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ブクマしてくださっている方も20件超えました(感謝)。
お読みくださっている皆様ありがとうございます。
おっかなびっくりと言う表現が近いだろう。けど王太子殿下からお招きいただいたのにはいさよならってわけにもいかない。
と言うわけで俺は腰が引けた状態で椅子に座るというなかなか情けない有様を示していた。マゼルはと言うと変に自然体である。これも主人公補正だろうか。
しかし王太子殿下とその妹の第二王女でメインヒロイン、勇者で主人公と一緒にテーブル囲んでいるとか、場違い感が半端ない。
と思うのは俺がゲームだと知ってるからで、世間一般だとマゼルの方が場違いなのか。俺は一応爵位持ちの貴族だからな。
知っている? 俺は自分の考えに引っかかった。ただ何に引っかかったのかが良くわからん。と言うか今は考えが纏まらない。そもそも王太子殿下の前で物思いに浸るわけにもいかんしな。
「今回は二人に助けられたな。礼を言う」
「いえ、偶然にも助けられましたので」
「自分ひとりの力ではないと思っております」
ヒュベル殿下が軽く頭を下げる。胃が痛くなるからやめてほしい。マゼルも俺も多少慌てて答える羽目になった。とりあえず話をそらす事にする。
「王女殿下が……」
「この場では宮廷礼は不要です。名で呼んでも咎めたりはしませんよ」
「あ、いえ、ですが……」
「構いません」
これで親しくなると笑顔で片目つぶって「ラウラでいいです。呼ぶの大変じゃないですか」とか言ってくるんだがそれは勇者が言われるセリフ。
とりあえず俺は一度ヒュベル殿下の方を見て頷かれたんでそう呼ぶことにする。しかし兄妹のはずが年齢的に親娘にしか見えないなこの二人。
「ラウラ殿下が王宮におられるとは思いませんでした。てっきりフィノイの大神殿にいらっしゃるのかと」
「良く知っているな」
「父から耳にしておりました」
「典礼大臣だったな。それなら知っていてもおかしくはないか」
ラウラより先にヒュベル殿下が応じる。実際はゲームで知ってるんだけどな。
フィノイの大神殿が三将軍の一人に襲撃され、大神殿にいたラウラと襲撃の情報を聞いて駆け付けたマゼルが顔を合わせる事になる、はずなんだよなあ。もうここで顔見知りになってるじゃん。どうなってるんだか。
なお王家挙げて神を崇める儀式の内、祈りの部分は神殿の役目だがそれまでの下準備は典礼大臣の担当である。なのでこの言い訳はさほど違和感はない。
「ラウラは神託を受けてそのことを伝えに戻ってきたのだ」
「神託ですか」
「魔王が復活したらしい」
茶を噴出さなかった俺を褒めてくれ。と言うかそれ重要情報ですよね?
「事実なのですか」
マゼルが真顔になって質問する。この世界で魔王なんか御伽噺の中だけの話だもんな。笑い出してもおかしくないがまず空気が冗談を言っている空気ではないし相手が相手だ。真顔で問うしかないか。
ヒュベル殿下の反応は慎重だった。
「神託があったことは事実だ。復活が事実かどうかは情報が足りない」
半信半疑ではなく六信四疑から七信三疑と言う感じか。ラウラが口をはさむ。
「あまり知られていませんが、神託にも段階があるのです。と言っても神託を受けられる人にしかわからないのですが」
歴代最高クラスの聖女って設定だったなラウラ。だから魔族の襲撃対象になっちゃうわけだが。と言うかそんなVIPなら警備しっかりしておけと言いたい。ゲームあるあるな話だけど。
「今回の神託は非常に重要性の高いものでした。その為、私が直接父王陛下にお伝えしようと戻ったのです」
「なるほど」
そこまでの理屈は分かった。国王が信じたかどうかは解らないが、異常な魔物暴走に遭遇しているヒュベル殿下はある程度信憑性を感じたんだろうな。解らんのは俺とマゼルがそれを聞いていい理由だ。
そう思っていたら疑問が顔に出ていたのかもしれん。ラウラが言葉を続けた。
「その神託の中で勇者が今後非常に重要な立場になるともあり、一度お目にかかりたいと思ってはおりました」
あーそういうことね。ゲームでもこの神託そのものは王に伝わっていたんだろう。だから勇者マゼルがお使い……もとい魔王討伐の旅に出る事になるわけだ。
