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総合評価1200pt超え、ブクマ250件超えました。

毎日伸びていて、本当にありがとうございます。

頑張ろうという意欲がわきます!

 顔色を失ったままの俺たちの報告を聞き、シャンデール伯爵らもさすがに蒼白になった。手分けしてクナープ侯たちの遺体を回収しすぐにヴェリーザ砦を離れる。

 労働者や負傷者を軍の中央に配置し、魔獣を警戒しながらだが最大限の速さで王都に帰還を目指す。口数が極端に少ないのは砦失陥というだけではないだろう。

 特に最後のあれを見ていた中には既に心折られた奴もいると思う。ゲームとの違いをこんな形で実感するとは思わなかったよ。


 王城にたどり着いたのは深夜だった。負傷兵や遺体を運びながらなので時間がかかったのは確かだろう。途中魔獣の襲撃もあったしな。

 王城に着くや否や伯爵とグレルマン子爵が国王陛下と王太子殿下に急遽報告に行った。俺たちは解散するわけにもいかず、負傷者の手当てやら被害の確認やらでその日の夜を過ごす。

 そして到着の翌朝、現在王城で陛下や王太子、宰相以下大臣皆様勢揃いの中、フォグトさんと一緒に詳細な説明をさせられているところである。

 思い出したくないのに詳しく説明させるの勘弁してくれ。


 「以上になります」

 「ご苦労だった」


 ええほんと、精神的な苦労と疲労が半端ないです。二度としたくありません。

 聴いてた方もそれぞれ顔色に差はあるけど皆様顔色がよろしくありません。当たり前か。むしろ父が意外と冷静なのにびっくりだよ。


 「ヴェルナー卿、フォグト卿、二人は下がってよい。皆、まずはクナープ侯の死を悼もう」


 そうか、宮廷礼だから名前+卿でいいんだな。解っていても戦場帰り直後だと混乱しそうになる。王太子殿下がそう言ったのをこれ幸いとフォグトさんと一緒にその場を辞す。

 退室して頭を下げる直前、陛下以下大臣皆様が祈ってるのが閉まりかけた扉からちらりと見えた。シャンデール伯爵が同席してるのは今回の責任者だからだろうな。

 扉が閉まると頭を上げる。心なしか同情しているかのような衛兵を背に廊下をしばらく無言で歩いた。


 「胃が痛いです」

 「私もだよ」


 思わず愚痴をこぼすとフォグトさんが苦笑いしながら応じてくれる。実際、俺もどこかでまだゲームの世界だと楽観していたところがあったようだ。

 まさか序盤の名もなき中ボスからあそこまでインパクトある布告を叩きつけられるとは思ってもみなかったよ。

 ……名もなき中ボス、か。いわばモブだよな。俺と同じ。


 なんとなく仮説を検証しながら歩いていると、同じように何か考え込みながら歩いていたフォグトさんが唐突に話しかけてきた。口調が違う。


 「ヴェルナー卿」

 「何でしょう」

 「正直に申しまして、子爵の見識に感服いたしました」

 「はい?」


 え、一体何のこと?

 混乱している俺に構わずフォグトさんが知的な顔に敬意を表して話しかけてくる。なんか勘違いしてませんか。


 「お恥ずかしながら、頭のどこかで範囲型攻撃魔法対策など、急ぐ必要は無いのではないかと先日までは思っておりました」


 あー。それはちょっとわかる。王都の周りは魔法を使う魔物さえほとんど出てこないもんな。

 迷宮に入る冒険者は魔法を使う魔物とも遭遇した事はあるだろうが、一般レベルでいえば「魔法を使う敵かー、あぶないねー」のレベルだ。危機感を感じにくい。


 「ヴェリーザ砦での相手の魔法を見て、あの非道な行動をしてくる相手が範囲魔法を使うのであれば、その危険性は恐ろしいものがあると痛感しています」

 「相手が一体や二体ではないでしょうからね」


 あの黒魔導師だって中盤のダンジョンではランダムエンカウントする雑魚だ。あの程度腐るほど出てくるとさえいえる。


 「そして次は王城だと奴は言いました。範囲魔法対策が喫緊の課題であると認識させられました」

 「想像していたよりも深刻ですね」

 「その想像すらしていなかったのです、我々は」


 なるほど、そういう流れね。何に感心されていたのかをようやく理解した。俺が理解するのが一番遅いってのはどういう状況だとは思うが。


 「子爵の先見性がなければこれから研究を始める為の準備からになっていたでしょう」

 「臆病なだけですよ」


 これは本心。と言うかむしろ事実。死にたくないです。


 「臆病が知恵を生むという言葉もあります。その臆病さから目をそらさないだけでもご立派です」

 「やめてください」


 年長でしかも宮廷魔術師隊ってレベルの人にこんな言い方されると照れる。それにこれも俺自身の考えと言うよりゲーム中のイベント対策からの発想と言う方が正しいんだから。

 謙遜は文化じゃないはずなのに謙遜しなくてもと言わんばかりの目で見ないで。


 「いずれにしても、魔術師隊の総力を挙げて取り組む課題の一つになるでしょう」

 「フォグト」


 フォグトさんがそこまで言ったときに横から声がかかった。見ると宮廷魔術師の服を着た、フォグトさんとほぼ同年代の男性が立っている。

 外見はどっちかと言うと冷静エリート型と言うかインテリ型だな。メガネとか似合いそうな感じだ。


 「ピュックラーか。何かあったのか?」

 「ああ、意見を聴きたい」


 俺に一礼だけするとフォグトさんと話し出した。何やら専門用語が続いてるがさっぱりわからん。他にない系統の魔法波動? なんだそれ。


 「すみません、ヴェルナー卿。研究所に向かいますので、私はこちらで」

 「解りました。又いずれ。機会がありましたらよろしくお願い致します」

 「対範囲魔法の方の研究はお任せください」

 「ええ、お願いします」


 そう言うとフォグトさんとその場で別れた。あっちの二人は歩きながらまだ意見を言い合ってる。まあひとまず範囲魔法対策に本気になってくれるのならありがたい。俺はこの点他人を頼るしかないからな。

 王都の屋敷に戻っても父はいないし、今日これから学園って気分でもない。俺もちょっと考える事があるから寄り道していくか。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…


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