――48――
総合評価2,600pt超え、ブクマ510件超えありがとうございますっ!
評価してくださる方も180人近くになりました。ありがたいです。
数日前からブクマが一気に増えているので嬉しいやら恐れ多いやら…。
楽しみにしてくださる方が増えたのですから更新も頑張りますー!
揃って複雑な表情を浮かべているのは今回の首脳部……俺の歳で首脳部入りかというツッコミはとりあえず置いておくが難民護送対策首脳部の面々だ。
不愉快さを隠していなかったり呆れていたりと様々ではあるが、共通しているのは「何をやらかしてくれたんだあいつは」という感情だろう。たぶんだが間違いない。
この状況になったのは王都からの急使が伝えた事件に原因がある。前クナープ侯の長男であるマンゴルトがやらかしやがったらしい。いや以前ちらっと会っただけなんで好意も悪意もなかったんだが話を聞いたら悪意が大量に。
それにしても、だ。
「傭兵を率いてヴェリーザ砦に襲撃とか、バカですか」
「子爵に同意する」
思わず声を出してしまった俺にクレッチマー男爵が間髪入れず応じる。侯爵位が自分を飛び越えて叔父のところに行っちゃったにしても、半分ぐらいは自業自得だろうに。どうでもいいがこの世界でも馬鹿とか阿呆とか通じるんだよな。
口には出さないがエンゲルベルト伯爵とフォーグラー伯爵にカウフフェルト子爵も表情が賛成していたり頷いたりしてるんで全員考えは同じっぽい。フォーグラー伯爵が首を振って呟いた。
「侯爵の騎士団がいても攻め落とされたのだ。側近と傭兵のみでなど無謀以外の何物でもあるまいに」
「しかし、王室は気が付かなかったのですかな」
「計画も何もなく暴走したようだ。派閥の貴族たちに金銭をせびっていたところまでは把握していたそうだが、爵位に関する宮廷工作費だと思っていたようだな」
伯爵に続いたカウフフェルト子爵の疑問にエンゲルベルト伯爵が答える。それって資金を出した派閥の連中も顔色真っ青じゃね。勝手に兵を集めた時点で反乱と言われてもおかしくないんだし。
セイファート将爵が腕を組んで沈黙してるのが逆に怖え。
「それに王宮もいろいろ抱え込んでいるしな」
「それは確かに」
ヴェリーザ砦の警戒に難民対策に水道橋建設だもんなあ……まあ水道橋建設は突発の割込みイベントなわけだが、工事現場の警備に人が割かれているんで結果的に騎士団は動けなくなっているのが何とも。俺悪くないよね? それともこれがゲーム補正力なんだろうか。
いや、そんなことよりだ。
「王都襲撃の呼び水になったりしませんでしょうか」
「その可能性は十分にあるな」
俺の発言に再びクレッチマー男爵が応じる。エンゲルベルト伯も苦々しげに頷いたんで皆不安は同じか。
そう思っていたら将爵が腕を解いて全員を見まわした。
「いずれにしてもまだ情報が欠けておる。とは言え一〇〇〇を超える兵力がここにあるのじゃから状況次第では王都に急ぎ戻る必要もあるじゃろう」
俺も含めて全員が頷く。将爵が発言を続けた。
「だからと言って難民を置き去りにするわけにもいかぬ。今後の情報次第では難民と同行する隊と王都に戻る隊に分けねばならん」
「確かに」
「兵がいなくなれば脱走者が出てもおかしくないですからな」
もし王都から急な招集があれば可能な限り兵を率いて戻る必要と、難民対策用に人数を残さなければならないこの矛盾。将爵も悩ましいところだろうな。
この後の打ち合わせで結局俺のツェアフェルト隊と周辺警戒の斥候・迎撃担当の冒険者や傭兵隊にフォーグラー伯爵隊が難民護送側に残ることになった。指揮官はもちろん伯爵だ。異論はないんだがいくら何でも突発事件すぎだろうこれ。
「というわけなんだが、皆の意見を聞きたい」
隊に戻ると他言無用と強調したうえで何人かの傭兵隊長や冒険者グループのリーダーを呼んで意見を聴いてみた。皆もちろん驚いたがその後で俺の発した質問には首をひねった人間が続出。
「そんなバカな指示に応じる傭兵がいるかと言われると疑問だな。もちろん頭の足りない奴らもいるが」
「冒険者も似たようなものだ。一貴族単独で砦攻めなんて無謀以外の何物でもないことに普通の冒険者が参加するとは思えない」
「貴族にも足りないのはいるけどな」
