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――18(◎)――

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ありがとうございます(平伏)

 「で、どうであった」

 「裏も表もない友人だと。少なくとも表向きはそのように言っておりました」


 国王、マクシミリアン・ライニシュ・ヴァイス・ヴァインツィアールは私室で国政の休憩時間に息子の報告を聴いて顎に手を当てた。


 「伯爵の入れ知恵は?」

 「まずないかと。友人でいたいという意志に嘘は感じませんでした」

 「ふむ。すると一応は信じても良いか」


 魔王復活に関しては態度保留であったが、それ以外の面で以前から王家として《勇者》と言うレアスキルの保持者の存在は注視されていた。

 そのレアスキルの存在に価値を見出した王家側が改めて調査報告を出した際に、親しい友人の中にツェアフェルト伯爵家の嫡男もいたのである。

 むろんそれ以外の貴族家にも調査をかけていたが、怪しい企みのありそうな相手には先に釘を打つなり相応の態度に出たりと黙らせていた。


 そこに降ってわいた魔王復活騒動。

 《勇者》の価値の変化と共に、今すぐに王家が全面協力するというわけにもいかない政治的な状況に対し、ヴェルナーは有効な駒である。


 「自家に取り込む気が無いのなら取次としては有益であろう」

 「私もそう思います。貴族としては賢くはありませんが」

 「その評価の割には機嫌が良いな」


 珍しく父王の不思議そうな表情に、王太子は笑って応じる。


 「息子(ルーウェン)より少しだけ年上で爵位も申し分なく、欲深くないようですし将才はある。側近候補としては悪くないと思います」

 「ふむ」


 国王は顎に手を当てて考えこんだ。三十八歳の王太子がいるように国王は高齢である。それだけに可能であれば孫には優秀な補佐をつけておいてやりたい。

 勇者はもちろん候補の一人であるが、それとは別に代々の貴族で優秀ならその選択肢は悪いものではないだろう。メッセンジャーで済ますには惜しいともいえる。


 「なるほど。しばらく様子を見てみるとよかろう」

 「はい」

 「それと、魔王復活の件だが」

 「はっきりとした事実が無いと公表した時点でパニックが起きましょう」

 「余も同感だ。念入りに調査を進めよ。それと念のためヴェリーザ砦の改修を進める」

 「御意」


 ヴェリーザ砦は国境に接していないため半ば放置されていたが、王都に万一のことがあった時の援兵や逆に王都からの脱出先ともなる拠点である。

 奇妙な魔物暴走を原因とするにはそのぐらいが打てる手であった。


 「騎士団の負傷者分の再編と民兵の戦力確認は進めておけ。うまくやるように」

 「かしこまりました」


 王と王太子は準備を進める。だが危機感に温度差があったことは否めない。二人から見れば当然ながら勇者個人に対する評価もまだ高くはなかった。




 「兄が大変失礼いたしました」

 「いや本当に気にしておりませんので」


 王太子殿下が先に席を外した後、こうやってラウラに頭を下げられると慌てるしかない。別に非礼だと思ってもいないしな。

 しかし腰の低い王女様だこと。ゲーム中もそう思っていたが実際に目の前でこの王族オーラでぺこぺこ頭下げるのはやめてほしい。


 「えっと……?」


 マゼルが困惑した表情を浮かべている。そりゃそうか。だが王太子が勇者を独り占めする気がないかどうか試してたんだ、なんて正直に言う必要もないだろう。

 いやむしろこれは微妙にチャンスか?


