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総合評価14,400pt、評価者数はもうすぐ900人、ブクマ3,100件超え…
数日でひと月分の倍以上伸びていて恐れ多いです(^^;)
異世界転生/転移ランキングのほか、日間ランキング総合でも2位に入りました!
評価してくださった方、ブクマ登録してくださった皆様本当にありがとうございます!
※この前に入るのが第一話になります
お祝い気分は前日まで、と言うことで今日は朝から貴族としての公務だ。と言っても問題が起きたわけじゃない。
「……汝らを、新たな騎士に任ずる」
「陛下の御威光に報いるべく、我ら一同、王家とこの国に忠誠を尽くします」
今日は騎士叙任式。この国だと初代国王の即位日……まあ建国記念日的な日に行われる。基本、庶民は休日だが貴族は全員出席だ。庶民も希望者は出席できなくもないがまあ普通は家族ぐらい。今日は例外がいるけど。
ヴェリーザ砦の奪還が間に合ったんで予定通りこの日に式も行われることになった。延期の予定もあったらしい。よかったのか悪かったのか。
陛下の隣に王太子殿下がいてその隣には父がいる。儀典なんで今回の儀式も父の業務管轄だ。今回俺は子爵になったばかりの見習いなんで見てるだけだが、来年からはこっちの仕事も補佐することになるんだろう。
「こういうのって、一人ずつやるんだと思ってた」
「あー、まあお話なんかだとそうだな」
横にいるマゼルが素朴な疑問を口にする。御伽噺なんかだと新しく騎士になる人間が跪いてて、その肩に王様が剣を乗せたりするんだよな。一般的な騎士任命のシーンって確かにそういうイメージだ。
だけど実際は騎士叙任式と言うのは騎士見習いからの卒業式って意味合いも強い。だから任命されるのは国にもよるだろうが何十人って数になったりもするんで、大体は集団で叙任式が行われる。
剣だって軽くないから何十人もやってたら王様の腕もしびれてくるし事故だって起きかねない。なので陛下から肩に剣を乗せられるのは代表者のみ。それ以外は大体代表者の後ろで列になって跪いているだけだ。
まあ剣を肩に乗せる儀式も前世では騎士が時代遅れになる中世末期頃からなんだが。時代遅れだからこそ演出で威光の残滓を飾っていたとも言える。そういう意味ではこの世界はえらく中途半端だ。
「我らの王への忠誠を剣に、友たる盾仲間とともに誓う」
「誓う」
代表者が宣言し集団が忠誠を宣誓唱和して周囲から拍手が起こる。俺たちも拍手だ。拍手しながらマゼルがこっそり話しかけてきた。
「盾仲間って?」
「あそこにいる、同じ日に騎士になった面子同士が盾仲間」
前世風に言えば同期の桜か。剣が王家との縦の関係の象徴だとすると盾仲間は仲間の連携と言う横のつながりの象徴。騎士団の中で兄弟同然の間柄として今後の人間関係を構築することになる。
盾仲間と言うのは職責とかではないが、例えば戦没者が出たときに未亡人や孤児がいれば盾仲間全員がその残された遺族の生活や教育をサポートする。公的保証が一時金だとすると盾仲間は非公式な社会保障システムだ。
まあその方が国としては長期的な年金とか払わずに済むんでありがた……ごほんごほん。
なおこの国では「貴族で騎士」も「貴族だが騎士ではない」も「貴族ではないが騎士」も全部あり得る。学生は騎士になれないんで俺も「貴族だが騎士ではない」と言うことになる。だから俺には盾仲間はいない。
マゼルも騎士になる気はあんまなさそうだし俺はもう貴族になっちゃったからなあ。今から騎士見習いになるのは難しい。貴族としての横のつながりを作らなきゃいけなくなったわけだ。
そういう意味では庶民が功績をあげていきなり貴族になるとガチで大変。横のつながりはないし礼儀作法だなんだと面倒ごとばっかり増えるし他の貴族からの妬みも追加される。御伽噺ならめでたしめでたしなんだけどねえ。
ちなみにマゼルに関してはドレアクスを打ち取った功績から貴族に
公的にはまだ学生だからということになっているが、実際のところ俺みたいな例もあるんで学生でも叙爵は珍しくない。もしマゼルが貴族家出身だったらとっくに叙爵してるだろう。
実際は王太子殿下の「爵位が付けば次は婚約だのなんだのが付いてくることになる」と言う事からマゼルにしがらみが増えることを危惧したためだ。
「マゼル君にはうまく伝えてほしい」と頼まれたが、マゼルの方も貴族の一員とかは嫌だったらしくむしろ喜んで納得してた。お前、前に叙爵して困ってるのは俺ぐらいだとか言ってなかったっけ。
式典が終わると新騎士たちを主役にした立食パーティーだがそっちは裏方なんで顔を繋ぐ方にはほとんど出番なし。俺は裏方のさらに補佐だしな。マゼルは翌日の再会を約束してから寮に戻った。
裏方は裏方で大変だ。王家主催のパーティーで食事が品切れとか格好付かないから厨房の方は忙しいし、料理や酒を運ぶタイミングもある。たまに体調を崩したりする人の対応しなきゃいけないし、何か質問されたら答える必要もある。
なんかこう手製の結婚式と披露宴を大規模にしたような状況なんで関係者があわただしく動き回る。こういうのが典礼大臣である父の仕事だからしょうがないんだけどさ。
とは言えテーブルの上には常に料理が載っていなきゃいけないんで、並べ替えのタイミングを計るのは補佐役の仕事。厨房から会場までの距離が長いから、料理なくなってから次を持ってこさせるとテーブルが空白になっちゃうんだよな。
