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 マゼル・ハルティングは一言でいえばイケメンである。顔もそうだが、性格もいまどき珍しいぐらい裏が無いタイプのザ・主人公だ。その辺りも芸が無いとか言われた原因だろうけど。

 そんなマゼル、《勇者》スキル ――そう、スキルであってクラスではない―― の持ち主として特待生入学していたこいつにどう接するか、最初は悩んだ。

 一般庶民階層出身だが、この学園ではそれほど珍しくはないからそれは気にならない。そもそも俺だって中身は貴族なんぞから縁遠かった会社員だし。

 ただ、ゲームのストーリーを知っている以上、余計なことを言ってしまったりするのが怖かったのだ。


 だが結局、話しかけてしまった。きっかけがなんだったかはもう忘れた。


 話してみるとさすがは主人公と言うべきか、顔がいいだけでなくカリスマ性もあるし人柄もいい。誰とでもすぐに友好関係を築ける人柄だった。

 当初おとなしかったのは、出身が庶民である事を多少気にしていたらしく、貴族に自分から話しかけるのは控えていたつもりらしい。とてもそうは思えないぐらいコミュ力高かったが、まあいいだろう。

 そんな中で伯爵家の息子の方から話しかけてきてくれたのはありがたかったそうだ。


 何しろ立場が立場である。通常、庶民は自分のスキルを知る機会は乏しい。スキルを鑑定できる人材が少ないというのもあるし鑑定できる人間がいる教会には結構な額のお布施が必要だ。

 それがどういうわけか王家のお声がかりで鑑定を受けてスキル発見、特待生で学園入学と言う流れである。どうあったって奇異の目で見られる。

 神託があって勇者を探していた、なんてのは普通は公表されないしな。俺が知ってるのはゲームの知識だ。マゼルにしてみれば学園での自分の立ち位置に違和感を感じていたとしてもおかしくはなかっただろう。

 本人いわく自然にふるまうのも大変だったらしいが、いつもあんな感じなんで本当かどうかよくわからん。


 ちなみに勉強の方は普通にやっていたが、マゼルはどうやら一度聞いたことは忘れないという特殊能力の持ち主らしい。何それうらやましい。たまに歴史上に存在するリアルと言えばリアルな能力だが。

 俺の方は数学はともかく社会も外国語もこの世界のものなので一からやり直しと大差ない。理科(科学か?)の水準が低いのは魔法で代用しているところが多いからだろうがおかげで助かった。

 それに受験勉強の時に勉強するコツ自体は経験しているので普通の学生よりは効率が良かったしな。優等生の一角をキープできた程度にだが。


 と同時に、俺から見れば基本の能力も《勇者》と言うスキルも半端ない、としみじみ実感する相手ではあった。

 何せ《勇者》スキルはクラス×スキル+1の効果である。間違いではない。掛け算なのだ。加速度的に強さが上がっていく。主人公補正ありすぎ。

 結果、とにかくその実力差が半端ない。上級生どころか教師ですら油断すると負けるほどだ。そのくせ+1の効果であらゆる武器や魔法も最低限は使いこなせるんだからチートである。


 当然、多少のやっかみも受けていたようだが、本人のスルースキルとコミュ力のほかに、俺の存在も多少は役に立ったらしい。

 伯爵家出身ってだけではなく学年ではトップクラス、しかも努力を怠らない(死にたくないだけだが間違ってはいないな)奴が友人でいるのだ。家柄だけが自慢の連中はやりにくかっただろう。


 まあ俺もあまりにもひどい貴族の坊ちゃんがいたので、悪行の証拠もそろえて父経由で王室に訴え出たらそいつが廃嫡されていたなんて事をやらかしたこともある。

 国にしてみれば神託に顕れたという希少スキルの《勇者》持ちに逃げられでもしたら困るだろうし、訴え出たのが伯爵家嫡子なのだから放置もできない。ちゃんとした調査の結果だ。

 ちなみに逆恨みで更にやらかしてきたそいつと取り巻きどもをマゼルと二人でボコボコにしたときはさすがにやりすぎだと二人とも謹慎を食らった。


 ゲームの知識がある俺自身は、数年後に魔王による侵攻が始まり、この世界が乱れる事は知っている。そして、俺が勇者パーティーの一員になるにはあらゆる意味で実力が足りないという事も解っている。

 あくまでも評価されていたのは同年代、学園内でのレベルだ。


 だが、ゲーム世界であってもゲームではない、この世界で生きる人間として、私生活での人間関係が無いわけではない。

 学友一同と港町まで小旅行、俺自身はゲームと現実の地理の差を確認する目的もあったが、ともかく揃って旅もしたし、試験前には皆で集まって対策勉強もした。

 貴族のたしなみとしての狩猟にマゼルを参加させたこともあるし、学生仲間数人で祭りの時には屋台メシの梯子もした。

 マゼルの故郷は辺境……もとい、王都からは遠かったので行く機会はなかったが。


 課外活動でモンスターと戦う実技の時はパーティーを組んだし、寮を抜け出して酒を飲んだ事もある。魔法のある世界だ。教師が気が付かなかったとは思えないのだが、そのぐらいは黙認してくれていたのだろう。

 同窓生として、良き友人グループの一員として過ごした期間だ。

 命がかかっているとは言っても適度に息抜きしないと焼き切れるのは前世でも経験がある。ような気がする。……俺引きこもりだったのだろうか?


 とはいえモブはモブである。その自覚は常にある。イベントで、サイズの大きなモンスターユニットにべしっと戦闘シーンもなしで消されるユニットなのが関の山だ。

 それが解っているので、あの王都襲撃イベント前に少しでも実力をつけておこうとマゼルに必死でくらいついて行った。

 努力を忘れない貴族の若者、と言う事で学園から王家の方にも一度名前が伝わったらしい。両親が自慢げだった。


 だが、そんな鍛錬と学生生活を両立させていた中で、忘れたかったけど忘れるわけにいかない、恐れていたイベントが発生する。

 ……ゲームスタートだ。

この一言を書かないといらないと思われるらしいので…


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