 「ところで少々レストルーム(トイレ)に失礼。マゼル、あと頼むわ」

 「へっ!?」


 おお、マゼルのこんな声は貴重だな。だが無視してラウラにもう一度頭を下げると早々にその場から戦略的撤退を開始する。

 周囲でそれとなく見張ってる騎士やメイドからは王女様に頭下げさせてるのから逃げたように見えただろう。

 いやそれも間違ってはいないんだが、主目的は主人公(マゼル)お姫様(ラウラ)の交流を進めさせたいってのがある。なんかゲームとシナリオが変わってるが、あの二人がお似合いなのは確かだしな。


 近くにいるメイドさんにトイレまでの案内を頼む。別におかしくないってか一人で変なところに入り込む気はありません的なアピールだ。こういう配慮しなきゃいけないのはほんと面倒臭い。

 ちなみに本物の欧州中世と違ってこの世界は風呂とトイレ完備である。ありがたい。ゲームでトイレまで表現されていた記憶はないので上下水道がしっかりしてるのかは謎だ。

 もっとも魔法がある世界で水道がない方が変と言えば変か。水は生きていくのに重要だし無から有を作り出せる魔法があるなら当然研究するだろうな。

 中世西欧でトイレがなかったのはだいたい教会のせいだし。風呂どころか生涯水浴びさえしたことがないことを自慢する文化とか元日本人から見れば変態以外の何物でもないわ。


 しかし本当に宮殿だな。まあ“外観は質素に、内装を豪華絢爛に心の豊かさとして表す”のカトリック系の宮殿ではあるが。

 シャンデリアに白亜の壁にセンスのいい金の飾りとガラス……そうだった、この世界だとガラスは貴重品なんだよな。マゼルが学園のガラスに驚いてたっけ。

 ここが全部廃墟になるのかと思うともったいないと思う。だからと言って何ができるわけでもないけど。

 そんなことを考えてるとふいに前を歩いていたメイドさんが振り向いた。


 「突然ですが、失礼をお許しください、ツェアフェルト子爵」

 「は、はい?」


 さすがに王宮のメイドさんだけあって美人だわとかさっき思っていた人に突然呼びかけられて多少挙動不審な返答になってしまう。

 だが次の行動には本気で困惑した。メイドさんがいきなり頭下げたのだ。


 「子爵には心から御礼申し上げます」

 「は? いえ、あの、お礼を言われるようなことを?」


 何かしたか、俺? 

 困惑しまくりの俺に頭を一度上げてメイドさんが説明する。


 「私の父と兄は騎士団に所属しているのです。子爵が魔物の罠を見破ってくださったとお伺いいたしました。もし子爵がいらっしゃらなければ二人とも戦死していたかもしれません」

 「あー……」


 絶句するしかない。そりゃそうだ。当然そういう人もいるよな。

 まさか自分が死にたくないだけでしたと言うこともできず、あいまいな反応で沈黙してしまう。

 その反応をどう思ったのか、メイドさんはもう一度頭を下げる。


 「このような廊下で立ち話など非礼だと承知しております。ですが、一言どうしてもお礼を申し上げたかったのです」

 「え、いえ、どういたしまして」


 なんか変な返答になってしまった。いや、よく返事できたと自分をほめてやりたい。明日には多分もっとうまい言い回しはなかったのかと自己嫌悪に陥りそうな気がするが。


 「失礼いたしました。それでは、こちらにどうぞ」


 そういってメイドさんはもう一度案内に戻る。俺はと言えばまだ動揺が抑えきれない。綺麗な人に感謝されたからではない。

 俺にとってはここはゲームの世界でしかなかったが、確かにこの世界で生きている人がいて、この世界の人間関係があるのだ。

 わかっていたつもりだがこうして俺の意図しないところに助けられた人がいて、しかもそのことを助けた人以外から感謝されてしまうと……困る。

 ゲームだから、でこの人たちを切り捨ててよいのだろうか。いや、本当にこの世界は俺の知るゲームなのか?


 俺は戦闘力では勇者マゼルの足元にも及ばないだろう。チート能力はない。

 だけど、ゲームでの知識はある。貴族として一般人より恵まれた立ち位置でもある。何もできないわけじゃないはずだ。


 当面の目的に『自分が死なない』のほかに付けたしても……いいよな。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…


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