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日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング5位…おろおろしてます…

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※引き続き三人称でヴェルナーとは別の場面となります

 王国軍右翼を指揮するのはノルポト侯爵である。ノルポト侯爵は武断派であるが派閥の中では慎重派に属する。そのため王太子からも信頼されており、今回も引き続き一翼を担う立場で戦陣に赴いていた。


 「頃合いか。第一騎士団に合図」

 「はっ」


 ノルポト侯の指示を受け騎士団の騎馬隊が動き出す。やがて馬蹄が地を揺らす音に交じり喊声が戦場に轟き、死霊の一団に黒い塊となって押し寄せ、敵左翼を一気に突き崩した。


 騎馬隊の破壊力はその突進力に影響されるが、そのためにはどうしても助走距離が必要となる。その一方、全身鎧を纏った騎士は人間二人分かそれ以上の加重となるため、距離がありすぎると馬の方が疲労し突進力が減少してしまう。

 そこに地形や地質なども関係してくるため突撃を命じるタイミングは経験でしか理解できず、騎士団の指揮は熟練の指揮官でないと難しい。経験豊富なノルポト侯爵はその間合いが絶妙であり、王太子も本陣で感心したように頷いていた。


 ノルポト侯爵にわずかに遅れて王国軍左翼も突撃を開始した。王国軍左翼指揮官はシュラム侯爵である。

 オラフ・ヘルムート・シュラム侯は王宮内では珍しく武断派でも文治派でもない中立派である。と同時にシュラム侯の娘は王太孫の婚約者であり、近い将来の外戚と言うことにもなっていた。

 多分に政治的配慮の産物ではあるが、この結果武断派・文治派両方に等距離を保てているのはこの状況では好転したと言える。

 またシュラム侯も歴とした貴族であり武人としての才幹も低くはない。今回は第二騎士団がその指揮下にあるが、見事に彼らを統御して攻撃命令を出し敵右翼の死霊たちを蹂躙し突き崩す。


 ここで知恵無き死霊兵がその欠点をさらけ出した。左右両翼を突き崩した第一・第二両騎士団がそのまま側面を逆走していくと、生命ある存在を襲おうとした死霊たちが列を離れて騎士団を追おうとしたのである。

 無断での戦線移動に加え、動く死体と骸骨兵の反応力や移動力の差が如実に表れ、死霊軍は軍の外周から統一性のある動きが失われつつあった。


 「第二陣を押し出せ。第三陣にも移動開始の指示を」


 敵の動きが乱れ、同時に王国中央隊が少しずつ後退したと判断したシュラム侯が第二陣に指示を飛ばす。第二陣は歩兵中心の軍で突進力こそ低いが行動柔軟性が高い。この歩兵部隊が騎士団を追おうとした死霊軍の側面を逆に襲撃した。

 第二陣歩兵隊を最前線で指揮するダヴラク子爵もまたヴェリーザ砦の撤退戦に参加してた一人で、クナープ侯の遺体を回収した本人である。武断派の一人で個人戦闘力には自負があった。


 「続けぇぃ!」


 戦斧を振りかざし歩兵隊の先頭に立って突進し、一撃で骸骨兵の頭蓋を打ち砕く。そのまま騎士団を追おうとしていた死霊たちが振り向く前に敵の列の中に突入し、当たるを幸いなぎ倒す。

 わずかに遅れて王国軍左翼第二陣指揮官であるミューエ伯爵が指揮する歩兵隊もダヴラク子爵に続いて敵中に突入し、死霊軍右翼を切り崩しにかかった。


 「怯むなっ! ここで奴らを倒さねば王都が蹂躙されるぞ!」


 ダヴラク子爵の怒声が戦場に響く。クナープ侯の一門でもあるダヴラクは二重三重にこの戦場で活躍しなければならない立場でもある。

 だがそれを差し引いても子爵の勇戦はひときわ目立ち、戦闘終了後には王太子からわざわざ称賛の言葉を受けるほどであった。



 一方の右翼もノルポト侯爵が第二陣と第三陣に前進命令を出していた。王国軍右翼の第二陣歩兵隊はデーゲンコルプ子爵が前線指揮を執っている。

 本来文治派であるデーゲンコルプは先の魔物暴走時には代理の弟に最低限の兵を付けて参加させていた。そのため、結果としてさほど目立つことはなく、同じ文治派のツェアフェルト家に美味しいところを持っていかれてしまった格好になっている。

