェルナー様」
飛行靴を渡そうとした俺の行動に口をはさんだのはフレンセンだ。別に予算問題とかで怒っているわけじゃないと思うが。と思ったら冷静な口調で冷静に突っ込んできた。
「店の中で急に人が消えたら騒ぎになります」
「お、おう」
いかん、その通りだ。ゲームだと誰も騒がないけど、当然だが普通は大騒ぎだよな。ゲームのアイテムの説明だと思ってうっかりしていた。
「それと、館の方も急に誰もいなくなったと騒ぎになっているのではないでしょうか」
「あー……」
そっちの方も失念してた。いや説明しても信じてもらえないだろうと思ってたし、マゼルたちをほんのちょっと驚かしてやろうと軽く考えてたが、確かにその通りだな。
「解った。一回外に出て王都に戻ろう。すまん」
「そうしようか」
マゼルもどこかほっとしたように応じた。うーん。やっぱりちょっと引っかかるところはあるな。単に心配するとかだけじゃなさそうだ。こいつがこういう秘密を抱え込むのは珍しい。気を付けておこうか。
だが結局この日は飛行靴をいくつかマゼルたちに分けただけで何となくうやむやになってしまった。飛行靴はあくまでも町の入り口に移動するアイテムなんで、王都の入り口から館に戻ったらちょっとした騒ぎになっていたのも原因だ。はい、俺が全部悪いです。
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