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今日総合評価1,800pt超え、ブクマも360件超えとこの二日間急に増えてむしろ慌てています(笑)

360人ぐらいの人が続きを読んでくださるのだと思うと頑張らなきゃと思いなおしています。

お読みくださっている皆様本当にありがとうございます!

 俺が考えても仕方がないことを考えてるうちに、難民をどこで保護するかの問題に移行していた。


 「ひとまず王都近辺で宿営地のような形のものを作ります」

 「その後は?」

 「別室で会議中でしょうが結論が出るまで時間はかかりそうですね」

 「皆、欲の皮は厚いからのお」


 セイファート将爵の発言にあちこちから苦笑が漏れる。この時代、人口イコール国力みたいなところがどっかにある。元難民でも受け入れられる人数ならウェルカム、というのが基本だ。

 ところが多すぎると負担になる。難民が生産者になるまでの期間食わせなきゃならないからな。だから自領で受け入れられる限りは受け入れたいが、オーバーキャパは嫌というせめぎあいが起きる。

 要するにどの貴族も都合のいい人数だけよこせ、の調整作業というわけだ。難民の人権なんてもんはこの世界にはない。家族単位で引き取るとかの配慮はあるか。


 あと特殊な環境にいた人間は引く手あまただ。商人とか役所務めとか。文字や数字が解る人間はこの世界では貴重。そのほか職人なんかもまあ待遇に贅沢さえ言わなければ引き取り手はあるはず。

 問題はそれ以外の人だ。そして残念なことにそういうそれ以外の方が比率でいえば圧倒的に多くなるのはどこの世界も変わらない。


 「結論が出るまではひとまず王都付近か……」

 「食料と水が問題ですな」

 「やはりクルムシェの山頂湖から水を引きますか」

 「以前から計画はあるがあの地形ではな」


 聞き覚えのない名前が出てきたんで何のことだと思っていたら、他にも疑問を持った人物がいたようだ。四十代の貴族風男性が手を挙げてから疑問を呈する。


 「失礼、その計画とは?」

 「フォーグラー伯爵はご存じなかったか。王都北西にあるクルムシェにはかなり大きく水質もよい湖があっての」


 まあ貴族だからと言って王都周辺地域に詳しい人ばかりではない。辺境貴族だと領地にいることも多いしな。顔も見覚えがないがフォーグラー伯領はクナープ侯爵領の隣だったか。

 そのフォーグラー伯爵に将爵がゆったりとした口調で説明をしてくれる。知らない他の人も聞いておけということだな。


 と言ってもそれほど長い話ではなかった。王都の北西にあるクルムシェ山って低い山に湖がある。水源にしようと考えたこともあったらしいが、王都との途中に深い裂け目のある窪地がありその裂け目と窪地が邪魔でどうにもならない。

 いっそ逆に湖の近くを農地にしてはどうかという意見も出たぐらいだそうだ。まあこっちは計画ともいえないただの話題だそうだが。

 前世では大きな都って大体川とかが近くにあるんだが、この世界ではなぜか川がないことが多い。飲料水だけじゃなく輸送面でも水運の方が量を運べるんだが。川の近くでなくても流通や建築資材に困らないのはゲームだからか?

 いや、それを考えても仕方がないな。


 「裂け目は水道橋を作ればどうにかなるが窪地全体も下がっておるのでそこがどうにもならんでな」

 「なるほど……ちなみに窪地全体の高さは?」

 「裂け目のあるあたりから高くなるとこまではせいぜい子供の身長の高さぐらいではあるのですが」


 エンゲルベルト伯爵が答えフォーグラー伯爵が納得したようにうなずいているが、俺はその高さに引っかかってしまった。それってどうにかなるんじゃね。

 そう思った俺は思わず手を挙げてしまった。


 「ツェアフェルト子爵、何か?」

 「あ、ええと、現場を見ないと断言はできませんがどうにかできるかもしれません」


 全員がこっちを向く。食われそうだとか一瞬思った。蛇に睨まれたカエル……いや違うか。と言うかそういう場合じゃない。


 「ええと、ご説明のため準備の時間をいただいても?」

 「かまわんよ。では先に次の議題を進めておこうかの」


 俺が許可をもらうと将爵が軽くうなずいて承認してくれた。その孫が悪戯を企んでいるのを知っていて何をするのかさぐるような視線はやめてくれませんかね。外見年齢的にはそんなもんだけどさ。


