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増えていくの本当に嬉しいです、評価やブクマありがとうございます!
読んでくださる方のご期待に沿えるよう精進しますー!
どこでもそうなのかはわからんがこの国での王城は門から奥に向かって
別に制度とかではないけど大体その間を移動するときには衛兵の誰何を受ける事になるな。
それなりに広い広場みたいなのもあるので、閲兵式みたいなのはここで行われる。あと騎士団詰所とかはこの公的空間。兵士の訓練所や騎士の馬場もここになる。
貴族同士の出会いの場のひとつでもあるし、広く招待される貴婦人方のお茶会なんかが行われるサロンとかもある。
当然執務室は屋内だが中庭もある。中庭って言っても普通の家の土地面積並みに広かったりするんだが。お茶会の中でも政治色が強かったり、重要人物とこっそり顔合わせなんかはこっちの中庭でやる。先日ラウラと話をしたのはここだ。
ダンスホールや上流貴族向けサロンが執務空間にあるのは外交とかが同時に行われるから。ちなみに騎士団本部や魔術師隊研究所もここ。地下牢も分類上はここになるのか。
ちなみにこの世界では一夫一婦が原則だが偉い人はお妾さんを囲ってることも珍しくはない。貴族にはあんま珍しくないか。
そのほかには王太子宮や隠居した王族の宮殿とかも一応ここの範疇になるのかな。たまに陛下のお妾さんなんかが邸宅をもらうのもこのあたり。
後、王家の宝物庫はこの私的空間にあるらしい。国の物は王様の物ってことなのだろう。
公的空間の外庭園で一休み。備え付けられたベンチに座って思わず声が出た。おっさんくさいとかいうな。いや中身はおっさんだけど。
ぼーっと日向ぼっこをしながら頭の中身を整理していく。
今回一番気になったのはあの黒魔導師だ。ヴェリーザ砦の中ボス、中盤ではただのランダムエンカウントモンスター。ゲーム中ではセリフさえなかった相手。
ゲームでいえば脇役未満の存在でもあれだけのことをしでかせるんだ。認識をいいかげん改めた方がいいかもしれない。この世界を基に作られたのがあのゲームなんだ、と言う感じでちょうどいいのではないか。
俺自身の行動もある。スキルや能力はしょうがないとして、行動結果に影響が与えられるかどうかは別なのかもしれない。逆に言えば行動によって結果が変わる事がありえるという事か。王太子殿下が死ななかったみたいに。
王城襲撃イベントに対しても変化が起こせる可能性と見ていいのだろう。
そしてもう一つ、どうにも引っかかる問題がある。名前だ。
当たり前だが世界に住んでいる人たちには名前があるが、何とはなしに名前なしで通り過ぎてしまう事が多い。
武器屋の主人とかパン屋の職人とかなんかだが、これは前世でもそうだったからまあいい。いちいち他人の名前を聴いてまわったりはしない。
問題なのは本来重要な人物の名前に対する認識だ。普通覚えていてもおかしくないはずなのに、たまにどういうわけだか覚えていない人物がいる。
王太子や王太孫もこの世界に生きている以上名前があったはずなのに、あの魔物暴走の時まで把握していなかった。これは考えてみればおかしい。
実際、第二王女のラウラの名前は覚えているがこれはゲームの知識。一方、ラウラの姉にあたるはずの第一王女の名前がどうやっても思い出せない。貴族として聞いたことはあるはずなのに。
ゲームの知識とこの世界の住人としての認識とに何か乖離があるのだろうか。だとしたらそれはなんだろうか。
「あの」
つらつら考えていたので気が付くのが遅れてしまった。呼びかけられたので視線を向けてそこにいる相手に慌てる羽目になる。
「王太孫殿下、失礼をいたしました」
「あ、いえ、気にしなくてもいいです。ツェアフェルト子爵」
こんなところに何でいらっしゃるのやら。そう思いながら立ち上がって礼をしたが逆に恐縮されてしまった。ラウラもそうだが全体的に腰が低いよなここの王族。
ひとまず立ったままもあれなので王太孫殿下にはベンチに座っていただき代わりに俺が前に立つ。どこからか視線を感じるのはルーウェン殿下のお忍びってことではないという事だろうな。
「お声掛けして頂き恐縮ではございますが、何か御用でしょうか?」
「いえ、先日の魔物暴走の英雄に一度お話をしてみたかったので」
英雄って誰だと思わず口に出しかけた。危ない危ない。
「恐縮ですが英雄などと言う柄ではありません」
「父殿下は英雄の素質があると笑って言っていました」
王太子殿下、息子さんが冗談を真に受けてますよ。勘弁してください。英雄と呼ばれるべきなのはマゼルの方だ。
とは言え面と向かって否定し続けるのも非礼なんだよなあ。
「あの時、自信を持って前線に出れなかったので。子爵のような勇気があればと思いました」
いや、十歳で戦場にいる方がおかしいから。と思うのは前世の知識のほうか?
