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昨日から増えた人数が多くてびっくりです…本当に評価とかありがとうございます!
異世界転生/転移ランキング1位から一日経ちましたが、まだ現実感がなくて頭のどこかがおろおろしています(^^;)
評価、応援してくださる方が増えたのでその分頑張りますー!
俺が王都の父に送った使者が戻ってきた翌日。朝にセイファート将爵のいる天幕に全員が集まると、朝食の前に簡単な報告があった。
「詳細は食事をとりながら話すが、王都近辺で会戦があったそうじゃ。王国軍の勝利らしい」
さらっと爆弾投げ込まないでくださいませんかね将爵。俺も例外じゃないが首脳部の面子が全員驚いた上前のめりになっちゃってるじゃないですか。
とは言えそういつまでも驚いてもいられない。将爵が定例報告を求め、カウフフェルト子爵が周辺状況から話し出す。全員将爵の話が気になるのか自分の報告に精一杯だがまあしょうがないよな。
ちなみに俺の報告は難民からの要望についてだ。とは言え全部聞いてたら俺個人の精神的な容量的にも部隊の物資的にも間違いなくパンクするような状態。
複数の人間が別々に「自分の言う事だけは聞いてくれますよね」的な顔をして言ってくるんだ。向こうは俺と一対一で相談してるつもりであっても、俺の方は複数人数からの要望を聴く事になる。
いや直球で要望言われても対応できるとは限らないんだが、悟ってくれ的な言い方されても無理だわ。そんな余裕ねーよ。しみじみと人間ってのは自分だけが例外だと思うんだなと実感した。
全員の報告が終わると朝食が並び、将爵から状況の説明が入る。ちなみに今日の朝食もいつもと同様小麦を水でこねて焼いただけのナンのようなパンと塩味のきいたスープとチーズ。あと酢を水で飲みやすく薄めたもの。
スープに塩味が効いているのは塩漬け乾燥肉だからだし、酢を飲むのは水より腐りにくいということでどっちも輸送保存面で有利だから。酒も腐りにくいが酔うとまずいしな。
ドライフルーツが付くこともあるが今日はなし。まあ王都まであと数日だし問題はない。
「では、殿下はそのままヴェリーザ砦奪還に向かったと?」
「そのようじゃな」
将爵からの説明を聞いたクレッチマー男爵が確認するように問い直す。なんとなくこの人は自分がその場にいなかったことを悔しがってるような節もあるな。良くも悪くも武門の人間らしい。
王太子殿下が野戦で敵を殲滅し勝利を確実にしたのちに、ヴェリーザ砦へそのまま逆撃に向かったというのを聞いた時には確かに俺も驚いた。とは言え軍事行動の理由は解る。
王都防衛ともなれば武断派・文治派問わず兵力を出さざるを得ないが、ヴェリーザ砦奪還ともなると意欲的な人間とそうでない人間も出てくるだろう。こうなるとむしろ政治的配慮と言う方が近い。
だが現状、王都付近で大勝して敵の数は減少していると思われるし、自軍の兵は勝利で戦意が高い。数も戦意も揃い敵は多少なりとも弱体化が想像できる。なるほど攻勢に出るのにはむしろいいタイミングだ。
しかし思い切ったなあ……とか思っていたらなんか妙な目で将爵がこっち見てる。なんだろう。
「そうそう、野戦で敵の指揮官を打ち取ったのはマゼル君だそうじゃぞ」
スープ吹きそうになった。そして目で笑ってらっしゃる将爵閣下。狙ってたな。
「ほう、あの勇者殿か」
「前回に引き続きの戦功だな」
エンゲルベルト伯爵とカウフフェルト子爵の会話を聞きながら俺は別のことが気になっていた。
ツェアフェルト商隊が王都に帰還してから三日後に会戦があったらしいが、俺の手元には一日しかずれがない。情報の優先順位が違うと言えばそこまでなんだが、この手の使者によるタイムラグは今後も発生する危険性がある。
第一、魔軍の影響が強くなれば城や町と違って、結界がない街道を移動することそのものが危険だろう。騎士だって単独での移動は難しくなるかもしれない。
人間同士の戦いでさえ使者や使番を斃し情報を断絶させるのはよくやる手だ。魔軍の場合魔物が勝手に湧いてくるだけに半自動でこれができる。情報通信網を整備しないと後手に回る危険性が発生しうるのではないか。