普通スキルがあるかないかは神殿で鑑定するしかないが、これも結構カネがかかる。まあ神殿も霞食って生きてるわけにはいかないしな。
だから庶民レベルだとスキルを知らないまま一生を終える事も多い。スキルが無くてもクラスレベルを上げていけば生活には不自由しないレベルの技術は身に付くし。
マゼルは国のお声がかりで鑑定して王都の学園に特待生待遇で入学してるしな。その裏に勇者が重要って神託があったってとこか。
すると今回は魔王復活の神託に信憑性を感じてるヒュベル殿下がこの会談の場をセッティングしたわけだな。いい機会だとでも思ったのか。だがそうすると。
「勇者……マゼルの事は理解しましたが、私がここにいる理由はなんでしょうか」
そう、俺はなんでここにいるの? って問題だ。
その質問にヒュベル殿下が答える。
「端的に言わせてもらうと、ヴェルナー卿には窓口かつ壁役になってもらいたい」
「窓口かつ壁役?」
ますますわから……ああ、窓口ってそういう事か。
「まだ公表は出来ないし、庶民のマゼルをちょくちょく王家が呼ぶわけにいかないという事ですか」
「察しが良くて助かる」
王太子戦死なんて大事件の直後なら魔王復活も説得力があるし勇者を王が呼び出したり直接話を聞いてもいいだろう。だが現状はそうじゃない。
一方で魔王復活が事実だったら大騒ぎだ。事実だと知ってるのは現時点で俺ぐらいだろうしな。公表判断を慎重に行わなきゃいけないのは理解できる。
そうなると魔王復活と関係もないのに王家がマゼルを毎度呼び出すわけにもいかないし理由もなく王城の城門をくぐらせるわけにもいかない。
その点、まがりなりにも子爵扱いの俺なら城内に入るのも問題はないわけだ。窓口と言うよりメッセンジャーだな。
「壁役と言うのは?」
マゼルが不思議そうに口を開く。俺が答えるべきだろうな。
「さっきみたいにマゼルを抱え込もうとしている他の貴族からかばうのが仕事ってこと」
貴族に抱え込まれると王家としては面倒なんだろう。魔王復活公表後なら強権発動も出来るかもしれないが、公表までは勇者を駆り出す為に貴族と交渉しなきゃならなくなる。
ぐだぐだ交渉に引きずられると時期を失うかもしれないと言う程度には危惧してるわけだな。
「何ならマゼル君をヴェルナー卿の部下と言う事にしても構わないと思うが」
「勘弁してください」
ヒュベル殿下の発言をきっぱり拒絶する。そんなことしたらややこしい事にしかならん。と言うかいくら勇者であっても子爵にしろ伯爵にしろ、一貴族の部下と王女……目の前のラウラが仲良くなるとか、騒動の元にしかならんわ。
ゲームのストーリー的にも貴族的保身のためにもこんな話は打ち消しておかないといけない。
「私とマゼルは友人です。上下関係はありません」
俺とか言いかけた。やべえやべえ。
「王家のご指示には当然従いますし、マゼルへの協力も惜しむつもりはありませんが、上司と部下とかそういう関係になる気はありません」
「形だけの上下関係と言う選択肢もあるだろう。私にも友人がいる」
「それでもです」
形だけじゃ済まなくなるんだよ、絶対に。ええ。王太子殿下は俺が妹さんの恋人の主とかになった時どう扱う人ですかね。
と言うか変にしつこいな……ああ、そういう事か。怖いから余計な騒動のタネは蒔かれる前に磨り潰して下水に捨てておく。
「解った。だがマゼル君の王都における活動のサポートは君に頼みたい」
「それは謹んで承ります」
本音を言えばそれも避けたいんだがそこまで断るといろいろ問題が。うん、王太子殿下のご希望を全部蹴飛ばすと今後どうなるかわからなくてね?
ゲームのシナリオからはだいぶ離れてるしな。ほどほどに行動の自由を確保しつつ身の安全を最優先に考えよう。
一緒に冒険に出ろと言われたわけじゃなく貴族の地位でのサポートだからな。その位なら何とかなるだろう。
それにしても想定外の状況だわ。実際はゲームでも勇者に国からサポートがあったりは……ないな。
魔王討伐に出るのに店で売ってる最高の鎧も買えない程度のはした金で旅立たせるゲームの王様はひでぇサドだと思う。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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