 とりあえず壁際の若いのを数人呼んで、実験道具の図を描きながら準備してもらえるように依頼する。妙な顔をされたのはしょうがないか。

 これ、ペットボトルがあると楽なんだけどなあ。


 しばらくして実験道具と大き目の黒板の準備ができたらしいので会議を一時中断してもらった。休憩も必要だろうしちょうどいい。

 実験道具と言ってもそれほど難しいもんじゃない。ワインの瓶の底を切り取ったのを二つとそれを繋ぐ水を通すためのチューブだ。これで瓶の口同士をつなぎ、上下逆向きに持ってもらう。底がないんで上から水を注ぎこめる。

 あとは水を入れてある別のワイン瓶を数本用意して準備おしまい。


 ちなみにこのチューブ、石芋虫(ストーンクロウラー)って魔物の腸を三十日ぐらい酢につけて腐りにくくしたもので、丈夫だし伸縮性も高い。チューブとしてだけ考えるならゴムホースより優れている。

 ただ素材としては魔獣、それも初心者冒険者には荷が重いという強さを持つ魔獣の腸なのでこのチューブは品薄になりがち。水撒きのホースとかにも使ってるしな。この腸を買い取る依頼が冒険者ギルドに出ることも多いが数はなかなか揃わない。自力で量産しようがないんでしょうがないんだが。

 そのほかの欠点は複数を接ぐ方法がないんで、魔獣一体分までと言う長さの限界があるのと、素材が何かを知っているとこう、手に持った時のぐにっという感触がね……うん、考えないことにする。


 「じゃあ、こっちは君が持っていてくれ。君はこっち」


 瓶の口に刺さったチューブをしっかり持ってもらい、上から水を注げるように高い方は大人の文官、低い方は少年に持ってもらう。

 偉い人の視線が集中してるせいで少年緊張しまくりだよ。貴族とか将軍とかばっかりだから怖いよね。ごめん。


 「では始めます」


 別にもったいぶってやるほどのことでもない。かわいそうだしさっさとはじめよう。文官さんが持ってる高い方のワイン瓶に水を注ぎ入れる。零れないように注意はしつつ高い方の瓶に水が溜まるぐらいの水量を維持する。

 ごぽごぽと水音がしてだらんと下がってるチューブに水が流れていく。やがて床まで落ちているチューブをいっぱいにした水が逆にチューブを通じて上昇し少年の持っている瓶に溢れてきた。

 会議室に小さい驚きの声が上がった。


 「御覧のように、水路がいっぱいになっていると水は同じ高さになろうとし、水は上に流れます。水道橋にも応用できるのではないでしょうか。こんな風に」


 用意してもらった黒板にチョークで大雑把な図を描く。流石王城で使うチョーク。質がいいな。素材は意識から追い出す。

 描いたのは日本の通潤橋をディフォルメしたようなものだ。俺自身詳しく描けるほどサイズとか知ってるわけじゃないんで子供の落書きレベルだが通じればいいんだよ。


 「水路が水でいっぱいになれば出水孔の水位が入水孔と同じ高さまで上がってきますので、水道橋でも高いところに水を持ち上げることが可能なのです」


 唸り声が上がる。何のことはない水準管実験によるサイフォンの原理だが、知らない人間は知らない。というかこの世界だと知られてないっぽいが話す機会もなかった。話す理由もなかったしな。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…

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