先手先手で厨房に次を持ってくるように指示を出さないといけない。これが結構難しいし会場全体を見渡さなきゃいけないんで心労がたまる。
また、来客のワイングラスが空になっている人間がいたらボーイに指示しておかわりを勧めに行かせなきゃいけない。本人から断られるまでは何かを入れておくのがマナーだ。
こういう国内儀式時のボーイ役も大体貴族の若い子弟が参加してるんで、粗相のないように気を付けてやるのも補佐役の仕事。これも実地研修みたいなもんだしな。そのうち他国の外交官とかを前に同じことするんだぞ。頑張れ。
あと何気に重要なのは、保存技術がいまいちなのでワインとかたまに傷んでたりするから栓を開けた後に必ず確認しなきゃならないこと。匂いだけだとわからないこともあるんでデキャンタするついでに味を確認するわけ。
これは会場の隅でやるときは毒味の意味も兼ねてたりするが今回は裏での味見。とは言え一〇〇人以上が飲むワインの量を味見すると、ワインの香りだけでこっちが酔いそうに。一本開けては味を見て水を飲んで口を濯いでまた味見。最後の方は修行か拷問かと言いたくなる。
ちなみにアルコールが飲めないって人のために炭酸水にオリーブやチェリーだけ入れて銀のピンを刺した「見た目だけカクテル」を臨時で作ったらえらい喜ばれた。
考えてみれば騎士団長とかは新任の騎士に会うたび相手に合わせて一口飲むんだからそのうち酒も回りすぎるか。新人騎士が酔ってヘマしないように考えたつもりだったんだが。予想もしない方で評価されるのは変な気分だ。
午前中は儀典、午後はパーティーと後片付け。いや典礼大臣の補佐と言う意味ではそっちの方が本業なんだけどね。そしてその日の夕方には俺の部屋に二人の騎士が来訪中。あー忙しい。
「クレス・ガウター・シュンツェルです。こちらはヴォラク・ビロル・ノイラート」
「お久しぶりです、ヴェルナー卿」
「クレス卿にヴォラク卿、お久しぶりです」
鸚鵡返しになってしまった。ノイラート家とシュンツェル家はどっちも伯爵家の関係者。従兄弟とまではいえず、せいぜい遠縁ぐらいだが二人とも面識がないわけじゃない。年齢的には向こうの方が上だけど。
「我ら両名は本日ツェアフェルト子爵のもとに配属されました」
「よろしくお願いいたします」
「解った、こちらこそよろしく」
子爵に配属、か。マックス、オーゲン、バルケイは父である伯爵の部下なのに対して、ノイラートとシュンツェルは俺の直属って事になる。いずれ俺が伯爵家を継いだ時に二人はマックスたちのような立場になるかもしれない。
俺はまだ学生だけど貴族である以上、騎士が部下になる。公的には子爵のほうが立場が上だからな。従卒はさらに騎士の下。なので立場と共に言葉遣いも変える必要がある。向こうも解ってるから何も言わないけど。
「さしあたりの仕事はないけど、近いうちに話したいことがある。明後日あたりになるかな」
「解りました」
「では明後日は朝から館の方に向かえばよろしいでしょうか」
「いや、城内で話そう。明後日もここに来てくれ」
「はっ」
うー、胃が痛い。部下に年長者の騎士とか、ややこしいったらありゃしない。まあそれでも慣れたほうではある。現場に出ていると気にしてられなくなるしな。年長とは言え同年配だから幾分ましか。
とりあえず俺の指示で無駄死にしたとかだけは言われないようにしないと。
夜に館で情報の整理をしているともう一人の来訪者が来た。商隊に同行した執事補のフレンセンだ。何の用かと思ったが発言を聞いて驚いた。
「旦那様にヴェルナー様付を命じられました。今後よろしくお願いいたします」
「は?」
唐突すぎて驚いた。だが詳しく聴いてみるとどうやら俺が王太子殿下のお気に入りと言うことから、これからも独自で動くことが多くなりそうだと父が俺専任の補佐を指名したと言う事らしい。
驚きはしたがまあ実際助かる。やる事が増える一方だもんな。
忙しいのは本来ならやらなくてもいいこともやってるからなんだが、やらないと死ぬかもしれないと思うとやっておかないと怖い。臆病なんだよもともと。
「わかった。これからよろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
年齢的には兄が生きてたら同じ世代か。本当は兄の側近候補だったのかもな。兄が生きてれば俺は
そんな事を思いながら用件を一つと気になっていたことを一つ頼んでおく。
「とりあえず明日は早朝からマゼルたちが来るはずなんで同席してくれ」
「かしこまりました」
同席してくれた方が説明の手間も省けるしな。
「それとこっちはすぐにじゃないんだが、クナープ侯の息子だったマンゴルトについて調べてみてくれないか?」
「マンゴルト卿ですか?」
「俺がいない間に行方不明になってるみたいだから、その前に何やってたのか知りたい」
「承りました」
どんな奴らを連れて行ったのかとか、武装はどうしたのかとか、マンゴルトの行動にはどうもいろいろ気になるところがある。が、その事に関してはとりあえず任せる。あとは適宜報告をもらえればいいだろう。
さしあたりやる事はマゼルたちとの情報共有だ。
※盾仲間と言うのは中世欧州の一部王国で実際にあった非公式システムです。私のオリジナルではありません。
騎士になる儀式の方は有名なのに盾仲間制はあんまり知られていないので、ちょっと登場させてみました。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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