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158位でランクインしていました!
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まだ興味深そうに実験器具を見ている方々もいるが、水が入った瓶とかずっと持たせているとかわいそうだ。文官さんと少年に一旦片づけていいよと合図をし、図の方に視線を移してもらう。
「その、クルムシェの湖から水を出すことができれば後は比較的容易です。取り急ぎ木製の樋で水路を作れば比較的楽にその湖から水を引っ張ってこられるのではないかと。難民の一時滞在中だけもてばいいのですから」
エンゲルベルト伯爵が興味深そうに口を開く。
「水道橋を通った水は元の高さと同じまで上げられるのか?」
「全く同じにまでは難しいかと。わずかに下がるという程度までなら大丈夫だと思います。水路の専門家と相談は必要ですが」
「その水路には砂が溜まったりしないのか」
「ご懸念の通り溜まります。蓋はしておく必要はありますが、それとは別にここの側面に……」
図の橋で一番低くなるところにマークする。
「放水口を設ければよろしいかと。普段は板で塞いでおき、板を抜き取れば水は横にあふれ出ますので砂や泥も一緒に押し流します。板を戻して水がいっぱいになればまた高いところに水が流れますので」
「なるほど」
通潤橋の放水は観光客用の見せ物になってるけど、本来はそういう目的だったはずだ。質問したエンゲルベルト伯爵も納得したように頷いた。そして伯爵の視線が俺からセイファート将爵に移動する。
「ふむ。ヴェルナー卿、これをどこで?」
「あ、ええと、子供の頃に遊んでいて偶然気が付きまして」
将爵の問いにやや口ごもる。まあサイフォンの原理は義務教育中だから子供の頃なのは嘘じゃないし、理科の実験なんか半分お遊びだったよな、うん。
と言うか俺も専門家じゃないんであんまり突っ込まれると困るんだよ。ほとんど思い付きで使えるんじゃないかと言うレベルの話なんだから。
「これ、そこの君」
そんな内心に気が付いた様子もなく、俺の返答に頷いた将爵が壁際の別の文官を呼ぶ。緊張した表情で文官さんの一人が将爵に近寄った。
「陛下と工部大臣、それに水路局長官に声をかけてきてくれんか。午後に時間を取ってもらいたいでな」
「はい、すぐに」
あれ?
「ヴェルナー卿、卿も午後に時間を貰いたいが構わぬかな」
「は、もちろんです」
と言うしかないけど何で? あれ? どうしてこうなった?
それからしばらく難民対策の打合せを進めていたが、先ほどの文官さんが急いだように戻ってきて、将爵に近づき小声で何かを伝えると、将爵が頷いた。
「急ぎ時間を取って貰ったのでは文句も言えぬ。すぐに伺うとしよう。ラインヴァルト卿、会議の進行を任せる」
「はっ。お任せください」
「ヴェルナー卿、卿は儂と一緒じゃ。ああ、先ほどの実験機材を持っていた二人も機材を持ってきてもらおうかの」
「かしこまりました」
エンゲルベルト伯爵はラインヴァルトって名前なのか。そう思ったが将爵がさっさと立ち上がったので、慌てて他の皆様に一礼し将爵のお供をして会議の場を離れる。
なんか話が大きくなっているみたいで俺自身が付いていけてない。うう、帰りたい。会議室の近くで思わず振り返ると、ワイン瓶を抱えてる文官さんと少年が同じような表情でこっちを見てきた。
「ご苦労。セイファートじゃ」
「お待ちしておりました。陛下もお待ちです」
「うむ」
将爵が会議室の前に立つ衛兵に声をかけると衛兵が恭しく頭を下げて扉を開く。当たり前だが自分でノックなんかせんわな。
「セイファートにございます。お時間ありがたく」
「うむ、待っておったぞ」
会議室の中には国王陛下と王太子殿下にラーデマッハー工部大臣、ゲブハルト水路局長官がお待ちでございます。大物ばっかりだねえ。現実感がないんで逆になんか冷静だわ。
王太子殿下、こっち見て笑わんでください。何もしてないですってば。
「まずは陛下、ヴェルナー卿が発見したこちらの事例をご覧ください」
うわ、俺が発見したことに……俺は学者じゃないっての。ゲームの記憶ならともかくこういう前世の知識を自分の発明や発見みたいに評価されるとなんか自分が泥棒になった気分だ。
俺の困惑を勘違いされたのか、将爵が文官さんと少年に指示をして実際に実験道具を準備させる。少年は国王陛下や王太子殿下の前なんでがちがちだ。うん、ほんとごめん。今度お菓子でも差し入れるな。
一度チューブを降りて行った水が上に上がるのを見て工部大臣や水路局長官はもちろん、陛下や王太子殿下も驚いた顔を浮かべている。本当にこの世界では知られてないんだな。
あれそういえばこの城にも噴水あるよな。あの噴水どうやって水出してるんだ?
「水面の高さが水平になろうと一定になることを利用しているのか。水そのものにそれを行わせるとは……」
「これはどれほどの高度差で使用可能なのかね?」
さらっと原理を理解した王太子殿下がやっぱ半端ない。そして水路局長官の問いが飛んできたのでちょっと躊躇しながら答える。
「やったことがないのでどこまで利用できるかは解りません。あまり高低差があると水そのものの圧力に管の方が耐えられなくなるのではないかと思いますが」
「確かにな」
半分嘘です。サイフォンの原理で理論上十メートル、実際の利用限界はせいぜい七、八メートルってのは理科の授業で勉強した。実際にその高さでの実験はしてないが。
けど子供の頃の遊びで気が付いたことをそんなに詳しく知っているほうがおかしいよな。
「現地を見ておりませんがクルムシェの裂け目と盆地を超えられればよいのではないでしょうか」
「うむ」
あれ、歯切れ悪いな。なんかそれだけじゃないっぽい? 疑問に思っていたら文官さんと少年君には「もう戻ってよいぞ」と将爵が退出許可を出していた。俺も戻りたいです。
「さて陛下、よろしいですかな」
「うむ」
将爵が陛下に何やら許可をとってから俺の方に向き直った。
「ツェアフェルト子爵。これ以降の話は秘密じゃ」
「かしこまりました」
えーなんかめんどくさい話? と思ったらある意味本当に面倒な話だった。
「実はの。王都はここ数年水不足なのじゃ」
「……」
驚愕の事実。王都が水不足? 知らんぞそんなこと。
ポーカーフェイスは保てなかったが国王陛下や王太子殿下の前でうっかり声を漏らさなかった俺を誰か褒めてほしい。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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