 デーゲンコルプ子爵もツェアフェルト伯爵も同じ文治派ではあるが競争意識がないわけではなく、今回はいわば雪辱戦の意識をもって戦力を整え参戦していた。


 「押し包め! 落ち着いて一体一体確実につぶせばよい!」


 文治派と言っても臆病と言う意味ではない。デーゲンコルプ子爵家隊が前線の動く死体や骸骨兵を突き崩すと、右翼第二陣指揮官であるハルフォーク伯爵も自家の兵を中心に攻勢を強め、死霊軍左翼隊を中央に押し込み始めた。


 死霊は知性を持たない。そのため、目の前の生命ある存在に襲い掛かろうとするが側面から押されれば体勢を崩しもする。周囲から半包囲される形になった死霊軍は徐々に中央に集まるように押し込まれ、集団行動を制限されつつあった。

 その状況下で王国軍左右両翼の第三陣が第二陣のさらに外側から回り込み、死霊軍の左右両翼の後方に到着し戦端を開いたのである。


 王国軍左右両翼第三陣で中核となっているのはノルポト、シュラム両侯爵の直属兵である。だが騎兵をすべて第一陣に分け、第二陣に多くの貴族軍を割いているため質はともかく数が足りない。

 一方で敵を押し込む第二陣と異なり第三陣は敵の右後背、左後背から攻撃をかける軍である。そのため機動力を重視する編成となっており、必然的に重装備の第二陣、軽装の第三陣という状態になるのは避けられなかった。

 それらの理由もあり、第三陣には機動戦に長けた経験者である傭兵や冒険者などが前衛として配属されている。


 「こんな戦い方は初めてだな」

 「ここまで大規模なのも珍しいがね」


 傭兵団のオリヴァー・ゲッケは三日前にツェアフェルト伯爵家商隊とともに王都に戻ってきたばかりであったが、その直後に今回の戦いにはノルポト侯爵家に雇われての参戦となっている。

 ゲッケは傭兵の中でも知られた存在であり、王都にいる以上参戦要請がないはずもなかった。

 戦場で旧友であるそのゲッケに声をかけたのは真新しい鎧と剣を身に着けたルゲンツ・ラーザーである。周囲から見ても目立つ装備を身にまとい、既に戦闘状態になっている第二陣の外を駆けて敵後方に回り込みながらも口調は軽い。


 「マゼルも気を付けろよ」

 「大丈夫です」


 横を走るマゼルも同じように王都では見かけない装備を身に着けて参戦している。本来、学生は参加する必要はないが冒険者登録をしているマゼルはこの王都の危機に対してむしろ積極的に参加していた。

 一方でそのマゼルが気にしているのは一緒に横を走る少年である。


 「フェリ、あまり無理はしないようにね」

 「解ってるって」


 三日前に商隊とともに王都に戻ってきたフェリもまたこの戦いに参加している。その際に商隊が無事王都にまで持ち帰ってきた装備の一部を借りているのは、本人の希望に最終的にはマゼルらが責任を取ると発言した結果である。

 もっとも、ゲッケに言わせると「この坊主はその辺の衛兵より戦える」との発言があったからではあるが、フェリの「兄貴なら貸してくれるに違いないぜ」と言う発言に、マゼルらが奇妙な説得力を感じてしまったことも事実であった。


 「彼のフォローは私がしますので」

 「申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 ツェアフェルト商隊が王都を留守にしていた間、マゼルらと協力して訓練を行っていたエリッヒが微笑みながら申し出てマゼルが律義に頭を下げる。エリッヒもツェアフェルト商隊が入手した防具を装備しており、この一団は特に目立つ。


 「じゃあみんな、いこうか」

 「油断するんじゃねぇぞ」


 第二陣の後方を通りぬけた侯爵軍と傭兵・冒険者からなる第三陣は死霊軍左右両翼の後方から、ほぼ同時に突入した。死霊たちが振り返る間もなく戦い慣れした傭兵・冒険者たちが切り倒すことで死霊軍の戦線が切り崩されていく。

 さらに死霊軍の後方に、敵左右両翼を切り崩した王国軍の第一・第二両騎士団が合流して再度の突入を開始した。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…

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