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いきなりの父のセリフに軽く困惑。何が何でそうなったのやら。
「えーっと、どういう事?」
素が出たのは悪くないはずだ。父も怒らなかった。ただ座るように促されたんでどうやら面倒な話にはなりそうだ。とりあえず長椅子に座る。
父が対面に座り紅茶を置いていったメイドさんが立ち去ると、入れ替わるように父の執事であるノルベルトが扉の前に立った。おいおい、随分慎重だな。
「……で、何なのです?」
「今のところまだ発表はされていない。まあすぐに知られることではあるんだが……」
やたらもったいぶった言い回しの上重いため息までつかれた。断りにくい。いやこっちに覚悟を決めさせるための手か。
そうは思っていたが次の一言にはさすがに驚いた。
「トライオットが魔軍に攻め滅ぼされた」
「……はい?」
トライオット。我がヴァイン王国の隣にある国だ。いや国って言っても国力とか面積でいえば我が国より弱い。衛星国とかそんな感じだな。
この世界でトライオットのある辺りにはゲームでは町も何もないのでフィールドがやたらと広く、最初に移動した時は次の町まで歩く距離の長さに辟易した記憶がある。
イベントがないからゲームに登場しなかったのかと思ったら実は滅ぼされてたのか。
「どんな状況なんです?」
「トライオットの王都が強襲されて王族はじめ国の重鎮と騎士団がほぼ全滅。住民は着の身着のまま脱出したとのことだ」
「ほぼ?」
「生死不明がいるようだが……報告を聞く限り生存の可能性は低そうだ」
近い将来の王都の姿だなと思ったがさすがにそうは口にできない。とは言えさすがにおちゃらける気にもならん。
「で、それと兵を率いることに何の繋がりが?」
「トライオットの難民が我が国に向かってきている。というよりこれから大量発生しそうな気配でな」
崩壊した王都では住めないだろう。王都から逃げ出した民に追われて近隣の町や村を捨てて雪だるま式に難民が増えるのは容易に想像できる。
そりゃそうだ。騎士団も全滅した状況じゃ治安維持システムが崩壊している。しかも自国の騎士団を全滅させた敵が自分のところに来るかもしれないとなれば逃げるわな。
「その難民を受け入れると?」
「受け入れたくはないが国境辺りで暴徒化されると収拾がつかん」
「ごもっとも」
さすがに魔物に食われるのを座視しているほどには冷酷にはなれないって事か。魔物が人間の味をしめたりすると困るという散文的な理由もあるだろう。魔物が餌食いまくって増えたとかは聞かないが、さすがに実験するわけにもいかんし。
まあ受け入れる苦労はえらい人たちがやるのだろう。追い返すというわけでもないこの状況で俺に兵を率いろということは。
「その難民の警備と警戒をかねての出迎えと言うわけですか。でもなぜ伯爵家が?」
難民が暴走しないように威圧兵力も必要なのはわかる。難民が屋外の魔獣や魔物に襲われてパニックが起きても困るのもわかる。だが伯爵家がやる理由がわからん。
父の反応はある意味わかりやすかった。
「まず理由のひとつ。トライオットに隣接している我が国の領土はクナープ侯爵領だ」
「おぅっ……」
そういえばそうだった。トライオットとの関係は良好だったから、国境に兵力を張り付ける必要の低いクナープ侯がヴェリーザ砦の改修を任されたんだったな。
つまり難民が来る領地には最高決定責任者と、改修工事に参加していた首脳部、騎士団不在か。しかも当主は死んでるわけで。
「じゃあ責任者は長男に?」
「そういうわけでもなくてな」
「はあ」
聞いたところクナープ侯の長男マンゴルト・ゴスリヒ・クナープ子爵閣下は先日伯爵を怒鳴りつけるとか馬鹿なことをしたんで評価がめちゃくちゃ低いらしい。俺ですら馬鹿かと思う。
もっとも今更ではなくクナープ侯の派閥の人間でさえ『政治や礼儀は問題がありますが勇敢な人物です』と評したりするんだそうだ。要するに脳筋って事だな。そんなのが国を失った難民対策……。悪い未来しか見えねぇ。
いやだから責任者から外されたんだろうが。
「じゃあ誰が?」
「クナープ侯の弟御が緊急事態ということで当主となることが内定した」
「それ、長男は納得しているんですか」
「するとは思えん」
いっそはっきり言い切りやがったな父上。この辺りは流石貴族か。
「そこでマンゴルト卿は王都に残ってもらう。クナープ候の弟御は生き残った騎士団と兵、それに負傷者を連れて領地に戻り、そのまま治安維持の任務に就いてもらう」
なるほど。兵力と本人を分けておいて面倒ごとを起こさせないようにすると。ってか長男どんだけ不安視されてるんだ。俺もそうならんように気を付けよう。うん。
「騎士団が領地に残るから難民を警備する兵力が別に必要だという事ですね」
「そういうことだ。無論、難民保護と支援は我が家だけではないがな」
「なるほど」
クナープ侯の騎士団にどれほどの損害が出たのかは解らんが、治安維持で手一杯になるというより旧トライオット領からの魔軍防衛任務が主になるんだろうな。
で、クナープ侯領の騎士団とかにはそんな暇も余力もないんで難民の方は別枠対応が必要だと。比較的余力があってかつ我を出すことの少ないツェアフェルトもその中に選ばれたというわけか。
面倒で実入りが少ない役目が回ってくるあたり、ツェアフェルトの扱いの一端が見えるような気もする。公爵や侯爵じゃないから大人数を必要とする任務は割り振りにくいってのはあるだろうが。
「難民護送の責任者はどなたが?」
「セイファート将爵だ」
あの老将軍か。フルネームはイェフ・アルティヒ・セイファート将爵だったかな。確か国王陛下の母方の従兄弟。前・王都城将、つまり以前には王都防衛司令だった人物。遠くから見たことはあった気がする。
将爵って立場なんで大臣職とかのポストも用意されていたらしいが、本人が現場がいいとその職に居座り続けた変人って噂だ。確かに貴族らしくはないが大物だな。
事実上公職から隠居しているも同然のベテランを引っ張り出して来たなと思うが、クナープ侯爵と同格程度の貴族に領の確認をさせると面倒は面倒だしな。将爵なら地位も高く陛下の血縁ってことで発言力も十分。
しかもトライオットの調査と状況判断もしなきゃならんからある意味当然か。威力偵察はしないだろうが、国境をクナープ侯爵家だけに任せるかどうかの判断も委ねられてるってところだろう。
「そこは理解しました。にしても我が家は随分使われますね」
「王太子殿下の覚えめでたい息子のおかげでな」
苦笑しながら言わんで欲しい。俺だってなんでこうなったのかさっぱりだよ。ただ働きでないのが救いか。王家に従うのは義務だが無条件ではやっていられない。
国王だから他人を顎で使える、とか考えるような愚王でなかったのは幸いだな。ゲームでは勇者任せの挙句、王都襲撃されて生死不明になるわけだが……あれあんまり期待しちゃ駄目か?
あんまり考えると不敬だから考えるのをやめた。というかそれどころじゃない。すぐに手を打たないと。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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