思わずそう応じてしまいここにいる面子が苦笑を浮かべた。なにせその足りない貴族のやらかしだ。笑うに笑えないという所だろう。本来貴族の前でやると礼儀の問題がありそうなもんだがまず俺が貴族らしくないしな。
ここ一か月弱の間に傭兵や冒険者とも気軽に話していたんで、俺が貴族だからと身構えられたりする事はだいぶ少なくなった。マックスが俺に対してほどほどの礼儀を守るというタイプだったと言うのもあるかもしれない。舐められてるんじゃないと思いたい。
それはともかく。
「だとするとどうなんだろうか。どんな連中を連れて行ったのかという意味でだけど……何か心当たりはある?」
「まず考えられるのは金さえもらえば何でもやるって奴らだな。王都にも“裏街”がないわけじゃない」
裏街ってのはこの世界でいわゆる
「そんな連中が逆に魔物と戦うような真似をするとは思えないんだけど」
そこが引っかかる。そんなことができるなら冒険者とかやってるだろう。腕力があるならスラムで犯罪行為に手を染める方が濡れ手で粟なのかもしれないが、冒険者は少なくとも無法者より社会的な評価は上だ。
どっちを取るかと言われればそこまでか。スラムにいる人間全員が犯罪者ってわけでもないし。
「砦までいくとは限らないだろ」
「?」
傭兵団の団長の一人がそんなことを言い出した。よくわからん。
「要するに途中まで同行してある日起きたらドロン、って事だよ」
「うわぁえげつない」
なるほど。金だけもらっていなくなるのは護衛とかでもあるパターンだしな。ちゃんとギルド経由ならそんな奴らはほとんどいないだろうが、無茶をするため無理に集めればそう言う奴が出てくるか。
しかしそうすると砦攻めって言うか攻めに行って途中でどうにもならなくなって立往生してないだろうか。まあそれが正解とは限らないが。
「なるほど。他の可能性はあるかな」
「他の貴族の兵って可能性はないのか?」
冒険者リーダーの一人がそんなことを聞いてきた。少し考えてから首を振る。
「たぶんないと思う。現在の王都の警備は通常より薄いぐらいだし」
水道橋工事やら難民対策やらで兵力分散してるぐらいだ。貴族が勝手に兵力を無駄使いはできないだろう。それにヴェリーザ砦での話は貴族界隈には知られているはず。安易に兵を貸し出しても死体が増えるだけだ。
「魔物暴走での被害も軽かったとはいえ無かったわけじゃないしなあ」
兵士一人育てるのに普通は何年もかかる。ゲームじゃないからなあ。いや俺の記憶ではここはゲーム世界だったはずなんだけど。
それはともかく人的損失と言う奴は簡単には埋められるもんじゃない。前世では同僚が給料不満でやめたときに解ってない上司が人数合わせのため数だけ人間送り込んできて……まあそれはいいや。
ちなみに軍隊での最初の訓練は武器を振るう事じゃない。歩くことだ。戦場までたどり着けない兵士は兵士じゃない。新兵はまず武装状態のまま五時間で三〇キロ歩けるようになることから始まる。武器の訓練はそれができるようになってからだ。言うまでもなくこれは最低ラインなんだがまあその辺はいい。
ともかくそこまで無謀な行動に人数を出す貴族はいないだろう。たぶん。きっと。いないんじゃないかな。いないといいな。
その後もしばらく傭兵団の団長や冒険者たちに意見を聞いたがどれも決定打にかける。まあ俺自身が持っている情報自体が第一報しかないしな。
「結局のところ情報が足りないか」
「お貴族様もいろいろだってのは実感した」
傭兵団の一人がそんなことを言うので苦笑いするしかない。傭兵や冒険者と篝火を囲んで酒飲みかわす俺も例外に属するが、マンゴルトぐらい考えなしも例外だとは強調しておく。
傭兵を見下しがちになる貴族の方が一般的には多いのはしょうがないか。とは言え見下される方が喜んでるわけじゃないんだよな。気を付けないと。
「一応、状況は把握した。俺たちは基本的に今までと同じでいいんだな」
「そうなる。本隊の人数が減った時には警戒レベルは上げてもらうけどね」
難民に対する抑えも防衛ラインも薄くなるんだ。気が抜けなくなる。まあそれも王都の状況次第ではあるが。願わくば何事もなくあってほしい。移動ペースが上げられればいいんだろうがそれはまず無理だしなあ。
最悪の場合傭兵団と冒険者たちを別に運用することも考えるか。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。