ゲームで登場しなかった国であるトライオットは魔族に攻め滅ぼされていた。ゲームに登場しない他の町や国も滅ぼされる危険性があると考えたほうがいいのかもしれない。となればますます情報が必須になるだろう。
しかし厄介なのは狼煙台を作ればいいとかそういう単純なやり方が通用しないことだ。と言うか、
ゲームのあのアイテムが入手できたとしても予算がなあ。と言うかゲームだと売り切れってなかったけどこの世界で現実的にはどうなんだろう。
思わず考え込んでいる俺に将爵が視線を向けていたらしいが、全然気が付かなかった。この考え込む癖は直した方がいいような気もする。
結局王都に到着したのはそれからさらに数日後になった。あらかじめ王都では別の担当者により難民受け入れの準備が整っていて、そちらに引き渡せば今回の任務は無事終了である。現時点では。
受け入れ担当者はこれから激務と困難が山のように待っているんで同情は禁じ得ないが、口出しする権利もないし藪蛇になるのも嫌だしな。
俺自身は雇った斥候や冒険者たちに報酬を出したり、使用した物資の一覧と費用をリスト化したり、魔物の出没状況を図表にしたりとまだまだ仕事が多い。まあ一部は父と父の執事であるノルベルトに手伝ってもらっているが。
ちなみに名目上は父の代理であることもあり、父の執務室の隣の部屋を臨時で借りてそこで書類作成をやってる。城詰なので正装でだ。本来なら父の補佐官が働く部屋だが今は俺が借りている。と言うか一応伯爵家の代官だから父の補佐官と言ってもおかしくはないのか。
領地の仕事なら王都の邸宅でやってもいいんだが、今回は軍務と言う国の任務だから王城でやらないといけない。冒険者や傭兵を雇う予算は提案書に基づき国が出してくれたんで公費だ。けど冒険者への特別報酬なんかは自腹も切る。
その辺、細かい兼ね合いがめんどい。不公平だと言われても困るしな。
そんなことを思いつつ唸りながら羽ペンを走らせていると隣室から父が呼んでいると知らせを受けた。秘書の人はずいぶんと歳だが典礼大臣って職だから経験が大事なのか。いろいろ兼ね合いが多いな。
一礼して入室。この辺は貴族としての立場あってのことだ。伯爵補佐として礼儀正しく振舞う俺を見ながら父が苦笑いをしつつ俺に指示する。
「明日、また指揮を執ってもらうぞ」
「一応学生なのですが」
抵抗はしてみるが無駄だろうとは思う。爵位を受けるってそういうことだ。何もなければ何もしなくても給与貰えるけど何かあると能力の限界まで搾り取られて無茶苦茶忙しい。
とは言え父の顔を見る限り今回は大ごとではないようだが。
「言いたいことは解る。だが今回はある意味で特等席だ」
「特等席?」
「ヴェリーザ砦の奪還作戦に成功したとのことだ」
おお。王太子殿下さすが。
「敵将のドレアクスなる魔物を打ち取ったのはマゼル君だそうだ」
「おお」
今度は声に出た。しかし考えてみればヴェリーザ砦の中ボス大ボスともマゼルが斃したことになるな。これは偶然かゲーム補正かどっちだろうか。
「勝利軍の凱旋だが、やはり市民をある程度抑制しないわけにもいかんとの陛下のお言葉でな」
「凱旋式で騒動が起きないようにするわけですか。わかりました」
この時点ですでに城下はお祭り騒ぎになっていたんだが父も知らなかった。もちろん俺も知るすべはない。と言うか勝利報告とは言え口が軽すぎだろ城下町でしゃべった奴。
「責任者はエンゲルベルト伯爵が行うので明日は伯爵の指示に従ってもらう。兵卒の準備はこちらでやっておこう」
「解りました」
一礼して父経由の王命を承る。明日に備えて書類作業のスピード上げないといけないな。
まあマゼルのご帰還となれば出迎えるのは当たり前だ。公的には出迎えられない分、なるべく早く顔を合わせるとしますかね。
※この後に入るのが第一話になります。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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