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それぞれありがとうございますー!
ランキングに乗ったためか急にブクマが増えたので驚いていますが嬉しいですっ。
商隊出発に立ち会ったり、王太子との打ち合わせしたりであわただしく二週間が過ぎた。俺個人の訓練もそうだが伯爵家の騎士や従卒に集団戦を訓練するのも増えた。
その間大きなニュースは遠方の国にある町スブルリッツの陥落だろう。魔軍の侵攻が確固たる形で伝わったことで逆に魔王復活を公表できるようになったわけだ。
ゲームだとスブルリッツは死霊の町になってるんだよな。お約束で秘宝が隠されているんだが。滅ぼすだけで家探ししない魔軍も相当に抜けてると思う。
その辺の
俺としては魔王復活が公表されて急ピッチでの改修作業が行われているヴェリーザ砦からの人員脱出・救出計画とその後の展開を考えるので実のところ手一杯だ。
そして実はその脱出救出計画で頭を抱えている。半分は俺のせいじゃないと思いたい。
「要するに一番の問題はクナープ侯だってことだよなあ……」
オリヴァー・ハインリヒ・クナープ。少なくとも弱い者には寛大な立派な侯爵だ。ただどちらかと言うと脳筋で政治家肌ではない。そして厄介なことに俺の父とは敵対派閥。
魔王復活が発表されてからヴェリーザ砦の改修責任者として新しく任命され、騎士と兵士と労働者を率いて指揮を執っている。王都にいるんじゃなくて現場に行っているあたり真面目でもあるんだろう。
ただ、敵対派閥の息子で年齢的には若造となると、そんな奴の言う事なんか欠片も聞く耳持ちゃしないってタイプなんでどうにも打てる手に限界がある。
現状では俺からのアプローチは王太子経由の助言ぐらいしかできん。それもちょくちょくだと疑われるし。
まあしょうがない。ヴェリーザ砦の陥落はむしろ起きてもらわんと困る。クナープ侯本人には恨みはないがこの際失敗者となってもらおう。
ただ改修業務に従事している労働者や警備の騎士は可能な限り何とかしたいところだ。
ない知恵を絞りつつ改修状況を確認する。幸か不幸か真面目な人柄ではあるので王都には進捗情報が確実に届く。計画の大体九割を終えたらしい。
ゲームのヴェリーザ砦はどこか工事中って感じじゃなかったから完成とほぼ同時ぐらいが怪しいか。そういえばゲームのマップだとあの砦にトイレってなかったな。そんなところだけ中世だったんだろうか。やだなあ。
そんなことを考えながらも改修終了までの工数を逆算する。来週には終わると言う事をほぼ確信して王太子殿下にお願いをしに行った。
「演習?」
「はい、集団戦の実践演習をしたいのです」
怪訝な顔の王太子に笑顔で応じる。今日もあの執事さんあそこに立ってるな。無言で怖いよ。
とは言え変に気にしてる方がおかしい。この世界の貴族は大体こんなもの。スマイル〇円で王太子殿下にお願いを続ける。
「もちろん、それだけが理由ではないのですが」
「ヴェリーザ砦の件か。侯爵にも襲撃の可能性は警告してあるが」
「ありがとうございます。侯爵がどこまで本気にしていたのかをお伺いしても?」
「話半分という所だな」
まあそんなところだろうなあ。非礼にならないように気を付けつつもため息が出る。肩をすくめそうになったのは何とか隠せた。
「それで卿は何を提案する気だ?」
何度も話をしているのですぐに本来の目的に話が移る。しかしさすがは王太子と言うか、この人と話をしているとこの件以外でも次々と話を先回りしてくる。頭の回転が半端なく速い。
まあ立場的かつ年齢的にはそのくらいで当然なのかもしれんが。暴走王族なんて物語だけ……あー、アンゲロス王朝の諸王とか皇帝だが新の王莽とか宋の徽宗とかいるにはいるのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「率直に申し上げまして、改装中の段階で魔軍の襲来でもあれば全軍が崩れるでしょう」
「騎士や兵士ならともかく庶民の労働者では耐えられまいな」
王太子も頷く。パニックに巻き込まれるのは人間心理だ。だいたい労働者の方が多いのだから兵士が巻き込まれるのは当然だが。ただそうなると被害が大きくなる。
「最善なのは砦付近に兵力がいる事で砦が攻撃されない事。次善は砦が攻撃されて内部で混乱が生じたときに脱出してきた者を避難させられること」
「砦の救助には行かないと?」
「もし魔軍襲撃で混乱している状況になっていたらとても抑えられる自信はありません」
「確かにな。私にもない」
正確に言えばできてたまるかと言うのが本心。パニック中の人間は脳が逃げる事に全力を傾けてるんで余計な情報が入ってこなくなるんだよ。
止まれとか踏みとどまって戦えなんて言う声がパニック中の相手には聞こえるはずがない。避難誘導に全力を傾ける方が正しいだろう。
どうでもいいがそういうときでも逃げる為に必要な声とか情報って脳が認識するんだよな。人間の脳の超能力と言うべきか?