よく考えればそうでもないな。源頼朝の初陣が十三歳だったか。戦場に連れて行かれただけならもっと若くてもそこまでおかしくない。吉川元春みたいなのもいるがあれは例外。
「私も殿下ぐらいの時は怖がりだったと思います」
「そうなのでしょうか?」
「怖いのが普通でしょう。慣れてくれば殿下も自然と勇気が持てるかと」
あんまり戦争好きになっても困るが。しかし自分だけ座って話すという事に別に違和感は感じていないようだ。その辺り流石王族だな。こっちも当たり前だという認識があるし。
「あまり戦場向きではないのではないかと言われたこともありまして」
「他人の言う事ですから」
とは言ってみたものの確かに女装させたらラウラの“妹”で通じそうだ。将来美人になる事が確定の。まあ正直に言う事ではない。
「聞いた話では幼いころに姫とまで言われていた男性が後に名将になったこともあるそうですから大丈夫ですよ」
長宗我部元親の姫は女の子みたいな見た目と言う意味ではないが嘘は言っていないな、うん。
「そうなのでしょうか」
「そんなものです。結果が全てですよ。五年後に見返してやればいいんです」
何を偉そうなことを言ってるんだ俺とも思うが中身から見れば息子の世代なんだよなあ。なんだかいろいろと複雑だ。
そんなことを思っていたら殿下を呼ぶ声がする。大人の声ではない。かわいらしい声だ。
「ルー……殿下、こちらにおいででございましたか」
名前呼びしそうになったのは殿下とほぼ同年代の女の子。金髪の殿下と違いこっちは綺麗な黒髪だ。俺の存在に気が付くと年齢よりは上手なカーテシーで挨拶してくる。
「お話ちゅう失礼いたしました。ローゼマリー・エル・シュラムと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私はヴェルナー・ファン・ツェアフェルトと申します」
こちらも
「子爵様のお噂はかねがねお伺いしております」
「恐縮です」
恐縮しておく。シュラムと言えば侯爵家だったはずだ。でも相手、十歳前後。貴族って怖いな。礼儀作法叩き込まれてるもんな。
にもかかわらず殿下を名前呼びしそうになったという事は相当に親しい……うん、まあここまでにしておこう。
「子爵、途中ですが済みません」
「いえいえ、有意義な時間でした。それに私も用事を思い出しましたので」
殿下が頭を下げてきたのはおそらくこれからローゼマリー嬢と何か約束があるんだろう。苦手意識もないようだしお邪魔虫は俺の方だろうな。
互いにもう一度礼をし、その場で別れる。途中一度だけ振り返ると金髪と黒髪の少年少女が仲良く並んで建物の中に入っていく後姿が目に付いた。
ほほえましいものを見た気分だったが我に返って得体の知れない感覚が走る。ゲーム中にはあんな子は出てこないが、やはり王太孫にもこの世界の人間関係があるんだ。
あの魔物暴走で王太孫が戦死していたらあの子は泣いただろうか。知らんふりで逃げだしていたらあの子を泣かせたことになったんだろうか。俺のせいじゃないとはいえ。
そして王都襲撃があったゲームではあの子は死んでいたのだろうか。今襲撃があればあの二人も物言わぬ骸になるのだろうか。どこで。どんな姿で。
新聞で一〇万人の子供が飢え死にしそうだと読んでも気にしない大人が、テレビに映った病気の子供が外国で手術するための費用が足りないと聴くと募金する。
前世で何度も見た話。人間心理ってそんなもんだ。数字より目に映った人の印象のほうが強い。人が動くのは数字ではなく物語だ。
俺自身、王都襲撃で何人が死ぬのかわからないが、その被害を想像するよりあの二人の子のほうが印象に残ってしまった。その死に顔を見たくないというのは偽善だろうか。
「……偽善で悪いか」
やらぬ善よりやる偽善だ。とは言え苦笑ってのはこういう時にするもんだよな。俺は誰にともなく言い訳すると中庭から移動し王城を後にした。
ついでと言うとなんだが調べておきたい事ができたからだ。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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