――34――
総合評価1,200人超え、ブックマークも240件超えました。投稿数日からは夢のような数字です。
また評価してくださった方も80人に達しました。
毎日評価やブクマが増えているのが本当に続きを書こうという意欲になります。
お読みくださっている皆様に心から感謝を!
多くの避難してきた人たち……労働者の方が多いが負傷して逃げてきた騎士や兵士もいる……を後送させながら俺は指示を飛ばし続けていた。
後送と一言で言うが、やっとのことで逃げて来て腰が抜けてたり負傷してこれ以上歩けないって人をそのままにしておくわけにはいかない。
大体、怪我をして痛みで唸ったり泣き言を言ってる負傷者が傍にいて、冷静なままでいられるのは人間としておかしい。士気にもかかわる。
そんなわけで動けない人間を安全な所に送り出すのだが、これが手間のかかる作業だ。中には鎧着てる騎士を抱えるんだから一人で一人を運べるわけじゃない。よくても二人、普通三人は必要になる。
その分搬送要員の手配もしなきゃならないし、だからと言って脱出支援をおろそかにもできない。忙しいんだよ。なんか偉そうなお坊ちゃんの相手なんかもっと偉い人に任せるのが一番だ。
脱出してくる人たちを支援し、交代して休みを取り、また交代して支援しを繰り返してるうちに結構な時間が経った。毎度のことだが喉が痛い。
前世の軍隊で軍曹クラスの人は声が低い人が多かったとか聞いた記憶があるが、単に声の出しすぎで声帯が太くなっただけじゃね?
それでもかなりの人数を後送し、脱出避難してくる人間の数が減ったあたりでオーゲンに問いかける。到着は深夜だったがなんかうっすら山の向こうが明るくなってきたな。
「どうだ?」
「そろそろ限界かと」
「だよなあ」
矢は消耗品である。今回は演習名目なのでそんなに多くの矢は持ってきていない。オーゲンの返答に頷くしかない俺である。フォグトさんを含む魔術師隊もそろそろ疲労が隠せなくなってきているし。
残念だがこのあたりが潮時だろうか、と考えた俺の視界、橋の向こう岸に別の影が映る。砦の内部の炎も鎮火しつつあるとは言えこっち側がより暗く、必然的に逆光になるため解るのはシルエットだけだが。あのローブ風シルエットはたしか……。
「げっ」
「ヴェルナー様?」
「全隊後退! 距離を取れ!」
こればっかりは説明してる暇がない。真っ先に走り出した俺に続いて全員が一斉に橋から遠ざかった。
皆疲労してきて思考力が低下しているせいもあるんだろうが、俺の声が相当切迫感を持っていたのもあったかも知れない。他隊からの応援も含め驚くほどスムーズだ。
その直後に轟音と共に橋のこちら側で大きな炎の渦が巻き起こった。爆風をもろに受けてひっくり返るやつもいる。俺の周囲から驚きの声や悲鳴に近い声も上がった。
「い、今のは?」
「魔法だ。皆無事か!?」
「大丈夫です!」
炎の魔法。そういえばヴェリーザ砦の二階から三階に上る階段前にいる中ボスはこの黒魔導師だった。こいつから範囲攻撃魔法を使いだすんだよな。
ユニット表示がないから珍しい敵とエンカウントしたなと思っていたら痛い目にあった記憶がよみがえる。ゲーム中のだが。
そんなゲーム知識を引っ張り出していた俺だったがさすがに次の展開は読めなかった。
「ほう。勘のいい奴もいるな」
「しゃべった……?」
周囲でざわざわと言う驚きが広がる。ああそうか、既に戦っているマゼルは知っているだろうが魔族の中には人語を話せる奴がいるのを知らないのも多いのか。
……まて。こいつ魔族なのか? ゲーム中の中ボスなだけじゃなくて?
内心で動揺している俺に気が付いた様子もなく、黒魔導師があざ笑うかのような口調で言葉を続ける。
「ここまで生き残った者たちにまだしばらくの命の猶予を与えるとのお言葉よ。四将軍が一人ドレアクス様のご厚意だ。急ぎ戻りこの集団の指揮官に伝えるがよい」
ああ、やっぱりボスはドレアクスか。確か
人間の反応や態度には興味がなかったのだろう。黒魔導師は一度砦の中を振り返ると、にたりと表現するしかない笑みを浮かべた。
「汝らに土産を与えるとの事である」
その声と共に、砦の中から複数の人影が歩み出す。いや、あれは人か? 一番右の影は片腕が無いしその隣の奴はなんだかふらふらと……うぐ。
「ど、胴体が……」
「あれ、乗っかってるだけ、だよな……」
そう、周囲の騎士たちやフォグトさんも気が付いたようだ。あれは胸板あたりで両断された人間の上半身が、動いている下半身に乗っけられているだけだと。
胸のあたりでふらふらしているのはバランスを崩すと上半身が落っこちそうになっているだけだ。グロテスクな手品みたいな光景だがスプラッタの方が絶対に近い。
そしてその一団中にクナープ侯爵もいた。いや、あったというべきか。少なくとも頭が半分しかないのにゆっくりこっちに歩いてくるのは不気味としか言いようがない。
それ以外の人影も生きてるやつはまずいない。切れた内臓引きずりながら腹半分なくして歩いてるとか人間には無理だろう。ずりずりと言う音がするのは上半身だけで這いずるように近づいて来る奴がいるからだ。例外なく虚ろな目がまるで俺たちを迎えに来た死の使いかと思わせる。
皆硬直したように動かない。動けない、の方が正しいか。近くで吐いている従卒がいるが咎める気にもならない。と言うか俺だって気分悪い。
「そう恐れるな。汝らの命は今しばらく猶予があると先程も申したであろう」
黒魔導師があざ笑うように俺たちに話しかける。聞こえているんだが理解できているのかどうか自分でもあまり自信はない。
そんな俺たちを尻目にクナープ侯たちの体は橋を渡り切り、俺たちの前までゆらゆらと力ない歩みを進めてきて、突然音を立ててその場に崩れ落ちた。血とそれ以外の臭いが鼻どころか全身にまとわりつく。
そのまま動くことはない。クナープ侯たちの体も、俺たちも。
「汝らの王にドレアクス様のお言葉を伝えるがよい。次は汝の城の番だとな」
それだけ言い残しローブ姿が砦の中に消えていく。敵がいなくなったにもかかわらず俺たちは呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
※敵のセリフは誤字ではないです。ヴェルナーはこの時うっかり聞き逃しました。
あんまりこういう伏線を説明するのもなんなんですが
誤字報告されたときに反応に困っちゃうので…
普通の誤字報告とかはとてもありがたいのですが、思わぬ問題もあるんだなと気が付きました。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。