まあ、その情報が正しいかどうかっていうとまた別なんだが。こっちだ、って声だけ認識してついて行ったら行き止まりだったとかな。思考の輪が逸れた。
「また、ヴェリーザ砦から脱出したとしても王都まで逃げる際に他の魔物に襲撃されて命を落とす危険性があります」
「兵士とは異なるからな」
ゲームだとなぜかそういう人たちって襲撃されないで無事避難に成功するんだよなあ。本当に謎だ。
「もちろん、逆に砦の外にいる軍が襲われる可能性もありますが」
「その場合はヴェリーザ砦の軍との連携はどうする」
「戦闘訓練に編成する軍ですので多少は独力でも耐えられるでしょう。砦の軍が援軍に来てくれれば言う事はありませんが」
「ふむ。労働者のいない戦闘部隊だけの軍ならそう簡単に崩れはしないか」
「そうありたいものです」
唯一怖いのは魔軍が両面作戦を展開してきた時だが、それはないんじゃないかと言う気がする。人間の国に対する威圧を兼ねて砦の制圧を優先するだろう。
砦の軍を全滅させた後にこっちを襲いに来る可能性はあるが。俺はその前に可能な限りの人数を助けて逃げるつもりだ。
「ヴェリーザ砦が襲撃されないに越したことはありませんが、もし襲撃があるなら今が一番危険であると考えます」
「なるほど。納得できる。そのための“演習”か。だが砦が改修終了の後に襲撃される可能性は?」
「あり得るかもしれませんが、それならそれで砦側が抵抗できる状態にはなっているかと」
モブの兵士や騎士だと魔軍が攻めてきたら耐えられないんじゃないかと言う気がしなくもないけど。と言うかゲームじゃ実際に攻め落とされてるし。
ただ非戦闘員がいなければ状況も少しは変わるだろう。何より非戦闘員の被害はなるべく減らしたいのも本音。
「ふむ。魔軍から見れば完成して兵まで籠めた砦を攻め落とす方が我々に威圧を与える効果があると考えるかもしれんな」
「その際には演習は無駄な行動になりますが、今回労働者に被害が出なかったことを喜ぶべきです。一度に何もかもを求めるのは無理かと」
「確かにな。砦が落とされた場合の民衆の声が怖いが」
そりゃ確かに怖い。特に為政者には。その一方でまだどこかに魔軍を軽んじているような空気があるのも事実なんだよな。王太子殿下やラウラはともかく王宮の貴族には特に。
国を挙げて本気で取り組んでもらうための荒療治と割り切る。犠牲者を考えると胃が痛い。けど軽く見てるうちに泥沼になる方がもっと怖い。その方が被害も増えるし。
「それでも労働者も騎士も揃って全滅、よりはましかと存じます」
「攻め落とされぬのが一番だが次善を準備する余地も必要か」
そのための演習と言う名の遊撃兵力展開である。もっとも俺の中では避難してくる人の救助が最優先だ。砦の失陥はしょうがないとさえ思おう。
襲撃があっても援軍は多分無理、と王太子殿下にもここで了承の言質を取れたしな。
「そのうえでご相談なのですが」
「聴こう」
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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